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45才の看護学生


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記事:ほりのうちかおり(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
やり残したことがあるような気がして、新たなフィールドにチャレンジしたくなる中高年は多いみたいだ。
いつまでも迷っているなら、いっそやってみるのも悪くないかもしれない。
わたしはそうだった。
 
45才になって看護学校に入学した。
若いころにやりたかったことがあったのだが、体を壊してできなくなった。
そして40才をすぎてようやく、何か別のことをやってみようという気持ちになった。
それで、看護師になろうと思った。
 
世間では看護師不足といってるから、きっと就職もできるだろう。
また、知り合いに看護師がいるが、しっかり者で、家もきれいにしていた。
だから、女性にとってわりとよい職業なのではないだろうか。
5年ほど考えて、ようやくやってみることにした。
 
実際、看護学校に入学してみると、仕事や家庭との調整が、思っていた以上に大変だった。
でも、いままでの仕事をしているのとは違う出会いや、学びがたくさんあった。
 
わたしが入学したのは、働きながら准看護師を養成するコースで、2年で修了する。
もともとは戦時中に看護師が足りなくて、中学校を卒業すれば入学資格を得られるという、緊急の措置でできた資格であったそうだ。
でも今はずいぶんと事情が変わってきて、働きながら看護師資格を得たい社会人がほとんどだ。
わたしのクラスの平均年齢も30歳を超えていた。
 
そのように、様々な背景の学生がいた。
高校を卒業して、正看護学科に落ちたから来た現役生もいたし、
付き合っている彼女や奥さんが看護師で、感化されて自分も看護師になろうという転職組の男子もいた。
介護業界などにいて、ステップアップではいってきた人。
あと母子家庭のお母さんは結構多かった。どうやら国からの就業支援の手当てなどがあったみたいだった。
 
わたしはその年クラスで最高齢だったので最初の頃は、多少肩身が狭かった。
ほぼ現役生の正看護学科の学生と校舎は一緒なので、わが子のような年齢の学生が多く、校内ですれ違うと、最初の頃は先生と間違われ、よく挨拶などされたものだ。
 
入学して間もなく採寸してナース服を作った。
出来上がったナース服を着ると、最初はコスプレみたいだったが、なんだか嬉しくなった。
 
学生の年齢幅は大きいいが、グループワークが多く、協力してやっていく。
看護演習では患者役とナース役に分かれて、演習を行う。
口腔ケアという歯磨きの実習で患者役が回ってきたときには、長年放ってきた虫歯を後悔した。
爪切りの実習では、足の指の形が悪いのが気になった。
若い学生の前でそんな姿をさらすのが恥ずかしかった。
 
先生方はほぼ私と同年代だ。校長も教頭も、担任も、その他のスタッフも、みんな長いこと看護師をやってきた、現場上がりの人たちばかりだった。
だから先生でありながら、看護師であり、普通の学校とはいささか異なった雰囲気だった。
 
学校に入ってから、看護師にいちばん大切なのは観察だと教わった。
看護師は患者の、「なんかいつもと違う」という、ちょっとした変化にどれだけ気づくか、そしてそれをみんなに伝えることを使命だと思っている。
だから、1クラス25名しかいない学生は、先生方にそのような目でこと細かく観察されていた。
 
もう一つ看護で大事なのはクリティカルシンキングだと教えられた。
これは批判的思考というらしい。「ほんとにそうかな?」と疑いの目で見ろというものらしい。
本来は安直に結論を出さずに、考え続けて、正解にたどりつけ、という意味合いらしいが、学生の身としては緊張感があり、油断していられない。
 
そんなだったから、先生方は、学生のことをいつも批評して、共有している。学校というのはどこもそうだろうが、うかうかできない。
 
しかし、この年になって、同年齢の方々に面倒を見てもらっているのだから、ありがたい話だ。
 
ふりかえると、准看護学科にはいってくる学生は、皆が何かしらの悩みを抱えていた。
学力が足りなかったり、経済的に不足していたり、あるいはわたしのように第二の人生を探していたりと。その分、一人残らず全員が、人生を好転させようと一生懸命な素敵な集団だった。
 
しかしながら、そういう学生に対して、看護学校というのは、やたらと追い詰めるような機会を作るSっけたっぷりなところだ。
「看護とは何か」というテーマのレポートはいったい何回書かされただろう。
そして提出期限だったり、その作法だったりは最重要事項だ。
 
でも成績が悪いのは、かなり考慮される。赤点ギリギリだったりすることは大丈夫だ。
できないことを素直に訴えて、頑張る姿勢を見せれば救ってくれる。
 
ただし、クラスという仲間のコミュニティに協力的でないことは許されない。
仲間との演習に参加しなかったりしたら、しつけという名目のいじめが始まる。
「あの子はねぇ~。努力が足りないのよね~」と教師が学生に、別の学生の話をしたりする。下手をしたら、遠回しに、教育を命じているかのようだ。
どの世界でもそうかもしれないけれど、看護学校の集団の圧力は特にきつい。
 
しかし、それを乗り越えれば花の戴帽式だ。ろうそくをもってナイチンゲール誓詞を述べる。それは感動的だ。「よくこの苦しい学生生活を乗り越えた、もう二度とこんな思いはたくさんだ」、とほとんどの学生は思っている。
 
このようにして45歳の看護学生は、看護師になった。
苦労してとった看護師の免許は本当にうれしかった。
看護学校はワンダーランドだった。
 
なので迷っているなら、案ずるより産むが易し。
きっと年齢はよいスパイスになって、またとない経験になるだろう。
チャレンジしてみるのも悪くないかも。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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