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イルカという生き物


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:三輪恵子(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
私は海で泳いでいた。
前方に見えるイルカを追いかけていたのだ。
イルカは左右に蛇行しながら、悠々と泳いでいる。
しかし、私がいくら頑張って泳いでも、なかなか追いつけなかった。
 
必死に泳いでいる私に少し遅れるように、誰かが泳いでいた。
イルカに合わせて左右に蛇行すると、その誰かも気味が悪いくらいピッタリとついてきた。
誰が泳いでいるのだろう?
少し気になったが、私はそのことよりも目の前のイルカを追いかけるのに夢中だった。
 
しばらく泳いだが、なかなか追いつけず、疲れもたまってきた。
もういい。イルカを追うのを諦めた。
そして、ずっと私と一緒に泳いでいた誰かの方をふと振り返った。
その瞬間、いたずらっ子のような顔をして、こちらの様子をうかがっている“それ”と目が合った。
 
なんと! 私の横を泳いでいたのは、イルカだったのだ。
 
そうとは知らず、目の前のイルカを必死に追いかけていた私。滑稽である。
目が合ったあと、いたずらに満足したかのように、そのイルカは去って行った。
 
私をからかっていたイルカは、野生のミナミハンドウイルカである。
こちらを見つめていたその眼差しは、いたずらっ子がこっそりと相手の様子を伺っている、そんな風にも感じられた。
 
イルカを実際に目にしたことのある人は多いだろう。
そう、水族館に行けば、イルカショーをやっているからだ。
 
ショーに出てくるイルカは、ジャンプしたり泳いだり、指示通りに正確に、そして俊敏に動く。
調教の仕方にもコツはあるのだろうが、頭がいい動物なのだろう。
 
イルカショーを見れば面白いと思ったし、イルカのことも凄いと感じた。
でも、それだけだった。
正直なところ、それで特に興味がわくとか、一緒に泳ぎたいとか、そんな風に思ったことは一度もなかったのだ。
それが、海でイルカを追いかけることになるとは…… 人は変わるモノである。
 
私が初めて野生のイルカと出会ったのは、小笠原の海だった。
 
船で海に出ると、いつもというわけではないが、どこからともなくイルカがやって来る。
そして、船を先導するかのように、イルカの群れが船の前を泳ぐのだ。
 
イルカたちは、波で遊ぶのが好きなようだった。
船の前を泳ぐこともあるが、船の後方の波が立つところを泳ぐこともあった。
船を大きく旋回させて波を作ると、その波にのって波乗りもするのだ。
波乗りをするイルカたちは、実に楽しそうに見えた。
いや、実際に、楽しいのかはわからないが、何匹ものイルカが波乗りをして遊んでいたのだから、イルカにとってはレクリエーションの一つなのだろう。
 
小笠原では、船の上からイルカを見ることは多かったが、一緒に泳いだことはほとんどなかった。
私は、いつしか“もっと海でイルカと遊びたい”と思うようになっていた。
 
でも、小笠原は遠い。唯一の交通手段は6日に一度の定期船で、その当時は、東京の竹芝桟橋から片道25時間半もかかったのだ。長期休暇の時にしか行けない場所だった。しかも、滞在中のアクティビティはダイビングがメインだったので、イルカと泳ぎに行く時間を取ることもできなかった。
 
イルカと泳ぎたい。
 
調べてみると、同じ東京都にイルカと泳げる島があった。
伊豆諸島にある御蔵島だ。
 
御蔵島は、海の上にお椀をひっくり返したような形の島だった。海に面しているところはどこも急な斜面で、波のあたらない穏やかな湾といったものはなく、唯一の港は、唐突に島から海に向かって桟橋が1本伸びているだけだった。
そのため、黒潮がかかると、海水温が上がり透明度が上がるのはいいのだが、潮の流れが桟橋にぶつかるため、大型の定期船は着岸が難しくなることもある、そんな島なのだ。
 
御蔵島の周りには、野生のイルカが住んでいた。その正確な数について私にはわからないが、海に出るとほぼ必ず群れに出会うことから、多くのイルカが島の周りにいるのだろうと想像した。
 
御蔵島のドルフィンスイムの船は小型の船で、10人も乗ると船の上はいっぱいだった。
港を出て船を走らせ、イルカの群れを見つけると、船で先回りして海の中でイルカが泳いでくるのを待つ、ドルフィンスイムはそんな感じだった。
 
イルカの機嫌のよい時は、長時間、一緒に泳いでくれることもある。泳ぎが得意な人は、水中に潜ってイルカと一緒にクルクルと回って遊んだりもしていた。
その一方で、人間には知らん顔の時もある。私たちが海に入って待っていても、海の中の深いところを泳いで通り過ぎてしまうのだ。
 
また、イルカは賢い生き物だった。
イルカの群れを見つけて海の中で待っていると、群れの中から1匹だけが私たちの方にやってきた。イルカと遊べる! みんなが一斉にそのイルカに向かって泳ぎ始めた。しかし、そのイルカは、少しだけ私たちの相手をすると、さっさと群れを追いかけて去って行ったのだ。
そう、そのイルカは囮だったのだ。
1匹が全員を引きつけているあいだに、他のイルカたちは悠々と私たちを避けて泳いで行ったのだ。
すばらしい連係プレーである。これに気づいたときには、感心した。
 
また、イルカには優しいところもあった。
私がイルカを追いかけて泳いでいた時のことである。突然、紐状のものが足に巻き付いたのだ。嫌な予感がした。やばい、カツオノエボシかも。触手が長く刺されると厄介なクラゲのことが頭をよぎった。
と同時に、その巻き付いたものから、何かが足に向かって差し込まれた。数百本の針を同時に刺されたかのような強烈な痛みが全身を貫いた。
 
痛い! 痛すぎる!! 泳いでいる場合じゃない。死んじゃうかも。その時は、あまりの痛さに、ホントにそう思ったのである。
とにかく船に戻ろう。
船に向かってのろのろと泳いでいたら、1匹のイルカが近づいてきた。イルカは私の方をのぞき込むような仕草をしていた。大丈夫?そう言っているように感じた。
船に戻る途中、イルカがついてきた。ありがとう。遊びたかった……
 
そのあとは、船の上で休憩し、その日はあまり泳げなかった。船長に見てもらったら、やはり刺したのはカツオノエボシだろう、とのことだった。
その日は、とんだドルフィンスイムになったが、イルカが一緒に泳いでくれただけでも満足だった。
 
ちなみに、冒頭でいたずらっ子のイルカについて書いたが、そのイルカと出会ったのも、御蔵島の海だった。
あの、イルカと目が合った時のことは、一生忘れない思い出だ。
 
イルカは、とても頭がよく、いたずらっ子で、優しい生き物だ。
泳ぐのが好きな人には、ぜひ、いちど野生のイルカに会いに行ってみることをおススメする。
 
 
 
 
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2020-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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