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教科書ではわからない「空也上人立像」に感じた異質さ


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記事:カラノ(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
「思ったより、小さいな」
小学生ほどの背の像を見て、私は思った。そして、教科書で見た通りであることに、ちょっと驚いた。それなりに年齢を重ねた大人なので、教科書に載っている文化財の“本物”を見るのは、何もこれが初めてではない。ただ、「本当に、口から出ているのか」と、感動より驚きが勝ったのである。京都の六波羅蜜寺で、空也上人立像を見た時の話だ。
 
3月に六波羅蜜寺に行ったのは、偶然だった。
外出自粛ムードがゆるやかに漂いながら、ステイホームが強く言われる前のこと。「今なら、京都の行列店にも入りやすいのでは?」。そんなヨコシマな思いを胸に目指したのは、人気の作り立てモンブランのお店だった。しかし、その考えは甘かった。京都は思ったより人が多く、どこに行ってもレンタル着物を着た女の子ばかり。そうか、卒業旅行か!
 
案の定、お目当ての店の前にも女の子が大勢並び、おまけに店頭にはSOLD OUTの文字。仕方がない。他の店に行き先を変更することにした。地図を見ると、その途中に六波羅蜜寺があったのである。「教科書に載っている像があったな」。それくらいのノリで立ち寄ることにした。
 
中高生の修学旅行ならさておき、大人になって訪れる六波羅蜜寺は、そんな“ノリ”がないと、なかなか行かない場所に思える。京都観光の起点ともいえる河原町・四条エリアは、有名な寺社が目白押しで、関西に住んでいる私も、目指すのは八坂神社、清水寺、高台寺、安井金毘羅宮あたり。関西以外から京都を旅する人ならなおさらだろう。寺社そのものの魅力に加えて、春は桜、秋には紅葉、さらにはライトアップ、縁切り祈願(!)など、エンタメ性がある寺社は、やはり強い。
 
六波羅蜜寺はこれらの寺社から少し南下するだけなのに、残念ながら私の周囲では、行き先の候補として話題に上がったことはない。そのため、何度も京都に行きながら、訪れたことがなかった。地図で目にしなければ、私は今も場所を知らなかっただろう。
 
はじめて訪れた六波羅蜜寺は、華やかさはないが、品のある空気が流れていた。入口で入場料を払い、少し離れた宝物殿に向かう。そして空也上人立像を見たのである。
 
「小さいな」の後に感じたのは、異質さだった。首からかねを下げ(金鼓というらしい)、手にした杖の先には鹿の角が付いている。さらに、口から飛び出す“何か”。入口でもらったパンフレットを開く。鎌倉時代に造られたというこの像は、「念仏を称えるくちから、六体の阿弥陀が現れたという伝承のままに洗練された写実的彫刻である」と。
 
造られて数世紀たってなお、見た人にインパクトを与える空也上人立像は、発表された当時、その表現が世の人に衝撃を与えたのではないだろうか。これまたパンフレットを見ると、空也上人は醍醐天皇の皇子にして六波羅蜜寺の開創者、出家後は市民の中で伝道に励み、人々から慕われたという。出家したとはいえ、由緒正しい家柄の空也上人をこんな前衛的な像に仕上げて、物議を醸すことはなかったのだろうか。それとも、空也上人の口から現れたと伝わる阿弥陀の再現が称賛されたのだろうか。
 
京の町をたびたび襲った兵火を逃れ、空也上人立像は今も静かに立っている。そして、この像を目にした私たちは、鎌倉時代の人々が抱いただろう驚きや異質さを、同じように感じることができる。改めて思う、すごいことだと
 
また、六波羅蜜寺では空也上人立像だけでなく、他の所蔵品も時間をかけて見入ってしまった。それもそのはず、展示されている木像は平安時代から鎌倉時代に造られたものばかりで、重要文化財のオンパレードだ。
 
弘法大師や平清盛といった有名人や閻魔大王などの像もあるが、個人的なおすすめは平安時代に造られたという四天王「多聞天立像」「広目天立像」「持国天立像」「増長天立像」。見学スペースとの間に低い柵があるだけで、その重厚感と迫力を直に感じることができる。そして、空気をはらんだ衣の袖の美しさといったら! ガラスケースに入っていないのをいいことに、見える限りのぞき込んで、その彫刻表現を存分に堪能できたのも、マイナーな(失礼!)六波羅蜜寺だからこそ、かもしれない。
 
もし友人に「六波羅蜜寺で空也上人の像を見た」と話したら、「教科書に載っている像だよね」という反応があるだろう。そして、「空也って、どんな人だっけ?」と聞かれたら、パンフレットを読んだ今も、説明できる自信は全くない。醍醐天皇の皇子で、六波羅蜜寺を開いた人。そして、「空也上人像は、本当に口から阿弥陀が出ていた!」。でも、それでいい気がする。あの異質さは、見た人にしかわからないことだから。
 
 
 
 
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2020-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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