退職代行サービスについて、考えてみた。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:横須賀しおん(ライティング・ゼミ平日コース)
「えっ? そんなサービス本当に必要なの……」
最近、テレビを見ていて非常に複雑な気持ちになる事がある。それは、退職代行サービスを利用する若者が増えているというニュースを見た時である。
ググってみると「退職代行サービス全77社を徹底比較」……なんてWebに出てくる。いやいやいや……ちょっと待て! 退職届なんて、Webで書き方を参考にすれば、1日で書けてしまうし、会社に提出するのに一銭もかからない。それなのに何故利用する若者が増えているのか?
調べてみると、退職の意思を告げられない若者が増えてきているので、このサービスの需要が高まってきているという事らしい。元・店長としての肌感覚で、これを捉えてみると、まだ平成初期の頃は、連絡が取れなくなって仕事を辞めるアルバイトなどほとんどいなかった。ところが平成10年以降になると、突然無断欠勤してそのまま来なくなる……面接も予約だけしておきながら、当日は連絡なしに来ない……なんて人が全く珍しくなくなってしまった。しかし、こういうのは……雇う側の立場としては、全く寂しい限りである。少なくとも雇う側にしてみれば、本来は、辞めていく人達から直接その理由を聞いてこそ、経営改善の為の最大のヒントを得る事が出来るはずだと思うからである。
退職に関して、僕には過去に、次のような体験がある。
中途入社で、年俸制で……とある企業に入社した。そこには、新規事業部の社員として入社したが、まだ1年もたたないうちに、その事業部はつぶれてしまった。そこで、仕方なく本社の別の部署に異動したのだが、そこで転職経験のないプロパーの上司の下についてしまった。
新しい部署での仕事内容は、過去の職歴や経験があまり活かせないような仕事内容だった。その為、小さなミスをする事も多く、上司からそれを嗜められる事も多かった。しかし、その一方で、大きな会議でのプレゼンや分析レポートを書く事など、キャリアが試されるような場面では、転職者としての能力はずっと発揮してきたつもりだった。しかし、その上司は、僕が何かいい仕事をしたとしても、基本はスルーで褒める事は全くなし、その一方で、少しでもミスをしてしまうと、まるで重箱の隅をつつくかのように、人の言葉の揚げ足をとって冷笑したりする。そのため、部署の雰囲気は暗く、あまり活気のない職場になっていた。
そうして、ある日突然、隣の席に座っていた同じ職種のMさん(若い女子社員)が、会社を長期で病欠するようになった。Mさんが出社しなくなる事によって仕事量は増えたが、僕はそれをチャンスであると捉えていたので、文句は何一つ言わず、仕事の量と残業を増やして、与えられた職責はすべてこなしていた。当時は、会社は無遅刻無欠勤、土日はずっとサービス出社(土曜は毎週、日曜は忙しい時だけ)し続けていたが、それでも、3月のある土曜日の午後、いきなり別室にくるように上司に呼びつけられた。
具体的な上司のセリフはすべてを思い出す事はできないが、要約すると、いきなり次のような事を言われたのである。
お前は仕事ができないので、お前の評価は「解雇」に価する。会社に残ったとしても、来年の報酬は、大幅なダウンとなる事は間違いない。
しかし「解雇」してしまっては、お前の経歴に大きな傷がついてしまう。そこで、自分から「退職願」を書いて持ってきたとしたら(ウチは優しいので)、「解雇」処分については撤回し、自己都合退職扱いにしてあげるよ……と。
今なら、これは明らかに不当解雇であると思えるし、そもそも辞めなければならないような、重大で致命的なミスなど何も犯していない。しかし、当時は、健全な職場なら笑って済ませられるようなミスでも、常に冷笑され続け、バカにされ続けていたので、自己評価もかなり下がっていた。結局、上司の言う事を真に受け、言われた通りに、翌週の月曜日に、退職願を上司に提出した。なぜ、そうしたかと言うと、私は絶対に勝てないと、マインドコントロールされている状態にあったからである。
しかし、退職願を提出した後は、不思議と非常に前向きになれた。辞める事に関しては、全く納得していない……しかし、ここを辞める事イコール人生の終わりではない……と考えていた。なので、退職願を提出した次の日から、毎日一番最初に出社して、全員の机を掃除して、ファックスの整理、仕分けをし、最終出勤日まで、できる事はなんでも全力でやろうと決意し、ふだんの業務も引継ぎ書類の作成も、できる仕事は、なんでも全力で行った。それらはすべて、会社の為というよりかは、退職後の自分を守る為に、全力投球していたという事でもある。結果的に、自分のいた部署は、もう一人の転職者も辞めさせられていたので、結局、中途入社者を排除する事が、当時の上司に課せられたミッションであった可能性もある。なぜそう思うのかというと、そこは、その春、新卒の新入社員を大量に採用していたからである。
3月末に、会社の送別会があった。僕と上司との間で、密室で交わされた会話は、社内秘だったので、僕は、自ら進んで「退職願」を書いて辞めた事になっていた。
飲み会が始まって、しばらくしてから、隣の部署の女の子が、無邪気な笑顔で、こう語りかけてきた。
「ねぇ、なんで会社辞めるん?」……僕は、絶句した。本来なら辞めなきゃならない理由なんか全くない。もし仮に、社内で僕が全然仕事ができないという噂がたっていたのだとすれば……辞める流れが自然だと思われていたのだとすれば……その子だって、そんな事を聞いてくるはずがない。結局僕は、その子からの質問に対しては、他にやりたい事が出来たから辞める事にしたのだ……などと、適当な事を言ってお茶を濁して、その場は切り抜けた。しかし、送別会の二次会のカラオケで、お別れの挨拶をした後は、急に涙が溢れてしまいそうになったのを、必死にこらえるのが、本当に辛かった事を、今になって思い出した。
そうだ……そうなのだ。退職代行サービスというのは、本来は、このような不当な扱いを受けて辞めざるを得ないような状況におかれている時にこそ利用すべきサービスなのだ。しかし、残念ながら僕が、その会社を辞めた頃には、まだそのような退職代行サービスの会社は、存在してはいなかった。
話が長くなってしまったが、会社に退職願を出すのに、本来は費用は一切かからない。にも関わらず、今は、会社を辞めようかどうしようかと迷った時に、Webを検索してしまうと、ズラリとたくさんの退職代行サービスの広告が表示されてしまう。いかにも辞める時は、これを使うのが当たり前であるかのような錯覚を起こしてしまう。しかし、このようなサービスは、決して当たり前に使うようなサービスではない。まずは、周りに相談して……こういうサービスを利用して退職するのは、あくまでも会社側の対応が、理不尽すぎる場合のみになってほしい……と、切に願う今日この頃である。
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