チャンスの神様には前髪しかない
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:あさひゆうこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「走って! 走って! 走って!」
インストラクターの掛け声に足を踏み出すと、私はあっという間に空に浮かんでいた。
足元には、さっき乗ってきた登山電車やツェルマットの街並みが小さく見える。
それは、私が発したある一言から始まった。
私は、海外のハイキングに詳しい知人S氏に通訳兼ガイドを頼み、友達と一緒に、スイスのツェルマットにハイキングに来ていた。1週間アパートに滞在し、毎日ハイキングをする。
ハイキング1日目。とても良い天気で、目の前にはマッターホルンが聳え立っていた。そしてそのマッターホーンを背景に、たくさんのパラグライダーが飛んでいた。
「わーすごいね、あんなの飛んでるよ!!」
言っておくが、決して「やりたい」という意味ではなかった。
しかし、
「やってみませんか? 僕、やったことありますよ。興味あるなら、絶対やったほうがいですよ。アパートの1階にお店があります。行ってみましょう!」
と、なにやら積極的なS氏。
私は興味はあるものの、まさか自分でやるとは思ってなかったので、
え? いや……、と躊躇していた。
「まあ、話だけ聞きに行きましょう」
と言って、S氏はスタスタと話を聞きに行ってしまった。
明日の10:30が空いてるそうです。
15分間飛ぶそうです。
料金は20,000円弱、写真と動画が欲しければプラス5,000円くらいです。
どうします?
1回やってみたら面白いですよ。
今日の夕方5時半までに申し込めば、明日飛べます。
とたたみかける。
え? どうしよう……。
友達は吊り橋も渡れないほどの高所恐怖症なので、とんでもございません、という態度。
なのに「せっかくだからやってみれば? ふふ」などと茶化す。
まあ、5時半までまだ時間がありますから、考えてみてください。でも絶対おススメですよ。
と言いながら、店を出てきた。
それからの私は、なんだか落ち着かない。
どうしようどうしよう……。
つまり、興味がないわけではないのだ。
ちょっとやってみたい気がする。
じゃあ、なんで躊躇するの?
え? だって、安全なの?
安全に決まってるじゃん、落ちたらインストラクターだって死んじゃうんだよ。
大丈夫かな?
怖いな。
20,000円って高いよね。
でも、チャンスだよね。
マッターホルンを背景にパラグライダーで飛ぶ日本人のおばさんなんてそういないよね。
え?? そこ?
やりたくないの? なら、やめれば。
いや、やらなかったら後悔しそう。
じゃあ、やれば?
でも……。
いやいや、やりたくないわけじゃないのよ。
頭の中がグルグルする。
ふー!! っと大きなため息をついた。
「チャンスの神様には、前髪しかないっていうことば、知ってますか?」
「チャンスの神様の前髪しかなく、前髪が見えているうちしか、チャンスはつかめないんですよ。ほんの少しでも通り過ぎたら、もう2度とそのチャンスはつかめないんです。」
S氏が私をチラッと見て言った。
その瞬間、これまでの人生で、どれだけチャンスの神様の前髪をただただ見送ってきたことか。いろいろな出来事が頭に浮かび、悔しい思いが一気に噴き出てきた。あれも、あれも、あれも……。
私は、飛ぶことにした。
「Hi!! Good morning!!」
インストラクターは男性で、めちゃめちゃ明るい。
「Let’go !!」
登山電車に乗る。マッターホルンは見えてはいるが、山頂は雲の中。青空も見えるが、雲もかなり出ている。風が強いように感じる。
インストラクターとS氏が話している。
「出発地点に行って、風の様子を見て、ダメなら飛ばないそうです」
「えっ!!!」
急に緊張して、喉がカラカラになってきた。
心臓が音を立て鳴っている。
駅を降りる。
インストラクターは大股でずんずん歩く。
出発地点の広場に着くと、インストラクターはじゃんじゃんパラグライダーを開いて準備を進める。
空を仰ぎ「perfect !!!」と私を見てにっこりする。
ガチャン、ガチャン、
カラビナで、インストラクターと私が固定された。
神様……。
「走って! 走って! 走って!」
インストラクターの掛け声に足を踏み出すと、あっと今に空に浮かんでいた。
思わず声が出た
「うわぁ~~~~~~!!」
私の声が空に響く
足元には、さっき乗ってきた登山電車やツェルマットの街並みが小さく見える。
左手にはマッターホルンやほかのアルプスの山々が目の高さに見える。
眼下に緑色の水をたたえたダム湖が見えてきた。
山の中腹に山小屋レストランが見える。
一面に森が広がる。
気持ちいい。
気持ちいい。
がけっぷちギリギリを通る。
がけに向かって飛ぶ。
ぶつかる寸前で旋回してまた空へ出る。
「ひゃ~~~」
気が付くと、高度はもうかなり下がっていて、着地点の広場が見えていた。
「足を延ばして」
スーとんとんとん、と着地した。
この瞬間、私の人生は、間違いなく変わった。
新しい扉を開けたのだ。
それほどの出来事だった。
チャンスの神様には前髪しかない。
***
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