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君の話は長くて面白くないが、理解はしやすい


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:平間 稔啓(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「もっと簡潔に話してくれないかなぁ~」
明らかにイライラしている。
確かこの人は専務っていってたっけ。
 
「申し訳ありません。では、あらためて初めから……」
 
「あ、大丈夫ですよ、大丈夫。想いは伝わりましたから」
明らかにイライラしている。
この前の部長面接では仏のように優しかった人事部長が、僕の話をさえぎった。
そして僕の最終役員面接は、終わった……。
 
僕の就活は、明らかに苦戦していた。
資料請求のハガキを出したのは200社。面接を受けたのが70社。
ハガキ、というと時代を感じるが、今風に言うとエントリー。
つまり、200社もエントリーして、面接に来いと言ってくれたのが70社。
7割近い会社が、僕のエントリーシートにNGを出したという計算になる。
 
どんなひどい内容を書いたんだろうと、今思えば興味があるが、当時はそんなことを考える余裕もなく、1社1社の面接に精一杯だった。
とはいえ精一杯の甲斐もむなしく、70社の面接を受けて、最終面接まで進めたのは、たったの4社だけだった。
 
「大丈夫だよ。どこも受かんなかったら、ウチに来ればいいから」
以前のバイト先に就活相談に行ったら、店長が笑ってそう言った。
大学入学と同時に働き出したそのバイト先は、喫茶店だった。
カフェではなく、喫茶店。
ホットサンドもオムライスもマルゲリータも、自分たちで調理して提供するような喫茶店。
お客様をお待たせしないよう、効率よくキッチンを回してきた自負があった。
常連さんには気に入られていた。そこそこコミュニケーション力には自負があった。
特に、7時の開店と同時にいらっしゃる4人の常連さんには気に入られていた。
そんな自負があるのに、就活に苦戦していた。なぜ苦戦するのかわからなかった。
「バイト先でやってきたことなんて、面接官が聞きたい訳ないよ」
いろいろ自分のアピールすべき内容を話したが、店長は真顔でそういった。
 
「大丈夫だよ。どこも受かんなかったら、ウチに来ればいいから」
面接に苦戦する僕の顔を見て、バイト先の社長は笑いながらこういった。
“就活には金がかかる”と聞いていたので、就活と並行し飛び込み営業のバイトをしていた。
小学生と中学生向けの学習教材。1件売れれば数万円のコミッションが入るバイト。
100件の飛び込みを営業をしても、ドアが開くのは2件ほど。
教材の説明をさせてもらえる家なんて、そうそうない。
僕はそんなに売れる方でもなく、500件の飛び込みをして、1件売れるか売れないか。
でもドア越しのリアクションで、商談ができる家できない家を見抜く力がついていた。
「そんなの面接で言って、相手が喜ぶと思ってんの?」
営業で培った根性、そして商談のコツを話したが、社長は怪訝な顔でこう言った。
社員が3人しかいない小さな会社だったが、やはり経営者の発言には重みがあった。
 
バイト先では埒があかないと、大学の友人に相談した。
1年の語学の授業から一緒で、ゼミも一緒のYだった。
ゼミでは毎週、演習とディベートがあるため履修の時間以外でも集まる必要がある。
その集まりの後で、Yを近くのジョナサンに誘った。
「メシ行こうぜ」と軽く誘いながらも、もう頼れるのはYしか居なかった。
 
「だって平間ちゃんの話、長いんだもん。で、オチもないし」
大学時代を3年以上も共にした悪友は、遠慮も気遣いもない。
Yにここまでストレートな物言いをされると、逆に気持ち良い。
「俺、話長い?」
あらためて聞くと、Yはこう言い放った。
「もしかして、自覚ないの?」
話が長いと言われたことが初めてだったと伝えると、あきれた顔で「なんで話が長いか、わかる?」と言われた。もちろん「全然わかんない」と答えた。
Yはさらにあきれた顔をして、話を続けた……。
 
最終面接に進めた4社のうち、内定が出たのは1社だった。
専務が「もっと簡潔に話してくれないかなぁ~」と言っていた、あの会社だった。
入社してから、人事部長に「僕はなぜ採用されたんですか?」と聞いてみた。
人事部長は「そういうのは言わないことになっているんだよ」と言った。
そういう人事部長の顔は、いつもの仏の顔だった。
ちょっとだけ食い下がってみたが、結局教えてくれなかった。
「でもね……」と、部長は個人的見解と前置きをして教えてくれた。
「あなたの話は長くて面白くなかったけど、理解はしやすかったですよ」
 
「状況の説明が長い。情景をわざわざ説明しようとする。だから、長い」
Yはそう言って、こう続けた。
「平間ちゃん家にはテレビがないでしょ。入学以来、ずっとラジオ派。だからだよ」
僕は大学入学のために一人暮らしの家に越す時に、テレビは置かないと決めた。
最初に買いに行ったのは、それこそ本棚だった。
”テレビを見るとバカになる”
そう言う父親の言葉を真に受けて、大学4年間はテレビを見ないと決めた。
その代わり、ミニコンポを本棚の上に置いて、ラジオを毎日聞いていた。
 
「野球中継だってさ、”投げた! 打った! 入った~!”って言うじゃん」
何を言い出すのかと思いながらYの話に聞き入った。
「でもラジオだと、”ピッチャーは内角低めにストレートを投げた! バッターは肘を巻き込みながら強引に引っ張った! そのボールが弾丸ライナーでスタンド中断に突き刺さった~”って言うだろ。テレビはその場面を視覚で捉えるから説明は要らないんだよ。でもラジオはそういうわけにはいかないだろ。どんな状況か説明が必要。平間ちゃんの話は、そういうこと」
 
僕の話が長いのは、状況を説明するクセがついてしまっているからなんだと。
普段からラジオばっかり聞いているから、状況を説明することが普通になっているんだと。
 
さんざん就活で、いや普段からたくさんの人に”話が長い”と言われてきた。
“話が長い、面白くない”と言われてきた。
それが理由なのだろうが、面接でもさんざん落ち続けた。
でも唯一、僕を拾ってくれた会社の人事部長は、こう言ってくれた。
「あなたの話は長くて面白くなかったけど、理解はしやすかったですよ」
部長には採用の権限がない。だからこの理由で採用された訳ではない。
でも、僕の長い長い話を”理解はしやすかった”と言ってくれた部長に僕は救われた。
部長は僕が入社して3年後に定年退職したが、僕はそれから17年、その会社で働いた。
唯一拾ってくれた会社に報いたかった。
僕を救ってくれた部長に報いたかった。
報いることができたかどうかわからないが、この会社での20年は、僕の財産だ。
 
 
 
 
***

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2020-05-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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