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私は間違っている。でもそれであっている。

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:池水麻衣子(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
2017年の5月の空を私は知らない。
 
一ヶ月もの間、私は自宅のベッドから起き上がることができなかったのだ。
 
口内炎が20個ばかり口の中に常駐し
気圧が低い日や雨の日には決まって39度の高熱がでた。
4日もすれば熱は下がるのだが、下がったと思うとなぜかまた雨が降り、ぶり返す。
食事も満足にとれず、唯一喉を通るのはなぜかサラダチキン。
夫が買ってきてくれたコンビニのサラダチキンを1日に一つ食べて命を繋いでいた。
 
原因は完全に仕事のストレスだった。
 
今をときめくスタートアップ企業に転職したのは遡ること半年ほど前のことだ。
ネットを度々賑わせていたその企業に、軽い気持ちで面接に行き
トントン拍子で内定をもらった。
面接の際に社長から経営層と一部就業員の間に溝があり「社内の雰囲気が思わしくない」という旨は聞いていたが前職もベンチャーだった上に精神的にハードな環境であったため、ある程度のことは大丈夫だろうという自負があった。
 
甘かった。
 
入社して平和だったのは2週間ほどだっただろうか。
その後は、社内で利用しているチャットツールで飛んでくる「言葉の矢」により日々、心に傷を負っていた。
他の従業員からしてみれば管理部門の私は経営層側の人間。
社内向けに周知することが業務として発生するが、それに対しての批判がチャット上で降り注ぐのだ。
批判を受けることに慣れていない私はその都度傷つき
毎日のように会社の倉庫に逃げ込んでは「辞めたい」と泣いていた。
家に帰ってはまた夫にすがって泣き
文字通り身を引きずりながらなんとか会社に向かうも
生傷の上にまた矢が落ちてくる。
 
産休に入る従業員の代わりということで入社したのだが、入社してから3ヶ月も経たぬうちに同時期に辞める従業員の業務もふりかかった。
当時はとある理由により、マネージャーも不在で、人員不足から複数のプロジェクトに知らぬ間にアサインされてしまい、毎日大量の情報を浴び続け昼夜休みを問わず、新着メッセージの通知がなった。
家に着くのは毎日、日付が変わるギリギリ。
最寄駅からの15分を歩くことができず
毎日タクシーに乗って自宅に雪崩れ込んでいた。
 
地獄だった。
 
しかし、途中で入社してきた新しい上司に弱音を聞いてもらいつつ
なんとか会社には通えていた。
 
そんなある日の朝。
 
会社に向かういつもの道で運悪く交通事故の現場を目撃し
そのショックのあまり
私は自分の力で立ち上がることができなくなってしまった。
 
いわゆる「コップの水」が溢れてしまったのだ。
 
横たわるベッドの中でなんども自分を責めた。
たかが、他人の交通事故現場を見たくらいで情けない。
被害者は気こそ失っていたものの外傷はなかった。
それにいい歳なのに批判をされたくらいであんなにも傷ついて
他の人が我慢できることがなぜ耐えられないんだ。
なぜ自分はこんなにも弱いのだ。
なぜ。
なぜ。
 
ーー
 
いつの間にか梅雨に入ったが、雨の日でも発熱はしなくなり
なんとか図書館に出歩けるようになった。
 
「いわゆるHSPかもしれないですね。気がすすむ時でいいから試しにこの本を読んでみてください」
 
カウンセリングの際に心療内科の先生に勧められたのは
可愛らしいくまのぬいぐるみが書かれた一冊の本だった。
 
『ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ』
 
心理学者のエレイン・N・アーロン博士という人が書いた、HSP(Highly Sensitive Person)を研究した本だ。
HSPとは直訳するととても敏感な人という意味で
その本によるとHSPは全人口の15-20%を占めており
疾病ではなくそのような気質のことをいうそうだ。
 
美しいものをみると、感情が抑えきれず涙してしまうこと。
刺激の強い文学作品に触れると、打ちのめされて寝込んでしまうこと。
他人の気分に必要以上に影響されてしまうこと。
音に圧倒されやすいこと。
 
本を読んでわかったが、なぜだろうと思っていた自分の性質はHSPの特徴だった。
 
小学6年のころ、道徳の授業で見せられた「青の洞門」のドラマにクラスの中で一人だけ嗚咽するほど号泣してしまったことがある。
これまで「自分が周りに比べて感激しいで泣き虫なのだ」程度にしか思っていなかった。
小さなことにクヨクヨしすぎてしまうのも自分が弱く未熟なせいだと思っていた。
複数人での飲み会に出席するとどっと疲れてしまっていたのも
多くの人がが見てないものや、聞こえていないもの、出席者のそれぞれの気持ち、場の雰囲気など
色んなことを受け取りすぎているせいとのことだった。
 
今まで感じていた世界に対しての違和感に一つ答えをもらった気がした。
 
その翌月、私は会社を辞めた。
逃げたのだ。
 
良くしてくれた人もいたし、本当はもう少し長く続けたい気持ちもあったが
あの環境に、私はもう1秒も耐えられないと思った。
 
その後、私は無事に転職し、心健やかに働いている。
体調を崩すこともなく、のびのびと能力を発揮している。
強がりなどではなく、一つの不満もない。
 
刺激に対して、あえて感じ取ることをやめたり
受けるタイミングをはかったり
コントロールもできるようになり以前に比べてだいぶ生きやすくなった。
 
あの会社をあのタイミングで選んだことについては
考えが浅く愚かだったとは思う。
入社してからも、思い返せば色々と力不足であったし
今なら別の立ち回りができるのに、とも思う。
 
ただ、この一連の出来事がなかったら、私はいまだに自分自身の扱い方や
自分にあった環境が分からずに苦しい思いをして生きていたと思う。
 
選んだ道が正解かなんて最後まで分からない。
選び取ったあとは、自分自身で正解にしていくしかないのだ。
 
あれから3年が経った2020年5月5日。
今日は薄曇りだが立夏にふさわしい暑さだった。
 
「今のところはあってるよ」
 
少なくとも私は今日の自分にそう言ってあげられる。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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