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メディアグランプリ

自分という森を育てる。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森真由子(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
「何を目指しているの?」
以前「何もない」状態だった私に、ここ数年で趣味が増えていく様子を見て、
家族や友人にはこんなことを言われるようになった。
 
社会人1年目、仕事を任せてもらっていたからか、ただただ効率が悪いからか、平日は毎日夜まで会社に残ってしまっていた。慣れない仕事から帰ってくるとベッドまで辿り着けず、文字通りぐったりしてソファで寝てしまう日も多々あった。休日は友人と会う予定がない限り、睡眠に捧げるだけの安息日だった。
数ヶ月そういったサイクルが続くと、ある日自分がとても空っぽに感じた。やってみたいと言っていた仕事を入社当初からやらせてもらっていたのでそのことには不満はないが、どうしようもなく自分には「何もない」という感覚に陥ってしまったのだ。突然何かの拍子で仕事ができなくなったらどうしよう、そうなったら私には「何もない」。そういう気持ちが頭をよぎるようになった。
 
当時、私にはこの「何もない」という感覚は「好きなものがない」「趣味がない」という自覚から来ていた。趣味と言えば読書くらいだった。気が付けば、友人と会う時は必ずと言っていいほど、「趣味がない」と繰り返し言っていた。今思うとなんと迷惑な愚痴をこぼしていたことか。そういう状況がまた数ヶ月続くと、空気を入れすぎてしまった風船のようにパンっ、と何かがはじけた。
 
ボーナスが入ったから、思い切って一眼レフカメラを買った。周りの女子から写真をもらうばかりで、携帯を持っていても自分から積極的に写真を撮るような人ではなかった。でも買ってみたくなったので素直にその気持ちに従った。そこからだった。
 
色々なものが芋づる式に気になっていった。
カメラで風景や身近にあった花や雑草を撮った。そのまま雑草観察が好きなり、もっとたくさんの種類が見たくなってハイキングもした。ハイキンググッズを集めるうちに登山靴を履いて山を登り始めた。……こんな感じで、どんどんいわゆる趣味と言われているものが増えていった。
読書、カメラ、雑草観察、登山、つまみ細工、レタリング、芸術鑑賞、デッサン、ライティング等……。
中途半端もいいところだ、プロ・マニア級なものは一つもない。
それでも、自然が好きな自分、芸術に心を揺さぶられる自分、言葉の世界にはまっていく自分、今まで気付かなかった違う自分と出会い、今までにないほど自分の中身が豊かに感じられた。
 
こうなったのはある意味学生時代の反動だったのかもしれない。
私は自分に向いていなかったスポーツを7年間やっていた。努力も足りず才能もなかった、そう言われてしまえばそこまでなのだが、私は続けていればいつか「上手くなる」と信じていた。最初はできるようになれたらいいな程度の目標だったはずなのに、人間は欲張りな生き物である。あるところまで到達すると上には上がいる、まだ上手くなっていない、と思ってしまうのだ。
周りの子達が色々なことに挑戦している間、私は真面目な性格から、「選択と集中」という言葉を真に受けて、ずっとそのスポーツだけをやっていた。上手くなったら、次はあれをやりたいな、なんて考えていたが、いつまで経っても「上手くなった」という感覚にならない。だから次の新しいことへ進むこともなかった。
種から育てたその植物を大事に愛で、小さな木くらいにはなった。しかし成長はそこまでだった。私にはその小さな木以外は「何もなかった」。
そういう虚しさを抱えたまま、そのスポーツを辞めて社会人になった。
 
「何を目指しているの?」
趣味が増えてきた頃、友人からそう言われるようになった。
何を目指しているのか? 当初はなんとなくとしか答えられなかったが、今はこう答えたい。
「森になりたい」と。
死ぬときは「豊かな人生だった」と言って、目を閉じて様々な木で青く茂った自分の森を思い浮かべてから逝きたい。今、私が目指す姿はこれである。
(特に掛けている訳ではないので、どうかこの際は私の苗字を忘れていただきたい)
 
目標は決して多趣味になることではない。色々な自分が共存している豊さを育んでいくことだ。
学生時代は大事にずっと1本の木を育てていたが、小さな木で止まってしまった。
社会人になって、仕事という1本の木を育てているが、それしかないことが怖かった。
それがぽっきり折れてしまったら、自分には何もない状態になってしまうことを恐れた。
だから同時にいくつかの木を育て、どれかが折れても自分という森が保たれる状態にしたかった。
ネガティブなところから始まってしまった自分の森づくりだったが、色々な自分に気付けたことで、今は程よく元気な穏やかさを持ち始めている。たまたま今の私は趣味に時間を費やしているが、人によっては妻・母・上司等の肩書きを持つことでまた新しい木が育つかもしれない。
 
もし自分には「何もない」と思っている人が他にもいたら、趣味でもどんな形でもいいから新しいことに触れて、まずは自分の中に種をまいてみてほしい。そうして茂みや木をいくつか増やしていくところから始める。少しずつ違う自分の一面と出会い、いつか全体としてより豊かな自分になるだろう。
私の森はまだ数本の細木と茂みしかないが、それらが土壌に深く根を張り、どんどん豊かな森になっていけばぽっきり折れてしまいそうな自分よりももっと強くなれる気がする。
だから時間がかかってもいいから、これからも自分という森を育てていこう。
 
 
 
 
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2020-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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