メディアグランプリ

どういう訳だか、産まれてきちゃってすみません。


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記事:TERU (ライティング・ゼミGW集中コース)
 
 
「女の子が欲しくて3人目を作ったのに、お前が出てきてがっかりしたよ」
 
絶望の淵に追いやられた瞬間でした。
僕は男だけの3人兄弟の末っ子としてこの世に産まれ、もの心がついて、最初に父親に言われたこのセリフは僕にとって「衝撃」でした。
 
どんな風に言われたのかは全く記憶にありませんが、そのインパクトだけは強烈に記憶に残っています。
 
実際、父親は冗談好きで、他人の面倒見がよく、仕事もまじめで優しい人でした。父親にとってみれば、もしかしたら軽い冗談だったのかもしれませんし、悪気はなかったのかもしれません。いわゆる男ばかり3人の兄弟にはよくある話しかもしれません。
 
しかし、子供の頃の僕にとってはとても冗談だなんて受け取れるはずもありません。
 
だって、僕は男の子なんです。なのに、女の子じゃなくてがっかりしたなんて
『どうすることもできないじゃんか!!』
 
僕は、生まれた瞬間に『完全に取り返しのつかないことをやってしまった』というわけです。
 
さらに追い打ちをかけるように、僕は名前も親に付けてもえませんでした。
名前って、親が子供に贈る最初のプレゼントじゃないですか。
 
あの日のことは今でもはっきりと覚えています。
小学校1年生の時に、“自分の名前の由来を両親に聞いてこよう”という授業。
教室はどよめき立ち、僕は自分の名前の由来を聞くなんて何だかワクワクするなぁと、結構楽しみにしていたのを覚えています。
 
ところが、母親が放ったその言葉は、これまた衝撃の一言でした。
「近所の人が勝手に名前をつけたから、由来なんて知らないよ」
 
小1の僕は、言葉を失いました。
 
『近所の人っていったい誰だよ!』
当時は子供のために良い名前を付けてあげようという流行りの風習だったのか分かりませんが、説明は一切なく、言い放たれたその言葉にさらに傷ついたことは言うまでもありません。
 
『僕は男の子として産まれてきてしまった上に、さらに名前も付けてもらえなかったのか』
 
この時、僕の中に生まれた信念は、
僕が産まれてきて親をがっかりさせてしまった。
やっぱり生まれてこない方がよかったんだ。
僕はいるだけで迷惑な存在なんだ。
 
『ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい』
 
それからというもの、全部自分のせいだと思い込み、僕は“罪人”になる決意をしました。
釈放されることのない終身刑を自分自身に言い渡したのです。
 
僕は勝手に決めた『自分刑務所』に服役し、“償い”の人生は始めることに。
僕自身が『囚人』であり、同時に厳しい『看守』でもあるという二役です。
 
自分刑務所の中では“鉄の掟”がありました。
 
■欲しいものを欲しいと言ってはいけない
■何か買ってあげると言われても、全力で断らなければいけない
■安易に笑顔を見せてはいけない(うれしい感情を出してはいけない)
 
僕はガンバって必死にこれらを守ってきました。
 
誕生日のプレゼントを聞かれても、
「特に欲しいものはない」と言い続け、何軒もおもちゃ屋さんを回るも頑張って断り続けて、
ついに切れた母親から、
「もうこれにしなさい!!」と無理やりほしくもないラジコンカーを買わせました。
 
また別のおやつ時、
「マクドナルドのポテトを買ってあげようか?」と言われた時は、めちゃくちゃおなかがすいていたにもかかわらず、全力で「いらない!」と何度も断り続けてウンザリさせました。
 
また別の機会、
親戚の家に遊びに行ったとき、体の弱い僕は必ず喘息の発作を起こし、夜中に救急病院に運ばせるという大失態を何度も起こし、親に毎回迎えに来させてしまいました。
 
僕は、いつでも必死でした。しかし、何をやっても償いきれないのです。
僕が頑張って償えば償いほど、親をかっがりさせてしまうのです。
 
僕の人生は、がっかり人生です。
親の期待に応えることもできず、自分で決めた鉄の掟も守ることができず。
 
それからも、たくさんのがっかり人生を過ごし続けましたが、
ついに僕も結婚し、親となる時が来ました。
 
自分が親となり、2人の子育てを通じて、
今、はっきりと分かった最大の罪に気がつきました。
 
それは、「親から子育ての楽しみを、すべて奪ってきた」ということです。
だってこんな子供らしくない子供って、いるでしょうか?
 
何をあげても喜ばない。
欲しがらない。
笑わない。
 
こんな子供を育てて、いったい何が楽しいんでしょうか。
 
それでも僕は生きてきました。なぜだかここまで生かされてきました。
望まれないのに生まれてきて、罪を償うことも叶わなかったのに。
 
数十年がたち、僕は一つの問いにたどり着きました。
 
「なぜ、人は望まない苦しみを人生で体験する必要があるのか?」
 
大切なことは、“体験する必要があった”という視点です。
 
僕が体験してきたことは、
「“ある”はずの愛がない」という絶望でした。
親は子供を愛して当然なのに、その当然あるはずの愛が“ない”のです。
 
そして、どんなに頑張っても、「ない」を「ある」に変えることはできなかった、という2重の絶望です。
 
しかし、考えても見てほしいのです。
この世の中に「ない」ものは、初めから認識することさえできないはずです。
 
人は、「ある」という“前提”のものしか、
「ない」と表現することはできないのです。
 
僕が「ない」という世界を体験し続けてきた本当に理由がようやく分かりました。
それは、この世界に「愛は“ある”」という前提を証明するためだったのです。
 
すみません。こういう訳で僕は生まれてきました。
そしてあなたの中にも、きっと“訳”があるはずです。
 
両親へ
僕を産んでくれてありがとう。育ててくれてありがとう。
そして「愛」の存在を教えてくれてありがとう。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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