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美容院は、きらいだった。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:小島由佳子(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
美容院は、きらいだった。
なぜって、よく知りもしない美容師が「今日はどんな髪型にしたいですか〜?」って私の髪を触りながら軽いノリで尋ねてくる。
私は心の中で思う。そんな軽く答えられないよ、深刻な問題だし。って。
さらに、髪について聞かれるならまだしも「今日はお休みですか?」とか、ひとのプライベートに入り込んでくる。
この前触れ無しに懐深くに入り込んで来ようとする、その魂胆がまず気に食わない。
ましてや肝心の髪の仕上がりも、すごく梳いてきたりするひともいる。
あまり傷まないようにしたい、と言ったのに。
そんなんじゃ、仕上がりももちろん気に入らない。
 
なんだもう、こんなところ二度と来ない!
そんなことを繰り返していた。
 
そんな美容院嫌いの私が、
今の美容師さんにはもう10年ほどお世話になっている。
意思を持って「彼の元に通おう」と思ったきっかけが、ある。
 
それは社会人2年目に差し掛かった私が、短めのワンレンにあこがれ、長めだった髪をばっさりと切る、前髪をなくす、しかも生まれて初めて染める、という3大チャレンジをしようと思い立ったときであった。
 
担当の彼は、
えっ切っちゃうの?
とその時言ったと思う。でも、
わかった、とすぐに言って、
頑張って前髪伸ばそうね、って言ってくれたのだ。
 
結果、髪型も、色の仕上がりも、最高だった。
 
翌朝職場に行くと、顔を会わせるたびに周りのみんなが褒めてくれた。
いいね、似合ってるよ! って。
こんなにポジティブに自分の髪について考えられたのは、これが初めてだったと思う。
 
そのときが彼との初対面ではなかったと思うのだが、はっきりとは覚えていない。
今思えば、彼はそこまでぐいぐいと話しかけてくることもなく(単に忙しかっただけかもしれない)、再現性の高いスタイルを得意としていたことから、仕上がりも気に入っていた。だから2回目以降も通おうと思ったのだと思う。
 
そして正直、もう新しい美容院を探すのにも疲れ果てていた。
そもそも、初めてのところばかり訪れていては私の性格を理解して接してくれというのも困難なオーダーであろうし、髪質もいくらプロとはいえ1回では分からないこともあるだろう。それは頭では理解していたのだが気持ちがついていっていなかっただけだったのだ。
 
この出来事を経て、私は髪も気持ちも、大人になった。
私の髪のことを考えてくれる人のところで、自分もきちんと向き合おうと。
それから、私は彼の元に意思を持って通い始めた。
 
そして、今も通い続けている。
その理由は、通い始めたきっかけとはまた別にある。
それは、いつも「あれ」がもらえるからだ。
 
彼はその時からいつも私の髪を、たくさん切りたがる。
よっぽど短いのがいいらしい。
「今日は切る? 切っちゃう??」
伸ばしたい私は首を横に振る。
「じゃあ整えるだけね。色は?」
うーん、ちょっと春っぽくしたいかなぁ。
「わかった、春っぽくね、用意するね」
 
それだけ言って、髪についての話題はもう終わり。
あれやこれや、聞かれることはほとんどない。
もちろん、会話はする。最近仕事どう? とか、どこに遊びに行った? とか。
10年も通っていれば、なんとなく間合いもわかるし、心地よい。
 
そしていつも彼は私の髪を触りながら、褒めてくれる。
「いやー毎回言うけど、いい髪質だよね」って。
 
これって、思っていても毎回言ってくれるのはやっぱりすごいことだと思う。
 
そして仕上げはいつもコテで巻いたりなんだり、好き勝手されている。
思い通りに仕上がるらしく、楽しいらしい。
 
今日も来て良かった、といつも思う。
 
お店を出た時の私の足取りは、いつもより軽い。
ショーウィンドウに映る自分を見て、少し嬉しくなる。
できればデートは美容院アフターにしたい。
そのまま家に帰るなんて、もったいない。
 
そう、私はいつも彼に「自信」をもらっている。
 
いつだったか、受付の女の子が教えてくれたことがある。
パーマをかけた日だった。「○○さん(美容師さん)、ほとんどパーマかけさせないんですよ。今日はよくかけてくれましたね」って。
確かにパーマかけるまでに1回か2回くらい待たされた気がする。でも結局私が折れなかったから、彼が折れてくれた。
というか、普通お客さまがこうしたいって言ってるのに、反対する人いる?
でもきっと、多分髪が傷むことを考えて……、だよね。
それほどに、考えてくれているんだ、と。
 
そうか、彼は私の「髪の恋人」なんだ。
 
だから彼は私の髪に触れ、一瞬思い巡らすように止まって、考える。
思い通りになるのが楽しいと、仕上げで遊ぶ。ときにはパーマに反対もする。そして毎回、褒めてくれる。自信をくれる。
 
そして私はまた褒めてもらえるように日々のお手入れをきちんとする。
ちゃんと定期的にメンテナンスしてもらうために、通う。
お金も、時間も惜しまない。
だって、恋人のためだから。
 
そうすると、友達や周りの人にも、髪のことをほめてもらえたりする。
このエピソードも、友達に「今度髪のこと記事に書いてよ」そう言われて、思い出した。
こんな照れくさい話、誰にもしたことがないけれど。
 
次は私の「髪の恋人」に、いつ会えるかな。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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