メディアグランプリ

ネットショップで買えないものがある世界


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記事:mimi (ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
私は4年前に、異世界に出会った。
 
その世界は、2-3か月で消滅する。
いったん消滅してしまったら、再びその世界に行ける可能性は低い。
人生でたった一度きりになることのほうが多いのではないかと思う。
 
そして、その世界で売っている、大抵のものは、インターネットで買うことが出来ない。
 
だから、異世界の扉が開いているうちに、そこに行かないと、二度とその世界で売っている商品を手にすることができなくなるのだ。
 
それまでは、どこか買い物に行っても、買うかどうか迷ったときには『まあどうせネットで買えばいいか。もしかしたら、そのほうが安いかもしれないし』などとタカをくくっていた。
 
しかし、異世界ではそういった甘えは通用しないのだ。
 
話は6年前にさかのぼる。
 
ふと、時間ができたので、美術館に行こうと思った。
 
別に美術鑑賞が好きなわけではない。
 
美術館は、自然も多いし、なんとなく暇つぶしになるかな。
なんか、大人っぽいし。
そんな単純な理由で美術館を訪れた。
 
初めての美術館で見た作品は、あまり覚えていない。
美術作品になにか感銘を受けたわけでもなく、とくに感動もなかった。
 
しかしなぜだか美術館特有の落ち着いた雰囲気が心地よかったので、
それから色々な美術館を訪れるようになった。
 
そうすると、不思議なことが起きた。
 
だんだん、絵を見る事自体が楽しくなっていたのだ。
 
しかも、大抵、一人で見に行くことが多く、美術や美術館のすばらしさを伝えてくれるひとがいなかったのにも関わらずだ。
 
一つの絵を見ながら、自分がその絵の中の景色にいたとしたら、どんなにおいがするか?
気温は、暑いのか、寒いのか? 風は吹いているのか?
なんて想像したり。
 
自分のお気に入りの画家ができたり。
 
自分なりに楽しむ方法が、行けば行くほど増えていった。
 
美術館なんて、これまで家族や友達も恋人も誰も行きたがらなかったのに。
 
美術とは程遠い暮らしだったのに、ふとしたきっかけで、美術館に行くことがとても楽しくなってしまったのだ。
 
美術館にすっかり魅了されていた。
 
そしてそれから2年たったある日、私は異世界を知ってしまったのだ。
 
渋谷で「俺たちの国芳 わたしの国貞」という期間限定の「企画展」が行われていた。
 
なんとなく面白そうだと思って、見に行ったのが始まりだった。
 
たくさんの作品が展示されていたが、歌川国芳の絵にちょこっと描かれていた猫がかわいらしく非常に気に入ってしまった。
 
ネコが後ろ足二本足で立って、前足を頭の上でひらひらさせている。
そして、頭から手拭いをぶら下げて、ニヤッとしている。
「踊る猫又」というらしい。
 
なんとひょうきんで可愛らしいんだ!
 
それからも、作中に出てくる猫がかわいらしく、そればかり熱心に見ていたほどだ。
 
そうしているうちに、展示スペースの出口についた。
 
展示スペースの出口には『ミュージアムショップ』が設置されていた。
ここを通らないと、美術館から出られないのだ。
 
ミュージアムショップ自体は初めてではない。
他の美術館や企画展でもミュージアムショップを訪れたことはあった。
 
ただ、お金を使うのがもったいない気がしたので買うことはなかった。
 
しかし、この時はいつもと違ったのだ。
 
あの、「踊る猫又」の手拭いが売られているではないか!!
ガチャガチャには、猫又のストラップもある!
 
買おうかどうしようか、非常に迷った。
 
しかし、結局もったいない気がして、買うことはしなかった。
 
『まあ、欲しければ、ネットとかでも売ってるかもしれないし』
 
そう自分に言い聞かせて、その場を後にした。
 
しかしそれから何日も、「踊る猫又」のことが気になっていた。
 
買わなかったけど、欲しい。
どうしても欲しい。
 
あんなに可愛いのなら、たいして用途がなくても、持っている事で自分が幸せな気持ちになれる。
 
そうだ、ネットで検索してみよう。
今時なんでもネットで買えるし。
 
「国芳 踊る猫又」で検索してみる。
 
画像はヒットするが、商品がヒットしない。
 
アマゾンや楽天やヤフーショッピングで検索しても出てこない。
 
なぜだ!!
インターネットで買えないものなどないだろう!!!!
本当に買えないの……?
え、まじで……?
 
私は非常に落ち込んだ。
 
そしてあの時買わなかったことを本当に悔やんだ。
 
ならば、展覧会にもう一度行って買えばいいのか、とも思った。
 
しかし、もう気づいた時には展覧会も終了していた。
 
「踊る猫又」を買えるチャンスはもうないのか……。
 
それからというもの、関連した作品を展示している美術館や展示に行った際、あの「猫又」グッズがないか、見るようにしていた。
 
しかし、猫又グッズが売られていることはなかった……。
 
企画展のミュージアムショップは異世界なのだ。
 
その時、その会場に足を運んだ人しか買えないものばかりが売られているのだ。
 
以来、私はその異世界の扉が開くたび、突入していろいろなグッズを買いあさっている。
 
企画展に熱狂したファンが、絵が描かれたクリアファイルだの、ポストカードだの、手拭いだの、たくさんあってもあまり使わないものを買いあさる異世界だ。
 
次の異世界には何が売られているだろう。
 
美術館の策略におもいっきり嵌められている。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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