メディアグランプリ

「真面目」という言葉にひそむトゲ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:森真由子(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
「すごいね〜」
「偉いよね〜」
あー、まただ。もういいから。そんなこと言わなくていいから。
 
またひとつ、自分の心に小さな針が刺さっていく。
 
私の場合、「すごいね」「偉いよね」と他人から言われる時、
大抵その前に『真面目で』という一言が付いてくる。
 
「真面目ですごいね」「真面目で偉いよね」
字面だけ見ていると褒め言葉なはずなのに、
世の中には他人からこう言われたいと思っている人だってきっといるはずなのに、
いつからか私はこの『真面目で』というワンフレーズにうんざりするようになった。
 
小さな針がちょっとずつ刺さっていって、
私の心の一部は針山状態になっているかもしれない。
そんなトゲトゲした塊を自嘲気味にふと想像することがある。
病んでいるわけではないが、社会人になって、さすがにこの針山を見過ごしてはいけない気持ちになってきている。
 
なぜこんなことを「真面目」に考えるようになったのか。
それはいきなりのフェイントだった。(まぁそもそもフェイントはいきなりするものだが)
別にサッカーをするつもりはなかったのに、気が付けばフェイントをかけられていたようだ。
そしてつまずいた。
 
つい2週間ほど前、山口つばささんの『ブルーピリオド』という漫画にハマりまくった。
『ブルーピリオド』は日本の美大で最難関と言われている東京藝術大学への合格を目指す主人公の成長物語である。
「あー苦しい、苦しい、だけど頑張れ」なんて言いながら、
絵を描くことにのめり込んでいく主人公の少年についつい感情移入してしまう。
まるで自分も熱い青春を送っているようだった。
彼はとてつもなく努力家で、壁にぶち当たる度に周りの人に助言や刺激をもらって成長していく。
 
受験を目前に控えて、自分の課題はなんだと悩みもがいている彼に対して、
ある日予備校の先生からこんな言葉を言われる。
「マジメさに価値があるのは義務教育までよ」(4巻)
 
グキッ、
足首を捻挫したように痛い。
少年と一緒に藝大への道を全力で走っていたはずなのに、
急に私だけフェイントをかけられて現実へ引き戻された。
イタタっ、もう走れない。一旦立ち止まらないと。
あーそうだったのか、私は義務教育が終わる時点で真面目以外の何かを得なければいけなかったのか。
この漫画には他にもたくさん素晴らしい名言があったのに、私にひどく響いてしまったのはこの時の先生の言葉だった。
 
「真面目ですごいね」「真面目で偉いよね」
なぜこの言葉に今まで引っかかっていたのか。
義務教育の間は、先生と親の支配下にいるから真面目でいい子でいることを期待される。
みんなとちょっと違う子は手間がかかり、いい子は面倒を見るのが楽だから。
でも義務教育以外の社会は、ただの真面目でいい子をそれほど必要としていない。
もちろん場面によっては必要とされているかもしれないが、いわゆるデキるやつと言われている人は、ちょっとサボったり、指示されたことと違うことをやって、結果的にそれで成果が評価されたりしている。
努力より成果を評価される社会では、ただの真面目な人はどうもパッとしない。
少なくとも私は自分に対してそう思っている。
だから真面目と言われるとちょっと皮肉を込められているように感じてしまうのだ。
 
自分がなぜただ「真面目」と言われてしまうようになったのか。
今思うと、おそらく学校では真面目だったことを褒められていたから。
言われたことを言われた通りにやっていたら褒められた。
だから褒められるために頑張ってきた。
それ故に、真面目が今までのように評価されなくなった社会に出てから
自分が本当に何をしたいのかを見失ってしまった。
別に私たちは褒められるために生きているわけじゃない。
 
この記事を読んで、そんなこと当たり前じゃないか、と思われた人はかっこいい。
そういうことを私は社会人として働き出してから、やっと気付いた。
気付きが遅すぎる自分に悲しくなってしまうが、物足りない何を探していくしかない。
 
何かが足りない、真面目だけではだめだ。
ちょっと明るくて強気なキャラになってみたり、アクティブになったり。
手当たり次第気になった趣味と言われるものに手を出してみたり、真面目という呪縛から脱却させてくれるようなきっかけを本から探したり……。
的を得ていないのは分かっているけど、とりあえず物足りない何かを探そうとしてきた。
 
そんな自分を振り返っていると、意識が『ブルーピリオド』の世界へ戻ってきた。
「あー苦しい、苦しい」とまた言い出していた。
主人公も何を本当に表現したいのか、何のために絵を描くのか、本当の答えに辿りつけていない。今ももがいている。
 
答えを探して読んでくれていた真面目族の仲間たちよ、ごめんなさい。
私も考えたけどまだ自分の答えを出せなかったよ。
でもこれだけは言いたかった。
「真面目」という言葉に傷付いている時点で、それは何か自分に対して問題意識を持っている証拠なのではないか。
問題意識を持っているなら「そのままのあなたでいいよ」とは言わないから、気付いてしまった以上、真面目なりにもがき続けていこう。
 
いつか蓄積されたトゲトゲな針山を溶かして、「真面目」と言われても気にならないようになりたいな。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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