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命を金で買う


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:加藤有加里(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「命を金で買う」
これは発展途上国で耳にする腎臓売買の話ではない。日本で起きている現実だ。
 
私は地方の医療機関で働いている。働き始めたころは、日本は国民皆保険制度があるから、どこでも同じ医療費で同じ医療が受けられると思っていた。日本にいれば、素晴らしい医療が受けられ、皆が医療に困ることはないと思っていた。しかし、働くうちにそうではないということに気が付いた。
 
もちろん海外に比べたら、医療の制度はとても進歩していると思う。病院の数もあり、自分で通う病院を選ぶこともできる。
 
私は管理栄養士として、患者さんの栄養相談を行っている。そうしているうちに、患者さんが抱えている問題がだんだんと見えてきた。
 
多くの患者さんは、体調が悪くなれば病院にかかる。そして薬をもらう。そうして病気は治っていく。しかし、決して裕福でない人たちにとっては、病院にかかる費用すら払えないことがある。
 
1年ぶりに受診した糖尿病の患者さんは、このように話していた。
「虫歯を治すために歯医者さんに通っていたからお金がかかり、こっちの病院に通うことができなかった」
そのとき患者さんの血液検査の数値はかなり悪くなっていた。さらに放置しておけば、失明や足切断などの合併症を起こしてもおかしくない。
「治療を中断しないように気を付けてくださいね」
私はそう言うことしかできなかった。
管理栄養士の栄養相談もタダではない。今日、この栄養相談代が余分にかかったことで、この人の今夜の食事代に影響しないだろうか、そんな心配までしてしまった。栄養相談をしたことで余分に医療費がかかり、栄養がある食べ物が買えず、インスタント食品になってしまっては本末転倒である。
 
糖尿病と認知症をもつ患者さんのご家族とお話したときには、
「これ以上この人の病気が悪くなったら、野垂れ死んでもらうしかない」
と話していた。医療費を払うのがやっとで、介護サービスを受けることもできない。役所に相談しても解決策は出てこなかった。生活費を稼ぐために家族は働かねばならず、日中はその患者さんを誰も面倒を見ることができない。家族が仕事から帰ると、家の中のそこらじゅうに患者さん本人の尿や便が落ちている状態だそうだ。そのご家族の言葉はとても冗談のようには受け取れなかった。
 
一方で、お金は払うから最新の治療をしてくれと言う人もいる。あとわずかな命と宣告された人たちが、命の期限を延ばすために数百万円もする医療を受けている。これは保険診療では認められていない自由診療だ。付き添いの家族と一緒に病院を訪れ、特別室で治療を受ける。この治療により、延命している人もいる。これ自体に問題はない。受けたいなら受ければよい。
 
お金がなければ、当然だがこのような治療は受けられない。
 
同じ病院の中で、数千円の医療費を払うのが精一杯の人もいれば、特別室で数百万円もする医療を受けている人が同時にいる。これが現実だ。
 
もし、命の期限を言い渡されたとき、自分は何を選択するのだろう。
 
もうどうすることもできなく、絶望の淵に立たされたような状態で生きることをあきらめて、ただ死を待つのか。
突然、余命を宣告されれば、それまでの当たり前だった日常が覆されて正常な思考ではいられないだろう。もうどうでもよくなって全てをあきらめてしまうかもしれない。
 
それとも、命の期限に抗い、お金をかき集めて、最新の治療を受けるのか。
もし延命できたとしてもそれは数週間か数か月かもしれない。そこに数百万円の価値があるのか私には分からない。だったら、そのお金は世界で医療を受けられずに困っている人たちのために使ってもらったほうがよっぽど価値があるのではと考えてしまう。
 
あきらめるのでもなく、抗うのでもなく、自分の命の期限を受け入れるという選択肢もある。
ただ、受け入れることができるほど私の人生が充実していたとはまだ言えない。
 
結局のところ、お金があるのなら、きっと私はどんな治療でも受けて延命を選ぶのかもしれない。それがごくわずかな期間だったとしてもだ。やはり死ぬのは怖い。まだやりたいこともたくさんある。行きたい場所もたくさんある。会いたい人もたくさんいる。数百万円で世界の子供たちが多く救われたとしても、自分の命の方を優先してしまうだろう。
 
ただし、これはお金があればの話だ。お金がなければ、あきらめるか、受け入れるか、いずれにしても死を待つという選択肢しかない。日本の現状として、こちらを選ぶ人が多いだろう。
 
余命を宣告されることなく、突然死んでしまうこともあるが、すべての人に共通して言えることは誰にでも必ず死が訪れるということである。
 
もしその時が訪れたとき、自分の人生を振り返ってとても充実していて楽しかったと胸を張っていえるよう、今はただ懸命に生きるしかない。何事も後回しにせず、やりたいことはやり、行きたいところには行き、会いたい人には会いに行く。そうすれば、命を金で買わなくても自分の運命を受け入れることができるかもしれない。
 
 
 
 
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2020-05-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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