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死をもって届けられた人生の指針


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

平野友喜(ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
それは、大学1年生の夏だった。
田舎から東京へ出てきて大学に通っていた私の、携帯電話が鳴った。
当時、近所のコンビニでバイトを始め、いつも仲間内でつるんでいた私は、その時もバイト仲間と遊んでいた。隣で仲間がギャアギャア騒いでいる中で、電話を取る。
 
「もしもし、ユキ? 落ち着いて聞いてね。A子ちゃんが亡くなったの。ずっと心を病んでいたんだけど、ドアノブで首を吊ってね。自殺だったの。お葬式、明日なんだけど帰ってこれないよね?」
 
にわかに信じられなかった。
私の顔色がみるみる変わるのを見て、仲間の一人が言った。
「お前、大丈夫?」
 
A子とは中学の時の同級生で、中2の時に同じクラスになり、いつも一緒にいた。高校で別々になってからは次第に疎遠になっていたけれど、中学の時の同級生の男子と付き合っていて、彼氏のほうからA子のことは話に聞いていた。
 
A子の死は、人生の中で「死」など全く意識したことのなかった18歳にとって、あまりにも突然だった。この若さで、まさか人は死なないと思っていた。確かに、子供の頃から病気を抱えている子はいるけれど、そうではなくて、健康に生きてきた身近な友人がいなくなるなんて想像などできるはずがなかった。
 
しかも、事故死とか病死などではなく、自殺だったことが私の心にさらに追い打ちをかけた。事故や病気であれば、まだ「残念だけど、仕方なかったね」と思えたかもしれない。しかし、「自殺」は違う。自ら命を絶った、そしてそれほどまでに彼女が追い詰められていたという事実が強烈に私や友人の心に突き刺さった。
とりわけ、彼氏の憔悴はひどかった。
「A子の苦しさになんで気づいてやれなかったのか」
「A子になんで何もしてやれなかったのか」
それは、私たち友人も同じように感じていたことだ。
涙を浮かべながらそう言う彼に、何もかける言葉が見つからなかった。
 
18歳にして私は、初めて「人は死ぬ」ということを経験した。
そして、18歳にして亡くなった彼女と、まだ生きている自分の人生を想った。
生かされている自分はどう生きるべきなのか。
こうしてA子が死をもって伝えてくれたメッセージは、その後の私の人生の指針となった。
「いつ何が起きるかわからないし、人はいつ死ぬかわからない。亡くなってしまう人がいる中で、生かされている私は、A子に恥じない生き方をしたい。いつ死んでも後悔しないように、やりたいことは全部やろう」
 
そして、大学を卒業し社会人になった。
私は一時期、東ティモールのNGO団体でボランティアをしていた。そのNGOは、日本人、マレーシア人、カンボジア人、コロンビア人、ヨーロッパからのボランティアなどが宿舎に寝泊まりして、共同生活を送りながら活動している団体だった。
ヨガ講師をやめて東ティモールに渡った私は、東ティモールでも時間を見つけてはヨガをしていた。そんな私の姿を見て、「僕にヨガを教えて」と言ってきたのがシャンカールだった。
 
彼はとても心が優しくて繊細だったが、太っていたのでそれを気にしている節があった。だから、ヨガで体重を減らしたいという彼のために、私たちは毎朝みんなが起きてくる30分前に起きて、一緒にヨガをしようと決めた。朝起きれなくて、シャンカールに待ちぼうけを食らわせたこともあるし、逆に私が待たされたこともあった。シャンカールはヨガの練習、私は英語の練習になるね、と笑いあった。
 
私が日本に戻って働くようになった頃、シャンカールもマレーシアに戻って働いていた。結婚もして幸せそうな写真をFacebookでよく目にした。
そんな時だ。
いつものようにFacebookを見ていた私に「RIP」(Rest in Peace:ご冥福をお祈りします、という意味の英語)という文字が飛び込んできた。
一瞬、嘘なのか現実なのかよくわからなかったが、シャンカールが車を運転中、大型ダンプに突っ込まれて即死したというニュースだった。
 
「いつかマレーシアに会いに行こう」と思っていた。
「必ずどこかでまた会える」と信じていた。
しかし、なぜ先延ばしにして会いに行かなかったんだろう。
 
A子が死をもって伝えてくれた「人生の指針」が蘇ってきた。
「人生、何があるかわからない」
「人はいつ死ぬかわからない」
 
忙しい毎日を送っていると、つい、いつかやろう、いつか会おうと、やりたいと思っていることを先延ばしにしてしまう。
だけど、二人の大切な友人を亡くして思うのは、やりたいことを先延ばしせずに、今を精いっぱい生き切ることの大切さだ。
 
誰しも、明日何が起こるかわからない。
車にはねられるかもしれないし、突然病気になってしまうかもしれない。
それこそ、発症していないだけで、コロナに感染している可能性だってある。
 
しかし、何が起きたとしても、たとえ死んでしまったとしても、「私の人生に後悔はない」と胸を張れるような生き方をしたい。
「人生、何があるかわからない」
「人はいつ死ぬかわからない」
大切な友人が、彼らの命を懸けて届けてくれたメッセージであり、私の人生の指針。
これからも彼らに恥じないよう、今を精いっぱい生きて大切にしたいと思っている。
 
 
 
 
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2020-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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