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スパルタヨガに癒されて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:わかいく(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私は、スパルタヨガに通っている。
念のため言っておくと、「スパルタヨガ」というのは私が勝手につけた呼び名で、正式なクラス名はもっと素敵である。もしも本当に「スパルタヨガ」と銘打たれてしまっていたら、スパルタ嫌いの私は寄りつかなかっただろう。
 
スパルタと言ったが、先生自身はこわくはない。
スタジオの他の先生達に比べるとかなり年配の方だが、立ち姿は凛として美しく、サラサラのショートボブヘアに張りのある明るい声。
45分のレッスンを終えた後には、「気持ち良かったね!」と、とびきりの笑顔で見送ってくれる。
 
初めて先生のレッスンに参加したときは、その独特さを、正直なところ異様とさえ感じてしまい、ずいぶんと面くらった。
 
まず、先生のポーズ説明の描写がこと細かで、異常に長いのだ。
たとえば、いわゆる四つん這いになるとき、他の先生なら「肩の下に手、腰の下に膝がくるように四つん這いになって」で終わるところ、先生の場合はこうなる。
「まず肩の真下に手首がくるように両手でハの字をつくったまま掌を床につける、このとき両手の間は拳一個分。そして両膝の間を骨盤の幅と同じ幅にして膝が股関節の真下にくるように床につき、その状態から、手首は床につけたまま中指の先が正面を指す方向へゆっくりと両掌の向きを変え、同時に、床と背中が平衡になるように上体を保つ、胃が床方向に落ち込んでいる人は胃だけを少し奥にひっこめる、脇または肩甲骨を後ろの壁の方向へ引いて保つ……」といった具合だ。
単なる四つん這いでさえ、そこに至るまでの過程が長く、手順が多い。
途中、「息、吸って」「息、吐いて」という指示が挟まり、ずっと集中していなければ、最終的に正しくポーズがとれない。
内心、「この説明、全部必要??」と思った。
思ったけれど、なぜか先生の声には「一つも無駄な説明はない」と言い切る信念みたいなものが感じられた。
ポーズが難しくなっていくにつれ、投げ出したくなったことは度々だったが、どうにかこうにか気力を奮い起こした。
 
そうやって、どうにかポーズをとることができたとして、次なる試練が待っていた。
先生がポーズをチェックしにくるのだが、このときの修正が、冗談かと疑うくらいに厳しい。
たとえば「下向きの犬のポーズ」で両掌と両足の裏を床につけ腰を高く上げ山形になっている私の手を、「ムリムリムリ!」という遠さまで運ばせて「ここ!」と直し、痛みに耐え両腕をわななかせている私の、今度は両脚を、「ウソ~!」という遠さまで動かして「ここね!」と直す。
信じがたいムリな体勢をさせている先生に対して「本気か~?!」と思い、チラリとその顔を伺うと、先生は、迷いのない満足げな笑みをたたえ、さっさと次の生徒さんのほうへ行ってしまった。
心の中では「ひえ〜、本当にムリなんですけど〜!!」と絶叫しながら、今にも転倒してしまいそうな体を、力を振りしぼって必死に踏ん張りつづけた。
 
初回のレッスンが終わると、頭の天辺から足の先までグッタリとなり、完全に放心状態だった。「これは、きつい。息つく間もないスパルタヨガだ」と思った。
 
ただし、あとから、私の体内に何とも言えないスッキリ感がいきわたった。
先生曰く、「ヨガは矯正です」。なるほど、それならこのスッキリ感は腑に落ちる。
これが病みつきとなり、毎週吸い寄せられるように先生のレッスンに通うこととなった。
 
スパルタヨガに通い始めて、もうすぐ7年になる。
最近、スパルタヨガに深く癒されている自分に気づいた。
今でも、レッスンのきつさを思うだけで腰が引けてくる日もある程なのに、である。
多分、この7年間、先生のレッスンを知れば知るほど、先生のスパルタに癒されていたのだと思う。
 
何度も通ってから理解したのだが、先生の長くて詳細なポーズ説明は、正確なポジショニングへのこだわりのあらわれだった。見様見真似ではなく、できるだけ正確にポジショニングをしていないと意味がないのだ、と先生は言う。
今では、「頑張ってついてきて!」という先生の心の声が聞こえる。
 
ポーズの修正の厳しさは、先生が一人一人の体の癖を見ながら冷静に加えている修正だと分かった。そのときの先生の修正が自分にとってどんなに無理なものだと思っても、1年後には無理ではなくなっていたりする。
「まだまだいけるよ!」という先生の声が聞こえる。
 
先生のヨガに通いはじめて間もない頃、ヨガにはいろんな流派があるらしいことを知り尋ねてみたことがある。
「先生のヨガは、ハタヨガという流派ですか?」
先生の答えはこうだった。
「私のは……、何ヨガって答えたらいいか、わからないなぁ」
 
そのあと、先生は自分の話をしてくれた。
若い頃に体を壊して嫌というほど苦しんだ経験があって、その後ヨガ以外のいろんな体操や整体を取り入れ、身体の骨や筋肉のつくりを猛勉強して、今のスタイルに至ったとのことだった。
先生には、体を良くすることが唯一の関心事であり、流派など関係ないようだった。
そして、先生は弾けんばかりの笑顔でこういった。
「しょうがないよ、私、体のオタクだからね!」
レッスン初日に、先生の独特なやり方を異様だと感じてしまったことを思い出した。
オタクという表現が先生にしっくりきていて、思わず吹き出しそうになった。
 
今では、オタクの先生は、私の体の癖を知り尽くしている。
「先生、こんにちは!」と挨拶しただけで「こんにちは。忙しくて頑張ってた?胃が出て力が抜けちゃってるよ~」なんて笑顔でアドバイスをくれる。
私は、こんなオタクでスパルタの先生に出会えて、本当に幸せだと思っている。
 
コロナによるスタジオの臨時休業で3月からおあずけとなっていたレッスンだったが、先日、先生からオンラインヨガのお誘いの連絡をいただき、待ってましたとばかりに飛びついた。
久しぶりに会う画面越しの先生はいつも通りの先生で、嬉しかった。
臨場感に欠けるのかなと思っていたオンラインでのレッスンも、心配なかった。
先生から次々に名指しで飛んでくるポーズ修正の声が、かえって新鮮な緊張感を生んでいた。
自分の名前を呼ばれたときは、先生が自分のそばに直しに来ているような錯覚さえ覚えて、少しおかしかった。
オンラインでも健在のスパルタヨガだった。
 
 
 
 
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2020-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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