メディアグランプリ

楽器を靴のように思うこと

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中村里奈(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
サックスという管楽器がある。映画「スウィングガールズ」で上野樹里さん演じる主人公が手にした楽器だ。リコーダーのように楽器の大きさで音域が異なる。わたしは中学校の吹奏楽部でサックスを手にして以来20年近く、それを趣味としているため、友人にもサックスを演奏する人が多い。
サックス奏者にとってサックスは靴のようなもので、靴を何足か持つように、サックスをいくつか所持していることが多い。サックスなんて一つ持っていれば十分じゃない? と問われ、ひとつの楽器が小さいスーツケースほどの面積をとるので人によっては収納スペースを広くとっているため家族と喧嘩が勃発することもある。では、逆に問いたいのだが、靴を一足持っていれば十分だろうか? 友人に会うとき、テニスをするとき、おしゃれなカフェに行くとき、友人の結婚式に行くときに同じ靴を履くいて行くのだろうか? 多くの人は、時と場合に応じてスニーカーやブーツやパンプスを履き替え、普段から何足か準備しているはずだ。実はサックスにも同じことがあてはまる。サックスが演奏される場所はオーケストラが演奏するようなコンサートホールやポップスのライブ、大人の雰囲気が漂うジャズバーなど多岐にわたっている。そこで耳にする音楽は一通りだろうか? 厳かなもの・ノリのいいもの・落ち着いた雰囲気なもの様々だろう。いろいろな種類があって、演奏者は求められる種類の音楽に合わせなければならない。それゆえに、普段からいくつか楽器を準備・所持しているのだ。「一つ持っていれば十分」と問う前に下駄箱にしまっている自分の靴の種類を確認してみてほしいものである。
さて、何本かサックスを持っていると言う際に、ビンテージサックスを所持している人々がいる。ビンテージというと骨董品で置物や装飾品のイメージがあるかもしれないが、基本的に古いだけで現在も使用できる中古品を指す。私も6本ビンテージ楽器を持っているが、この話をするとサックス奏者からも収集癖のあるオタクと呼ばれ時々引かれる。なぜそんなに持っているのか? 楽器の製造方法で音が異なるので当時作曲された楽曲を演奏するには当時製造された楽器がしばしば好ましい一方、ビンテージサックスを使って演奏することは小説を読むことに似ているからだ。小説を読む魅力は、人それぞれだと思うが、知らない世界を感じ想像することだと思う。小説の中に身を置き、自分の人生では起こらない出来事を体験し、時には小説では描かれていないことも空想することが楽しみの一つではないだろうか? アメリカのビンテージサックスは製品のつくりの丁寧さが第二次世界大戦前後で大きく異なる。戦前は繊細なつくりで甘い音がして、戦後は粗雑だけど元気な音が出る。粗雑なのは生産者に余裕がなかったのか、音楽という娯楽にまわす物資がなかったのか、そんな余裕がなくても人々に元気になってもらいたいから、元気な音が出る設計にされたのか……答えはわからないが、当時製造された楽器に触れることで、その時代の様子や、そこに生きた人々の考えに触れ、自分の知らない世界を空想するのである。オタクには違いないが、楽器から時代背景を感じるという点で、何本か持ってしまうのである。
ビンテージ楽器は高いのでは? 裕福~! という声もよく聞く。はっきり言ってピンキリで、中古品だから新品の1/10以下の金額で購入できることもあるし、新車が一台買えてしまうものもある。裕福じゃないから中古品のビンテージ楽器を買うこともしばしばだ。そして、新車が買える楽器を購入することを投資と呼ぶ人がいる。少なくとも人気のあるブランドのサックスは10年前より1.5倍以上値段が上がっているし、50年近く業界で最も人気のあるブランドの人気が落ちて値崩れするとは考えにくい。駅近のマンションのようなもので、買った値段もしくはそれ以上で売れるのだから、これほど手堅い投資はない。しかもマンションなどの不動産よりお手軽価格だ。
サックスをいくつか所持することについて述べてみた。サックスに関わらず、趣味である限り楽器は嗜好品で、それなりの理由をつけても複数の数を持つことは贅沢でしかない。サックスが趣味でない人には受け入れにくいことかもしれない。しかし、多くの人が自分の人生を豊かにするために趣味を持ち、そこにはそれぞれの考えや楽しみ方がある。サックスを吹く人はおしゃれな靴が履きたい人や、いろんな作家さんの本が読みたい人より数が少ないマイノリティかもしれないが、その趣味や行動の理由はどこか近しいものがあると思う。変わったものとして引いて見るのではなく、少し近寄って、違う価値観を知り世界を広げてみてはいかがだろうか?
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 

★10月末まで10%OFF!【2022年12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《土曜コース》」


 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

天狼院書店「プレイアトレ土浦店」 〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2020-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事