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父はストーカーである


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中村里奈(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
「この間、お前の下宿先に行ったよ」
久しぶりに実家に帰った私に父は言った。大学3回生の春、私は大学の近くで念願の一人暮らしを始めた。大学には実家から片道2時間ちょっとで通えたが、課題提出と授業出席(+遊び)で大学にいる時間が延び、終電で帰れずクラスメイトの家に泊まる日が増えていたのだ。しかし、来るなら声をかけてくれればいいのに、家でお茶くらい出したのに。
 
「大学から歩いて20分くらいかな。近くにおいしそうなお店がいっぱいあった。学生街だから安いの?」
よく見ている、そうそう大学から家に帰る途中には自炊せずとも貧乏学生にお腹いっぱい食べさせてくれるとお店がたくさんある。
「でも、大通りの近くでうるさくない?」
は?? 下宿先は大通りを一本入った通りだから静かなのだ。来たならわかるはずだ。父の表現は変わったところがある、もしかしたら来たのではなく地図を見て予想しただけ? いや、しかし地図に載っていないお店情報に詳しい。
「Google street viewで行ったんだよ」
 
当時、地図に現地の実際の写真を埋め込んだGoogle street viewが出たばかりだった。なるほど、それなら周りの風景でお店のことはわかるけど、音の情報はわからないから発言に矛盾があったのか……でも、『来た』とは言わん。人の家の近くを詮索するなんて、家族でなければストーカーだ。
 
父は新しいサービスのGoogle Street viewを試しに使ってみたかったのだろう。昔から新しいものをよくチェックしていた。インターネットやDVDは普及前の出始めに手に入れていたし、パソコンは新しい機能が出れば即買い替え。スマホ、タブレットを買うときは、家電量販店で相談したり、まとめサイトを検索するより父に聞く方がまとまっている。
 
Googleで家に来た事件から12年がたった。子どもの私は社会人になり、結婚をして家を出て手が離れた。定年退職を迎えて時間もでき、母と二人で定期的に海外旅行に行くようになった。仲良く楽しそうだ。ところがある日、旅行先ではしゃぎすぎたのか、母が風邪をこじらせて帰国後に肺炎で入院してしまったのだ。
 
すぐに私は母のお見舞いに行った。顔色は多少悪かったが、私の姿を見ると口元に笑みを浮かべて手を振ってくれた。幸いにも軽症で薬がよく効いていて、すぐ退院できるとのことだった。私はホッとしてから持参した入院生活に必要なものを母のベッドサイドのロッカーに入れ始めた。父は定期的に祖父の介護に行っていて、それとタイミングが重なっていたために、入院に連れ添って母の荷物を準備して届けることはできなかったのだ。そのとき、ふと母は私に会話を切り出した。
 
「お父さん、病院に来たの」
 
私の学生時代の記憶がよみがえった。またGoogleで病院に来たのだろうか。
「病室がきれいだね。窓からの眺めもよさそうってLINEがきたの」
いくらGoogleでも病院の中までは見れまい。父は母の病室まで実際に来たのだ。しかし、なぜ直接来たのにLINEで会話したのだろう。少し疑問に思って、「お父さん、お見舞いに来たの?」と尋ねたら、母は首を横に振った。
 
「ううん、来ただけ」
 
一瞬の間を置いて大爆笑である。母は笑いすぎで咳が止まらなくなっている。
つまり、父は母の入院する病院まで実際足を運んで、母の病室を調べて、面会手続きを済ませて、母の病室まで来て、様子を確認したのに、母に会わずに帰ったのだ。そこまでのプロセスを踏んで会わないなんて、家族でなければストーカーだ。
 
父は、少し変わっているが愛情がないわけではない。初めて一人で暮らす子どもの家の環境を気にするし、旅行は常に母と一緒に行くし、体調を崩したら様子を見に来ている。週末になれば片道3時間半かけて祖父の介護に通い、それを20年近く続けている。ただ、私からは少しだけずれているように見えるのだ。
 
そういえば、最近で家にいることが増えた。実際に旅行には行けないが、リアリティのある映像を見ることで疑似的に遠い国に旅行をした気分になれるVR体験でのサービスがあるらしい。人に会う機会も減った。感染症は人に会うことで広がってしまいやすい。自分が元気でも入院中のお見舞いで患者さんに直接会って病原体をくっつけた状態で、さらに人に会うのは良くないかもしれない。
 
もしや、父にとって私の家に行ったことはVR体験だったのだろうか。お見舞いも、肺炎の母の様子が気になっていても、その次に会う祖父に病原体を持っていってしまうリスクを恐れたのだろうか。今では当たり前に使っているけれど、インターネットやDVDは発売当初は本で調べることやビデオテープを使っていた頃と比較して違和感があった。父は少し違和感のあることをするけれど、もしかしたら次の新しいものに興味をもっているだけかもしれない。
 
 
 
 
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2020-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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