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山ガールへの道のり


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記事:文旦(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「あ〜、来るんじゃなかった」
 
長野県白馬村。標高2,500mを超える唐松岳。
私は今、山を登っている。
暑い。しんどい。疲れた。暑い。しんどい。眠い。重い。
雲ひとつない青空とは裏腹に私の心は曇天。いまにも雨が降り出しそうである。
 
空前の登山ブーム。山ガールという言葉が流行り、なんだか楽しそう、と登り始めて3年。
職場にも登山仲間ができ、夏場は月1ペースで登りに行くようになった。
最初は関西近郊の山、そして翌年からは更なる絶景を求めて、長野のアルプス山脈にいくようになったのだが、これがもう半端なく辛い。
毎回来たことを後悔しながら歩いているのだ。
 
可愛い登山ウェアに身を包み、インスタ映えする写真を撮りながら歩く。
山頂では持参した調理器具と食材を使って山ご飯。食後のコーヒー。
そんなイメージを持っている人に伝えたい。
山ガールへの道は険しい。
 
AM4:00
真っ暗な登山口、私はヘッドライトを付けながら靴紐を結んでいる。
山の天気は午後になると悪化しやすいので、この時間から登り、昼過ぎには下山できるようにするのだ。
普段ならどっぷり寝ている時間。身体は重いが、冷たい空気のおかげで、少しずつ目が覚めてくる。ここからスタートだ。
 
AM5:00
少し登ったところで現れるのは、夜明けのマジックアワー。
『春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる』
リアル枕草子の世界である。
「山ぎはと山の端の違い、古文で習ったな〜。何回聞いても違いがわからなかったけど、今なら分かるな。あれは山ぎは」
なんて感傷に浸ってしまう。贅沢な景色。素敵な休日。
歩き始めて1時間。ここが私のピークである。
 
AM6:30
歩き続ける私に睡魔が襲いかかる。
眠い。とにかく眠い。
あんなに感動していた山の景色にもすっかり見慣れ、もはやなんとも思わない。
「はぁ……。ベッド。ベッドに倒れ込みたい」
まだ寝ているであろう友人達を思い、羨む気持ちが抑えられない。
早くも後悔が始まる。
 
AM8:00
睡魔を乗り越えた頃、今度は暑さと疲れ、食材を詰め込んだリュックの重さに、足が鉛のようになる。
そして先頭を行く仲間による、もうちょっと詐欺が始まる。
「頂上まであとどれくらい〜?」
「もうあとちょっとやで」
「まだですかね〜?」
「もうすぐもうすぐ!」
繰り返される、もうちょっと。
きつい。辛い。しんどい。足痛い。荷物重い。
疲れと眠気で心はささくれ立ち、どれだけ美味しい空気を吸っても、一瞬で苦しい呼吸とため息、そして愚痴に変わってしまう。
「さっきももうちょっとって言ってけど、まだー?」
自ら参加しておきながら、これ。
まったく、山の神様も呆れていることだろう。
 
AM9:30
ようやく山頂。登頂の喜びを味わうことより、食欲の方が勝る。
火をおこしてお湯を沸かし、鍋やラーメン、コーヒーなど束の間の楽しい休憩時間。
このために重い荷物を持ってきた訳だから、と、ついついお腹いっぱい食べてしまう。
 
そしてこの後がまた苦しい。山は登って終わりではない。
登ってしまったからには自力で下りなければならない。
 
AM10:30
下山。山を下がると書いて下山。
ところが、下山なのに登りがあるのが腹立たしい。
おにぎりのような、きれいな形の山なんてない。
下り坂と登り坂を繰り返しながら、徐々に下山していく。
疲れた身体に重たくなった胃袋。
登頂とご飯という最終目的を果たした今、残るは疲れと眠気、筋肉痛。
そして、トイレ行きたい、だ。
 
AM12:00
新たな目標はトイレに定まった。
「もうちょっとで登山口見えてくるよ〜」
という、詐欺師の言葉に身体が騙されないよう、無心で歩く。
山の景色? 何それ?
もう足元しか見てない。
 
PM1:00
ようやくゴール。
お疲れ〜と言いながら一直線にトイレへ駆け込む。
大人としての尊厳を保ててホッとする。
下り続けた結果、震えが止まらない膝と、早くも筋肉痛になるふくらはぎ。
すべてを終えた今となっては少し誇らしい。
 
どうであろうか。
これが山ガールという言葉に釣られて始まった、私の山登りのパターンである。
日の出や山頂からの絶景、山でのご飯などの楽しみもあるが、それを除く登山中の9割は辛いのだ。
汗もかくし、日焼けもする。虫にも刺される。トイレも行けない。
苦行。まさに苦行である。
 
もちろん、道中でザ・山ガールといった女子達の集団ともすれ違う。
可愛い登山ウェアを着て、和気あいあいと登っている。
あれぞ思い描いていた山ガールだったのに、と思って気がつく。
この過酷な状況を笑顔で楽しめる余裕っぷり。
あの子たち、普通じゃない。
 
重い荷物を担ぎながらも険しい山道を歩き通す強靭な筋肉と体力。
それに天気と地図を読む能力。
山は、その全てを兼ね備えて初めて楽しむことが許される。
一歩間違えると遭難や怪我をする可能性もあるのだから。
 
彼女達の名は、山ガールなのか?
いや、その凄さが分かった今、私は敬意を込めて、山の民と呼びたい。
華やかなウェアと笑顔の下に隠れていたのは、強い身体と聡明な頭なのだ。
 
体力も精神力もギリギリ登山女である私からすれば、彼女らの存在は憧れである。
格好を真似しただけでは到底辿り着けない。その道のりの険しさを知った。
けれど、山登りと同じで一歩一歩、歩き続けること。
そうすれば、いつかはなれるかもしれない。
山の民に。憧れの山ガールに。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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