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インドアがステイホームならぬステイ社宅にやられた話


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記事:ヨシオカ ユーコ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「こちとら生粋のインドア、外出なんてもともと好きちゃう。家で1人で過ごすのは得意、自粛なら任せろ!」
新型コロナウイルス感染防止拡大のため、日本全体に外出自粛が呼びかけられたとき、私はそう豪語していた。そのはずの私が、1ヶ月近く続く家での生活が、もう憂鬱で仕方がない。
 
だめだ、どうにもこうにも気分が晴れない。落ち着かない、やる気が起きない。
でも、この憂鬱に、私はどこかで覚えがある。初めてじゃない。
同じ思いを、過去にしたことがある。
 
……仕事で田舎に赴任していた時だった。
 
数年前、私は地方のかなり小さな町、地元の方には非常に失礼な言い方にはなるが、いわゆる「田舎」に、仕事で2年ほど赴任していた。
電車もバスも1時間に1本あるかないか。地元のスーパー以外に目立った商業施設もない。イオンもユニクロもない。赴任先の担当者から送られてきた社宅の生活案内には、「周辺に娯楽はありません」と、何の親切かわざわざ明記されていた。
それまで大都市に住んでいたので、「何にもないとこやん、大丈夫?」と友人たちからは心配された。「何もないけど、いいところだよ」と職場の赴任経験者からは励まされた。しかし、当の私は、周囲にこう言っていた。
「こちとら生粋のインドア、外に何もなくても、家で1人で過ごすの得意やから大丈夫!」
 
そう、コロナウイルスによる外出自粛の時と、言っていることがほとんど同じだった。
実際、赴任先での生活は、#ステイホームならぬ、#ステイ社宅だった。
 
独り暮らしをしていた赴任先の社宅から職場までは、徒歩5分。道中には小さなスーパーがあるのみ。市内に遊びに行くような場所もない。一緒に遊ぶ友人もいない。公共交通機関が不便で、車がないとどこにも行けない。だが私は10年もののペーパードライバー。
仕事と生活の最低限の買い物以外、出かけることがない生活だった。このコロナ禍で、都会には不要不急の外出を控えるよう要請がされたが、田舎にはそもそも不要不急の外出先がないのだ。誰の要請でもなく、環境が私をステイ社宅させた。
 
とはいえ、自称「インドアで家が得意」な私は、自宅での生活を楽しめばいいとばかり思っていた。私には本とインターネットさえあれば充分だと。
ところが、赴任から半年ほど経った頃だ。休日に家でくつろいでいるはずが、どうも気分がスッキリしない。本を読む気も起きない、インターネットでブログを読んだり、動画を観たりしてもいまいち楽しめない。わけもなく不安になり、ネガティブな事ばかり考えてしまう時間が増えていく。最初は単なる仕事の疲れだと思っていたが、そうではなかった。
 
家で過ごすのが大得意の私が、出勤と最低限の買い物以外に出かけることのない、あのステイ社宅生活に参ってしまっていたのだ。
 
では、田舎赴任中のステイ社宅も、コロナの影響によるステイホームも、何が私の心にとってストレスだったのか。もともと外出が好きな方ではなかった。本やインターネットがあれば、家から出なくても大丈夫なタイプだと自負していた。そんな私に、一体何が足りなかったのか。
 
他人からの刺激だ。
 
ここで話はステイ社宅時代に戻る。縁もゆかりもない田舎の町で独り暮らしをしていた私は、職場以外で人と接することがほぼなかった。職場の人と接するといっても、仕事上で必要な最低限のコミュニケーションだけ。気心知れた友人たちは皆、高速バスで2時間かかる、前に住んでいた街にいる。実家は飛行機で帰らなければならない距離で、そうそう帰れる場所じゃない。
「今日はこんなことがあった」「あの映画を観てこう感じた」、そんな他愛のないことを気兼ねなく話せる相手や場所が、日常にいなかった。
話し相手がいないから、私の「今日はこんなことがあった」「あの映画を観てこう感じた」に、リアクションをくれる人間もいなかった。
 
他人からのリアクションは、人間の心にとって重要な刺激だ。
人は、自分の言うことなすことに対する、自分以外の人からの反応に、「笑ってもらえて嬉しい」と喜んだり、「冷たくされた」と悲しんだり、「こんな意見もあるのか」と新たな考えを広げたりする。人の心は、他人からの刺激で動かされる。
 
また人は、自分の言うことなすことに対し、自分以外の人からの反応が返ってくることで、自分の存在を確かめている。
そういえば赴任中、私は自分のことを幽霊にたとえることがあった。私は田舎の山の向こうで、職場と社宅の間をさまようだけの幽霊だと。人に会えない日が続くと、自分がちゃんとこの世に存在しているのかどうかがわからなくなる。「あなたはここにいるよ、あなたの声が聞こえているよ」と言ってくれる人が、いないからだ。
 
自分が幽霊のように思えてくる感覚は、私を不安にさせた。
この不安を、きっと孤独感と呼ぶのかも知れない。
 
他人からの刺激不足が生む孤独感は、人の心にじわじわとダメージを与える。たとえ、「インドアで、家が得意!」でもだ。私がステイ社宅でもステイホームでも経験した憂鬱の正体は、この孤独感だ。
 
ステイ社宅生活にやられた当時の私は、気晴らしのため、人に会う機会を意識的に作るようにしていた。今考えると、これが大正解だった。2週間に1度は高速バスに乗り、街に出て、友人に会いに行った。友人たちは、社宅に独りでいたら絶対に入ってこない話題や情報で私を笑わせ、私の心を明るい方法に動かしてくれた。また、人に会うことを通じ、私は自分の存在を確かめることができた。自分はちゃんと他人から姿も足も見えていて言葉も交わせる、生身の人間だと。
 
昨今の外出自粛中の、なんとなくの心のだるさをなめてはいけない。「コロナうつ」という言葉が話題だが、これは誰にでも起こりうることだと思う。インドアで、家で過ごすことが得意な人でもだ。人とのつながりは、自分が普段思っている以上に、自分の心の元気を支えてくれている。
 
 
 
 
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2020-05-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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