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「はじめてのおつかい」を見て泣く4歳の娘


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:安平 章吾(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ド〜レミファ、ソラシ〜ド〜」
「はじめてのおつかい」が始まった。
 
妻がこの番組を気に入っていることもあり、必ず録画した上で、出来るだけ放送時間に家族で見るようにしていた。
 
妻は毎回録画を含めて何度も繰り返して見るほどハマっているが、私はどちらかと言えばこの番組が苦手だった。
 
他人の家族、しかも子どもを1人で買い物させて、帰ってきたときに感動を呼ばせる構成が気に食わなかった。
 
また、1人で買い物が行くことができる子しか出演していない上に、周りにはスタッフがいて危険な目に合わないようにフォローしている。
どうしてもこの番組を見ると、制作背景が気になって、真剣にしかも感情を入れては見ることができなかった。
 
周りに関係者を固めて、「感動」という決められた感情をセットされた上で、必ず出てくる道中での困難、少し失敗するが必ず家に帰ってくる、この感動のワンパターンを見て何がおもしろいのだろう。
 
そう思い、この番組が与えてくる「感動の押し付け」とも言える構成が私には受け入れ難かった。
 
しかし、今回の放送で、番組に対する想いが若干変化することになった。
 
19時になると、いつもどおりのテーマソングがテレビから流れてくる。
 
「録画して、このままチャンネル変えないでよ!」
 
お風呂の準備をしている妻が、大きい声で私に言う。
 
「はいはい」
 
そう言って、私はいつも諦めてスマートフォンを片手に時間をつぶすようにしていた。
 
ただ、4歳の娘と2歳の息子がいるため、ずっとスマートフォンを見ているわけにはいかず、一緒にテレビがある居間で遊ぶことにした。
 
「きゅうきゅーしゃー、ぶーん!」
 
息子はいつものように、車を持って私の体を道路に見立て、車を走らせる。
娘もいつも息子と一緒になって私の体で車を走らせるのだが、今回は静かにテレビを見ていた。
 
「何かビデオ見たいの?」
 
いつも遊ぶのに飽きると、アンパンマンか機関車トーマスを見たいとワガママが始まるので、今回もそれかと思った。
 
「これ、みたい」
娘は「はじめてのおつかい」を指さして言った。
 
「おもしろくないで、それ」
 
4歳の娘に対して大人の心の汚さを伝えたようで、少し罰が悪く感じたが、私は心の底からの気持ちを娘に伝えた。
 
「いいの!」
娘は強く否定し、テレビの前で正座して食い入るように見ていた。
 
妻は入浴中だったため、子どもの世話を1人見なくて良くなるから楽ができると思い、「はじめてのおつかい」に甘えることにした。
 
しかし、10分ほど経ったとき、娘が急に泣き始めた。さっきまで正座して私の方には見向きもしなかった娘が、うつむきに寝て泣きじゃくっていた。
 
私は慌てた。
「どうしたん! お腹痛いか!? 何か怪我したんか!?」
 
その声で妻もお風呂からあがり、着替えも途中で飛んできてくれた。
 
娘は話せないほどに大泣きで、何を聞いても首を横に振る。
 
どうやら体調は悪くないだったが、4歳になってからこれほど泣いたことがあまりなかったので、体に異変が出てきたのではないかと思った。
 
それから同じく10分ほどは娘が話せない状態だったので、落ち着くまでは抱っこして待った。
 
泣き止んだときに、娘に聞いた。
 
「どうしたの?」
 
妻が優しく問いかける。
 
「あの子、良かったなぁ」
 
娘は黙ってテレビを指さしていた。
テレビは21時からの違う番組が流れていた。
 
私と妻は娘の言うことが理解できず、顔を見合わせた。もう一度同じ質問をする。
 
「何で泣いていたの?」
 
娘は正確に答えた。
 
「はじめてのおつかい。お母さんがな、病院におってな。4歳の子が1人でバスに乗ってな。お母さんのところに行ってな。ちゃんと泣かんかったやん。みんな良ばっばぁぁぁ」
 
思い出したのか、最後まで話せずにまた娘は大泣きした。反対に私と妻は大笑いした。息子は大泣きする娘の頭を撫でて、「よしよし」と言っている。
 
「本当に良かったねぇ」
 
私と妻は娘に何もなかったこと、また、娘が他人の行動に感動してくれるようにまで成長してくれたことの2つの意味を込めて言った。
 
「心のきれいな人には、ちゃんとした形で見れるんだな」
 
大泣きしている子どもを見て、私はすこし反省した。社会に出て働くようになってから、人を疑うことが増え、すぐに裏側を探るようになっていた姿勢を改めるよう、子どもの様子から悟った。
 
「またこれ見たい」
 
泣き止んだ娘が私に言ってきた。
 
「みんなで一緒に見ようか」
 
私は家族全員に言った。
 
次の日、娘はさっそく私に言ってきた。
 
「おとーさん! はじめてのおつかい!」
 
私は何も言わずにすぐにビデオのリモコンを持った。子どもは私の上に乗ってスタンバイしている。
 
これまで避けてきた「はじめてのおつかい」が、子どもと見ると違った番組に見え、最初から最後まで見終わることができた。
 
娘はまた同じシーンになると泣いていた。
それを見て私もまた感動する。
 
「はじめてのおつかいってすごいな」
 
大人だけでなく、小さい子どもまで感動させることができるこの番組が素晴らしいものだと思えた。
 
また、多くの人に愛され、長く続く理由が少し分かった気がした。
 
ここまで感動させるのだから、ある意味、アンパンマンや機関車トーマスよりも教育的番組だな、とも思った。
 
「私もはじめてのおつかいできるよ!」
 
娘の「はじめてのおつかい」はまだ早い気がするが、もし機会があれば、チャレンジさせるのも良いかと考えている。
 
娘を成長させてくれた「はじめてのおつかい」に感謝し、今回録画した内容は家族の宝として、しばらく消さないでおこうと思う。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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