fbpx
メディアグランプリ

流れに身をまかせたら、団地がすきになっていた

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:fukamachi(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
「お~やってるね~! 元気か?」
「これいる? いらないなら捨てるけど」
「ダメダメそんなんじゃ! わかってないな。これだから若い奴はぁ」
 
私が団地で掛けられた言葉だ。ダメ出しをされることもあったし、文句も言われた。だけど、その分やさしい言葉をかけてくれたし、いろんなことを教えてくれた。
 
私は大学生として過ごした時間の大半を団地にささげた。
始まりは不意なことだった。興味のある授業を教える教授から、週末のイベントに人手か足りないから来ないかと言われ、その後の研究室配属や授業の評価に少しでもいい影響が出るならと、その申し出を快諾した。しかし、それは私と団地の長い付き合いの始まりだった。
 
具体的な説明がされぬまま、その週の日曜日朝9時に○○団地に来いと。その時点でちょっと失敗したかなとも思ったが、代打を探す時間もなくイベントに参加することになった。学生だった私の役割は大したものではなかったが、イベント後に団地の自治会長や管理会社のエリア代表と担当者、地域づくり関係のコンサルなどとあいさつをさせられ、「団地再生や活性化に興味のある学生です。今後関わると思うのでよろしく」と紹介された……。私の目は泳いでいたに違いないが、18歳そこそこの若造は為す術もなく、荒波にのまれていった。
 
それからというもの、春夏秋冬のイベントが来るたびに駆り出された。春には花見イベントを手伝い、夏にはひまわりを植え、祭りの手伝いをし、秋には団地の文化祭。年末にはクリスマスツリーを出し、餅をつく。さらには畑を耕すことになっていて、夏野菜やサツマイモ、里芋なんかも育てた。団地の住民たちも、最初は近隣大学の学生ぐらいの認識だっただろう。しかし、通っているうちに顔を憶えてくれ、名前を憶えてくれた。いつの間にかあだ名が付いていた。なんとなくうれしかった。
 
気づいたころには団地の中に、大学研究室のサテライトラボ(研究室の派出所のようなもの)をつくる話になっていた。教授の思惑通りなのかとんとん拍子で話は進んだ。そのとき、私は大学4年になっていた。団地内の空きテナントを借ることができて、研究室のメンバーと改修をした。いつの間にか団地の中に居場所ができていた。
しばらくすると今度は教授から、平日もなるべく開けたいから可能な時間は駐在してくれないかと言われた。いつも身勝手で急な人だなと思ったが、授業もほとんどないし小遣いもくれると言うのでその申し出を受けた。卒論の内容を団地にすればよいと丸め込まれた点もあるが、今回はよく考えた上で団地と関わりたいと思っていた。
ラボが開かれるようになると、おばあちゃんたちがお茶をしにきた。子どもたちが遊びに来るようになった。月に1回団地を考える会が開かれた。何かを教えられるような先生役を募ると、団地にはあらゆる分野のプロがいた。なんとなく団地との関わりが楽しくなっていた。
 
みんなが就職するなか、私は大学院に進んだ。団地での活動が中途半端なような気がして、その時卒業することは団地で関係を築いた人たちを見捨てるかのように感じてしまったのだ。正直その後の活動自体が大きく変わったわけではないが、段々といろんな学生が団地に来てくれるようになった。文化祭には学生サークルが舞台に立ち、留学生には出店の手伝いをしてもらった。ロボットを研究している学生などが団地でデモをさせてほしいと言えばいつでも場所を貸した。その時はもう大学院2年生だった。いつもラボに来てくれる子と遊んでいると、通りすがりのおじさんに元気なお子さんですね、と言われた。子持ちに見えたか……と正直へこんだが、気づかないうちにもう団地に染まっているのかもしれないと思った。
 
団地には、いつもおせっかいを焼いてくれるおじさんがいた。あれやこれやと持ってきて、なんでもくれるおばさんがいた。口調はきついけど、面倒見のよいおじいちゃんがいた。
季節のことや生活の知恵、話の長い大人との付き合い方、たくさんのことを教わった。知り合ったばかりの私たちのことをいつも心配してくれていた。とても温かい場所で、地域と関わることも悪くないと思わせてくれた。
 
いま団地は大きな変わり目にある。
鉄筋コンクリートの耐震性は約50年と言われ、高度経済成長期にできた団地の多くが老朽化をむかえ、建て替えか建て壊しの岐路に立っている。住民の同意を得なければいけないので、すぐに建て壊しはないだろうと思うが、思い出がたくさんできた団地がなくなってしまうかもしれない。私の思い出なんて大したものではないが、たくさんの人の記憶がつまった場所である。
一方で、最近はIKEAや無印良品とコラボレーションをしたり、リノベーションで新しい住まい方を提案したりと多様な世代に団地暮らしが見直されはじめている部分もある。また、鮮やかな色彩の外観やデザイナーによるイラストレーション、アーティストの居住を進めてアートプロジェクトを行うような団地もある。
従来からの地域の温かい部分に加えて、時代のニーズに合わせてあらゆる暮らし方にマッチした住まいが提供できるようになれば団地は無敵に違いない。可能性にあふれた団地がこれからもたくさんの人との記憶を紡いでいけるよう支えていきたい。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 

★人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」


 

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

天狼院書店「プレイアトレ土浦店」 〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2020-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事