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“自転車で45分” が2時間20分かかった、ある店への旅


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:カラノ(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
人に話すとモノ好きな旅として片付けられそうで、ほとんど人に話したことがない、ひとり旅の思い出があります。1年半たった今でも鮮やかに思い出せる、“ある店”への旅です。
 
その店をどうやって知ったのか、今となっては覚えていません。ただ、“なんでそんなところに?”という突飛な立地と、アーティスティックな美しいパッケージ、そしてファンキーなホームページという、妙にアンバランスな世界観がずっと気になっていたのです。
 
それなのに、店のオンラインショップでも、私が住む関西の取扱店でも、どういうわけか私は、その店の商品を買おうとしませんでした。
 
その店とは、広島県尾道市にあるチョコレート工場・ショップで、実在する店ですが、ここでは「U」としておきましょう。尾道市といっても店があるのは、尾道から海を渡った向島の山の中。バスなどの公共交通機関では行くことができず、アクセスは車、タクシー、自転車のみという、まるで来る人を試しているような、不思議な店です。
 
“いつか行きたい”が、「行くなら今!」になったのは2018年10月のこと。7月の豪雨によって大きな被害を受けた西日本エリアで、観光支援が進んでいた時期で、広島への旅に心が傾きました。
 
車に乗らず、タクシーも想定外の私にとって、「U」までの足はレンタサイクルしかありません。ただ、いろいろと忙しい時期で、チャンスは10月最終週の週末だけ。11月になったら、気候的に自転車は無理です。あとは天気。毎日、天気予報を見続け、週末に雨が降らないと確信を持ったところで、旅を決めました。
 
そして迎えた当日、私は朝7時50分に、JR尾道駅に立っていました。新大阪駅を新幹線が出発したのは6時3分。それもこれも、レンタサイクルのためでした。レンタサイクルの予約は4日前まで。雨が降らないと確信を持った時は、予約ができないタイミングだったのです。尾道に着いて自転車が借りられなかったら、旅の意味がありません。早朝が幸いし、無事に自転車を確保。「U」への旅が始まりました。
 
尾道の商店街で人気のパン屋さんに立ち寄り、向島への渡船にもスムーズに乗れました。島に着いてiPhoneで経路を見ると、目的地まで5.3kmの表示。「U」のHPには、「自転車は本気で30分、ゆっくりこいで45分」の案内がありました(さすが山の中!)。まだ時間も早いし、ゆっくり行こう。8時40分、自転車をこぎ始めました。
 
港からしばらくは、平たんな道が続きました。道を曲がると、なだらかで長い坂道が登場したものの、電動アシスト付き自転車で難なくクリア。途中、尾道の商店街で買ったパンを食べて、再び自転車に。天気は良く、10月の終わりというのに暑いのが難点なくらい、順調な道中でした。
 
その風向きが変わったのは、道を左折し、アシスト付きでも厳しい坂を上り切ったとき。iPhoneで経路を確認したら、道は左折ではなく右折! まじか! 苦労して上った坂を下り、正しい道に進むと、次に現れたのは「通行止め」の表示と、「通常営業しています」という「U」の看板。西日本豪雨の被害で、店への道が通行止めになっていたのです。看板に取り付けられた箱には、迂回の地図。はたして、無事にたどり着けるのか……?
 
地図を見ると、迂回経路は向島をほぼ半周していました。
せっかく向島に来たのだし、それもいいか。私は余裕を少し取り戻しました。
 
うっすらと青い秋空。
おだやかに波打つ瀬戸の海。
道端の売店に並ぶ八朔の山。
美しいシルエットの因島大橋。
 
どこまでも気持ちがいい景色が続きました。しかし、店は“山の中”。再び、試練がやってきました。坂道です。しかも今度は、車両進入禁止の三角コーンが置かれるくらいに狭く、落ち葉に埋もれ、急な傾斜の坂道。
 
ひたすら目の前の道を進み、連続する急カーブの坂道をこぎ続け、突然、眼下に広がる海が飛び込んできたとき、「U」に到着しました。11時4分。向島の港を出て、2時間20分がたっていました。
 
「U」はカカオ豆と砂糖だけを使った商品づくりがウリですが、詳細はここでは省略します。工場といっても、作業を見学できるわけではなく(言えば見せてくれたのかも。疲れて気力ゼロでした)、店内でジェラートを食べ、チョコレートを選んで滞在したのは40分ほど。行くのに2時間20分かけて40分! でも、島の頂上の秘密基地にたどりつけたことが、うれしくて疲れはあまり感じませんでした。
 
この旅の後、関西で「U」のチョコレートを何度か見かける機会がありましたが、手にすることはありませんでした。あの2時間20分が、1枚のチョコレートを向島込みの“ワンパッケージ”にしてしまったのです。
 
雲ひとつない5月の空を見ていたら、急に、この旅を思い出しました。そして、何も気にせず新幹線に乗れる日が来たら、久しぶりに向島に行きたい、と。もちろん「U」にも。今度は地図がなくても大丈夫。海風を感じながら、島をぐるりと回っても、2時間20分はかからずに到着できるはずです。
 
 
 
 
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2020-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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