メディアグランプリ

苦手なことをやってみよう


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Aya Fukuhara(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
「まことちゃん! こっち入って!」
「じゃあレイちゃん! こっちのチーム!」
最後に嫌々名前が呼ばれるまで、内履きのベルトにマッキーで書かれた、ふくはらという文字をじっと見つめる。
体育の時間が終わるまであと40分、
小学校のときのことなんてほとんど覚えていないのに、体育館の無機質な時計の文字盤と、学校指定の内履きシューズは今でも良く覚えている。
週に2回、体育の授業の45分間、ずっとそれだけを交互に見つめてやり過ごした。
 
小学校のリレーのチーム分けはいわゆる「とりじゃん」で行われていた。先生が指名した足の早い子二人がチームに入れたい子を一人ずつ指名していく。
クラスで一番足が遅い、どころか30メートルも走ると喘息の発作が出てしまうわたしは当然最後まで選ばれない。
そんなことはわかっているし、慣れている。
それでも最後に残って、受け入れるチームの子のうんざりした顔は、何度見ても苦痛だった。
それを見て傷ついたことを悟られないように、「わたし、喘息で走れなくてー。ごめんねー。」と下を向いていた。
 
中学、高校と同じようにやり過ごした。喘息が治る頃には、授業で走る必要もなくなっていた。
大人になって、走れなくても楽しめるスポーツや遊びはいくらでもあることを知った。
足が遅いくらいで人生の落伍者のような気持ちになって、学校を休むほど落ち込んでいた過去は葬り去った。
 
人生から「走る」という文字を消去して十数年、もうすぐ30歳になろうとしていた。
30代になるのは大きい節目だと思うのだけれど、20代から自分が変わった気がしなくて、なんとなく焦燥感に苛まれていた。
ある日会社の先輩の山口さんに突然声をかけられた。
「ねぇねぇ、福原さん、水曜日仕事終わったら皇居行くんだけど、一緒に行かない?」
「皇居、ってまさかランニングですか? わたしは無理です、走れないんで!」
「うそー、福原さん絶対走れるよ! わたしも全然走れなかったんだけど今じゃ超ハマっちゃって! 一回行ってみようよ! ウォーキングでもいいし!」
山口さんは尊敬する先輩だ。仕事もできるしポジティブで優しい。社内で仲良くしたい人ナンバーワンだ。
「それじゃあ……」
まぁ、ウォーキングでも良いなら疲れたらやめればいいし、行くだけ行こうかな。最近運動不足だし。
 
水曜日、何もわからないまま皇居のそばのランニングステーションへ付いて行った。
アディダスのオレンジ色のランニングシューズを借りた。カッコいいけど、走れない自分が履くのは申し訳ないな。
「じゃあ、行こうか!」
山口さんは、わたしのペースに合わせて喋りながらゆっくり走ってくれた。走る、というより速歩きに近いペースだったかもしれない。
もう、1キロくらい走ったかな? あれ? でも、隣に山口さんいるし、もう少し頑張ろうかな……。
 
流石にもう無理かも、と思ったところで山口さんに、残りは歩きます、と伝えた。
山口さんが左手のスポーツウォッチを見てニヤッとした。
「もう、3キロだよ! はじめてなのにすごいじゃん! 先に行ってるね!」
3キロ……走ったの? わたしが? マジで?
 
残りの2キロ、ドキドキしながら歩いてランニングステーションに戻った。
入り口では常連と思われるグループがストレッチをしていた。みんなスタイルが良くてランニングウェアがよく似合っている。ザ・ランナーって感じだ。
そのうちの一人の男性と目があって、ニコッと挨拶をしてくれた。
「お疲れさまでーす!」
「あ、お疲れさまです。」
返事をして嬉しくなった。
わたし、このランニングしてる人たちのうちの一人なんだ……。
 
次の週末、新宿でランニングシューズを買った。皇居1周走れるようになってみたい。
山口さんに伝えたら大喜びしてくれた。
それから週に1回、山口さんと仕事終わりに皇居に走りに行くのが習慣になった。
iPhoneのアプリで走った距離を記録した。毎回少しずつ距離が伸びていく。
一人でも近所を走るようになった。週に2回、3回走るのが習慣になった。
 
2年後、東京マラソンを完走した。
42.195キロ。5時間53分。
 
ゴールに崩れ落ちて、アシックスのランニングシューズを見つめながら、小学校の体育の時間ずっと見つめていた内履きを思い出す。
苦手なことをやってみて、自分は変われた。
 
ランニングを始めて、物事に挑戦することのハードルが一気に下がった。
英語に苦手意識があったから、英会話を始めた。
人前で話すのが苦手だから、プレゼン教室に通った。
苦手だったから、練習でちょっとできただけで嬉しくなった。もっとやろうと思えたし、自己肯定ができた。
避けてきたことは練習すれば、簡単に昨日の自分を超えられる。仮に結果が出なくても、元々苦手なのだから当然だ。
苦手なのだから人と比べる必要もない。次ちょっと良くなれば100点だ。
 
ずっと避けてきた苦手なことがあったら、ちょっとやってみるのも良いかもしれない。
 
 
 
 
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2020-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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