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直感に頼りすぎたから、わたしは彼を失った


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ゆりのはるか(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
直感、というものをわたしは強く信じていた。
結局のところ何を選択するにおいても、一番大切なのは直感。
直感こそが自分の心の声であり、直感的に良いと感じたものこそが、本当に自分に合っているものだと、そう思っていた。
 
だから、この出会いも絶対に逃してはいけないと、たしかにそう思ったのである。
 
「困ったとき、相談させて」
 
その言葉は簡単に口から飛び出てきた。
気づけば、目の前に座る男の子の連絡先を手に入れていた。
 
「いいよ。いつでも連絡して」
 
これで、わたしたちの初めての会話は終わった。
カナダの高校で受けた、数学の授業のときのことだった。
 
高校生の時、学校の研修で3週間カナダの高校に通った。
カナダの高校生と交流して、一緒に授業を受けて、カナダの文化を学ぶ。ざっくり言えばそんな研修だった。参加した日本人1人ひとりに生徒がバディとしてついてくれて、わたしたちはバディにくっついて一緒に授業を受けていた。
 
バディの多くが吹奏楽部に所属していたことから、わたしたち日本人メンバーは音楽室の端っこにスペースを借りて、休憩時間はそこでたまっていた。吹奏楽部はいつも同じ曲を練習していて、わたしはその曲がとても好きだった。
 
あれはたしか、高校に通い出して5日目ぐらいのことだったと思う。
その日、わたしはいつも通りバディにくっついて、初めて数学の授業に向かった。
 
席に着くとその日は自習で、みんなそれぞれ勝手に勉強していた。わたしは何をすればいいかわからなくて、とりあえず研修の資料に目を通していた。
 
「ハルカ、このクラスには日本人がいるんだよ」
 
わたしがぼーっと資料を眺めていると、バディがそう教えてくれた。
そういえばさっきからクラスの中心で楽しそうに話している男の子がいる。
あ、なんか日本人っぽい。
日本人だ。
 
そう思って見ていると、その男の子は向こうからやってきた。
 
「研修で来てる子?」
 
あ、好きだ。
直感。
このたった一言で、そう思った。
 
その人は、明るくて話がうまくて、みんなと仲が良くて太陽みたいだった。
身長が高くて、体は細くてすらっとしていた。
話してみると、出身地が同じで親近感がわいた。
 
わたし、この人のことが好きだ。
その直感は、話せば話すほど確信に変わった。
だからわたしは、数学の授業が終わったあと、すぐに連絡先を聞いた。
コミュニケーションや英語の勉強面で困ったときに相談させてほしい、という口実で。
このチャンスを逃してはいけないと思ったのだ。
 
それから、わたしは彼と毎日メッセージを交換した。
彼はお昼休みになると音楽室に来てくれることが増え、話す機会も多くなった。吹奏楽部が奏でるいつもの曲も、その日だけは特別なBGMのように思えた。
 
一度だけ、日曜日にデートした。
彼の好きな中華料理屋さんに連れていってもらって、街を散歩した。
 
「この街、何もないでしょ」
 
彼はそう言って笑った。
決して都会とはいえない街だったので、そんなことないとは言えない。
でも、彼がいるだけでもう十分すぎるほどわたしの心は満たされていた。
 
「日本でも会おうね」
 
そう約束をして、わたしは日本に帰った。
 
帰ってからわたしはすっかり感傷に浸って、もうめったに会えなくなる、としばらく落ち込んでいた。でも立ち直りも早く、あれはなんだったんだろう、と思うことの方が増えた。
 
彼が日本に来たとき約束通り会ったけど、何をしたのかほとんど覚えていない。もはや楽しかったのかどうかの記憶すらもない。カナダの研修は素晴らしいものだったけど、彼との思い出は薄れ始めている。吹奏楽部が練習していた曲のメロディーも、もう思い出せない。
 
結局、その程度だったのだ。
わたしは別に彼のことが好きなわけじゃなかった。海外の高校という特別な空間に酔って、そこで頑張っている日本人の男の子の存在が、貴重でキラキラしたものに見えたのだ。日本で会うと、彼は特別な人には思えなかった。
 
直感こそが自分を正しい道に導いてくれると信じていたけど、そんなことはなかった。「はじめまして」の一瞬で仲良くなる友達がいないように、その人が自分にとって特別な存在になるかは、関わっていくうちにわかるものだったのだ。人との相性は直感で判断できるものではなかった。
 
人間関係のことに限らず、就職とか進学のような人生における大切な選択から、今日何の映画を観るかとか何を食べるかといった日常の中の些細なことまで、直感だけで決めてしまえることなんてほとんどない。
 
「これだ!」と思って選んでみても、やっぱりなんか違う……? と思った経験はきっと誰にでもある。でも、法律を学びたいから法学部に行こうとか、ダイエット中だからささみを食べようとか、それを選択する理由が自分のなかで明確にあれば、あとになって違うと思うことは少ない。
 
わたしは、彼が良いと思った理由をきかれても、答えることはできなかったと思う。でも、もしかしたら彼にだってわたしの気づいていない魅力があったかもしれない。わたしは彼のことを知る間もないまま直感で好きだと思い、勝手に違和感を抱いてしまったからうまくいかなかった。
 
直感は、自分の心の声のひとつではあると思う。
でも、それに頼りすぎてしまうと、良いと感じた人やモノのことを深く見ることができなくなる。なぜ良いと思ったのか、何を魅力に感じたのか、それをきちんと考えて相手のことを知ろうとする過程を持つことが大事なのだ。
 
数学の授業を受けたあの日の自分には、「早まるな」と言いたい。
そしてこれからは「これだ」と思い込む前に、一歩立ち止まって考えられる自分でありたいと、そんなことを思った。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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