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チーズおかきワサビ味は、魔法使いである


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記事:あかり(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私は、机の上をただ呆然と見つめていた。
 
4日ぶりの出勤。
 
4日間溜まったデスクワークの書類よりも、
職場の女子社員たちの善意がたくさん詰まったお菓子の山が
半分以上占拠していたのだ。
 
これはある意味、
お供え物に近い構図である。
おまんじゅう、クッキー、チョコレート、ポテトチップスなどが、
紙コップに丁寧に入れられラップで封入されているのが3つあった。
 
ダイエット中であると公言はしてはいないが、
これは、カロリー的に大ダメージになりそうである。
 
その中で、
二度と会わないと決めていたお菓子が顔を出していた。
 
こ、これは……。
 
紙コップには付箋で丁寧にクッキーはAさん、
チョコレートはBさんなど、
お品書きのようにメモも加えられている。
 
そのお菓子にも、Cさんと記載されている。
よかれと思って入れてくれたんだろうなぁ。

わかる、わかるんだ。
善意なのはよくわかる。
しかし、このお菓子の主には悪いが、
このお菓子を見なかったことにしたいと思う自分がいたのだ。
 
もう二度と会いたくないと思った彼の名は、
 
「チーズおかきワサビ味」。
 
実に35年ぶりの再会である。
幼いころの私を弄んだ「チーズおかきワサビ味」。
因縁の再会である。
 
まさか、こんなところで会うことになろうとは。
思わずファイティングポーズをとろうとしている自分。
この小袋パッケージ、なんと憎たらしい。
 
どうしようもない幼き日の苦い思い出が勃発した。
 
私が幼稚園の頃。
地元の友だちと、キン肉マン消しゴム、通称「キン消し」と呼ばれるもので遊んだり、レコードを聴いたり、追いかけっこしたりした日のこと。
 
「緑と黄色のチーズおかき、どっちがいい?」
 
友だちのお兄ちゃんがお菓子を持ってきてくれて、
私たちチビッ子チームに聞いてきた。
 
この頃は、「最初はグー」ではじまるジャンケンが流行っていて、
ジャンケンで勝ったほうから選んでいくことにした。
 
最初にジャンケンで勝った私は、
黄色と緑色、どちらにしようか悩んでいた。
 
友だちのお兄ちゃんが、
「緑のほうがチーズおかきの新商品だって、母さん言ってたで」
 
この言葉が幼い私にぴったりフィットしたようで、
緑色を選択したのだった。
 
さて、このチーズおかき、
どんな味がするのだろう。
 
わくわくしながら口にした瞬間。
 
私の身体が硬直した。
 
辛いのである。
あのマイルドなチーズ味ではなく、
辛いのである。
 
チーズってこんなに辛かっただろうか。
私は、混乱した。
 
な、な、なんじゃこりゃー!
 
そんな名言を吐いた松田優作氏もびっくりである。
 
母にこれは何かときいたら、
 
「あら、わさび味なんて。あかりも大人ね」
 
なんて、言うじゃありませんか!
 
私はノーマルが食べたかったのよ!
 
わさびなんて聞いてないよ。
 
友だちのお兄ちゃんは非常に面倒見がいいのだが、
たまに天然だったのは今も変わらない。
 
新商品。
この新商品という言葉に私は騙されたのだった。
 
あれ以来、二度と食べないと心に決めたのに。
時って残酷である。
しかし、彼が今も、根強く生き残っていることに、
ただただ、驚嘆していた。
 
お菓子の主のCさんが朝の挨拶をしてきた。
 
「あー、あかりさん。今回は辛いお菓子と甘いお菓子と
メリハリをつけてみたわ。食べてね」
 
メリハリはいらんのよ。
そう、心の声を押し殺しながら、
 
「ありがとう」
 
心をこめて言っていない私に、
一種の罪悪感が芽生えるも、
仕方ないじゃないか、苦手なんだし、と、
若干開き直った自分もいた。
 
しかし、35年たった今。
何かを変えたいと思ったのかもしれない。
マンネリなこの状況を打破するために、
食べてみようと思ったのだ。
 
もう、35年前の自分ではない。
最初は嫌だったのは事実だが、
これは何か状況を変えるチャンスかもしれない。
 
お供え物状態だったお菓子たちをお菓子ボックスに入れ、
彼のみを机の上に置いた。
 
彼には、お茶が合うだろう。
 
緑茶を入れた。
朝の始まりだ。緑茶と彼をスタンバイ。
 
意を決して、
彼を口に入れた。
ドラゴンクエストのボス戦のような気持ちである。
 
ひとかみ、ふたかみし、味を確かめる。
 
おや……?
 
緑茶を飲む。
 
味を確かめる。
 
美味しいではないか!
 
ロングセラーのため、味が改良されているのかもしれないが、
わさびが優しい。
全く辛くないのである。
 
昔とんがっていた学生が急に角が丸くなっていい社会人になったような、
そんな衝撃を受けた。
 
私は35年ぶりに彼と和解をしたのである。
 
心にずっと引っかかっていた辛い思い出。
 
見事に粉砕した瞬間である。
 
ありがとう。Cさん。
私はCさんと握手したいくらいだった。
 
35年ぶりの朝の和解から、
何か憑き物でもとれたかのように、
溜まっていた仕事たちがさくさくと片付いていく。
 
おまけに、周りの協力もあって、
以前提案していた仕事の案件が、
実現化に向けて、急に動きだしたのだ。
 
これは、和解した「彼」効果だ。
 
なんて清々しい一日なんだ。
 
勇気を出した私、呪いは解かれた。
 
人は何かしら、食わず嫌いがあるものだ。
それは、もしかすると、
嫌いと思い込んでいる何かしらの記憶が、
関係しているからかもしれない。
 
二度と食べたくないと思っていたものに、
数十年ぶりに出会った瞬間が、チャンスだ。
 
チャンスが巡ったら、
素直に食べてみよう。
 
その先には、
 
ステキな魔法が、
あなたに、かけられているかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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