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メディアグランプリ

究極のジャケ買い。本を「存在感」で選んでみよう。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:木村 勉(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
「本が好きだ」と言うと、「どんなものを読むの?」と聞かれて、答えに困る。
頰杖ついて、「太宰治」なんて答えれば、インテリに見えるだろうか。
煙草片手に、「松本清張」なんて答えれば、ミステリアスに思われるだろうか。
しかし、実をいうと小説をあまり読んでいない。
月に10冊以上は本を買うのだが、印刷関連の仕事をしている関係もあり、ほどんどがアプリケーションの解説本、印刷関係の技術書、デザイン関係の本。
専門書の話をしても、話は続かない。
最近、三島由紀夫の映画を見る機会があって、『潮騒』を読んでみた。
小説は、なにかきっかけがあって読むくらいなのだ。
 
では、本のどこが好きかと聞かれると、造形が一番だと思う。
カバーがあり、表紙があり、開くと遊び紙があって、中トビラがあって……
ハードカバーはフォーマルな佇まい。遊び紙の色と、花布(はなぎれ:背表紙の上下についている飾り布)や、しおりの色が揃っていたりすると、隠れたオシャレをしているようでシブい 。
カジュアルなソフトカバーも、カバーに使われている紙が手触りが良いと、ついついさわってみたくなる。
 
最近では、マニアックに、本文の文字にどんな書体が使われているか、明朝体の中でもどのメーカーの明朝体か……なんて所を見るのも好きになっている。
 
本を手に取るときにみなさんは、なにを基準にしているだろうか。
もちろん、中身が面白いのが一番だけど、本の顔といえば、なんといってもカバーだ。
 
本の装丁が気に入って買う、という人は多いだろう。
「見た目が9割」なんて、よく聞くフレーズだけど、直感的な印象はとても強い。
そして、私はけっこうジャケ買いをするのが好きだ。
小説をあまり読まないといったけれど、たまに物語を読みたいなと思ったときは、装丁を頼りにする。
たぶん、直感で手に取ったつもりでも、一瞬のうちに自分の好きな要素――私であれば、カバーや、表紙や、本の作りから――なんとなく本能で嗅ぎとっているのだと思う。
「ビビビっときた」というやつ。
そして、ジャケ買いは、アタリを引いたとき、興奮度が増して本がより面白くなることもある。
 
じつは、もっとエキサイティングな、究極のジャケ買いがある。
これは、あくまで私の経験だが、それは、本屋の平台に並んだ表紙の中から選ぶより、自分に合う本に出会う確率が高い方法だ。
アタリを引いたときの興奮度も高い。
それは、背表紙のジャケ買いだ。
 
カバーが本の顔なら、背表紙は存在感だといえる。
 
たとえば、人を好きになる理由を考えてみて欲しい。
外見、性格、価値観や、経済観念など、たくさんあるだろう。
それを本に置き換えるならば、
外見は、本の顔「装丁」。
内面は、なんといっても本に書かれた内容「本文」だろう。
 
背表紙は、もっと本能的な、空気感や価値観。
つまり「存在感」を表している。
 
私は以前に大学の図書館で働いていたことがある。
地下の書庫には、平台などない。スチール製の本棚に、できるだけたくさん収まるよう、隙間なく並べられているだけだ。
 
そんななかでも、目に飛び込んでくる本があるから不思議だ。
まるで「読んでくれ」と呼びかけてくるようで、思わず手に取ってしまう本。
 
情報は背表紙だけ。
 
しかも、私が働いていた図書館では、カバーをすべて剥がして管理していた(公共図書館などは、表紙に透明な保護フィルムを使っているところも多いだろう)。
デザイナーが苦心してデザインしたであろうカバーは、残念なことにすべて捨てられていた。
凝ったデザインの本でも、カバーの下の表紙はモノクロで、文字だけだったりすることが多い。
 
それなのに、背表紙から呼びかけてくる本は、自分のアタリになる確率が高かった。
 
なぜ、タイトルが書かれているだけの背表紙に、違いを感じるのだろうか。
図書館の棚を眺めながら、分析してみたことがある。
そして、私なりに気づいたことがある。
 
ひとつは、タイトルがダイレクトに響いてくること。
これは選挙ポスターのスローガンのようなものだ。
本のタイトルは、その内容を端的に表したり、読書にどんな価値をもたらすのか、工夫を重ねてつけられている。
スペースの限られた背表紙では、そのタイトルが直接目に飛び込んでくる。
実際に、「タイトルが命」といわれる新書本に目がとまることが多かった。
 
もうひとつは、空気感。
これはちょっとマニアックな話かもしれない。
私が気になったものは、パソコンが生まれる前の印刷で刷られたものが多かった。
アナログのころの文字は、シャープな線が出ない。活版印刷であれば、印刷したときにインクの滲みが出る。
これは、私がちょっとレトロなものが好きなことや、のちに印刷関係の仕事に就くことと、本能的に繫がっているのではないかと思う。
 
本をデザインする人は、たった1行のタイトルでも、タイポグラフィに余念が無い。
書体の持つ雰囲気。文字の間隔でも微妙なイメージが変わることを知っているのだろう。
それらの、ほんのちょっとの空気感が、装丁よりも、もっと繊細に心に響いてくるのだ。
 
本の顔の「装丁」は、化粧ができる。
金色の文字にすれば高級感を出せる。
帯に有名人の推薦文をつけ、いわば、友だちから告白の後押し、みたいなこともできてしまう。
 
内面は一番重要だけれど、悲しいかな、知りあうには時間が必要だ。
 
恋人の好きな理由をハッキリ言葉にできるだろうか。
「やさしいから」「一緒にいて楽しいから」と言っても、実際は「なんとなく惹かれた」という部分も多いのではないだろうか。
「遺伝子レベルで異性と惹かれ合う」なんてことを言う人もいるが、それこそ、言葉にできない本能的な部分で惹かれあう、ということだろう。
 
恋愛するように本を選ぶ。
本屋に行ったら、平台ではなく、棚を見よう。
きっと呼びかけてくる本があるはずだ。
背表紙から本に一目惚れしてみるのも、たのしいのではないだろうか。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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