20代前半にして3回テロに巻き込まれかけた話
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記事:ぽてと(ライティング・ゼミ日曜コース)
冗談ではない。悲しいが、事実である。
1回目は4年前の某空港および地下鉄でのテロ、2回目は駅での爆弾騒ぎ、3回目は研修施設への爆破予告。(全て日本国外にて発生)
こう書くと、筆者はよほど仕事で世界中を飛び回っているか、めちゃくちゃ運の悪い人か、その両方だと思われるだろう。
前者はNoで、後者は残念ながらYesかもしれない。
学生時代に留学こそしているが、東京に勤務する平凡な20代社会人である。
こうまで多いと、もしかして自分がテロを引き寄せているのでは?
という気にもなってしまうから、困ったものだ。
この前はシェアキッチンの電子レンジで加熱中の食材を見事なほど派手に爆発させ、
それから2週間ほど、私は俄かテロリストatキッチンと化した。
何事もなく自由に外に出られ、人に会えることのありがたさを噛みしめるこのご時世、
自分の中では時効を迎えたであろう、忘れもしない4年前の経験について想起してみた。
3月某日、私はいつも通り、留学先の大学へ朝一の授業を受けに向かっていた。
いつも通り寮長のおっちゃんと何気ない会話を交わし、
行きつけの店でツナサンドイッチを買い、サービスのオレンジジュースをもらった。
何もかもがいつもと一緒だった。
翌日朝に、所属元大学のプロジェクトでの米国渡航を控え、
幾日かのバケーションに少々浮足立っていたことを除いて。
学校に到着すると、何もかもがいつもとは違っていた。
ふと我に返ると、大量の着信やメッセージ。
何か良からぬことが起きたのだろうと予想はできたが……
8時半、空港での爆発。
20分の後、今度は中心部にほど近い地下鉄駅付近を走るメトロで、2度目の爆発。
控えめに言って、訳が分からなかった。
ニュースの字面をなぞるだけで、全く頭に入ってこない。
二次被害を食い止めるべく急遽自宅待機となったが、その日の自宅までの道のりは、全く記憶にない。
それが起きた時間は、丁度翌朝の米国への飛行機搭乗時間と同じだった。
明日朝の渡航はどうなるのか?今までの全てが無駄だったのかと落胆したが、よく考えてみるとそれどころではない。
「もし24時間早いフライトに乗っていたら」
「もし電車で中央市場へ買い出しに行っていたら」
生きていないかもしれなかったのである。
家に帰ると、ドイツ旅行から戻った友人がお土産のソーセージを手渡しつつ、こういった。
「これ、美味しいから食べてみて。ところで、メトロに乗っていた時、進行方向から大きな音が聞こえたの。何か有ったのかしら」
長い人生の中で、私達は幾度となく分かれ道を経験する。
このときは、どうしようもないほど最も大きな分かれ道が目の前に現れたようだった。
もしあの時別の道を選んでいたら、私が今こうしていられるかは、分からないのだ。
今過ごしているこの時間は、もし別の選択をしていれば、
存在しなかったかもしれない時間なんだ。
そんなことを考えながら、日々をすごした。
当たり前のように明日が来て、誰かと美味しいごはんを食べて、勉強して……
そんな日々が実は保証されたものではないことを、悟った。
今行きているこの瞬間が、「幸運にも与えられた」時間であることを知ったこの時以来、
日々生きられることに感謝し、噛みしめるようにすごそう、と誓ったのだった。
3週間ほど経った頃だろうか。私は外を歩けるようになった。
当初は緊迫感と警戒、猜疑心が蔓延していた社会も、徐々に日常の
落ち着きを取り戻していた。
誰もが今までの暮らしを守るべく、誰もが努めていつも通りに過ごそうとしていた。事実、現場に記念碑と花々が並んだことを除いて、街は通常通りに戻った。
あの日から早4年。
はて、私は当時のことをちゃんと覚えていただろうか。
毎日を、噛みしめるように生きられているだろうか。
実のところ、「こんなことがあった」と頭では覚えているはずなのに、
当時どんな気持ちだったか、どう思ったかということは、今は薄れかかっている。
人は、社会は、恐ろしい経験をしたことを、すぐに忘れてしまう。経験は、風化してしまうのだ。喉元過ぎれば熱さを忘れるとは、言い得て妙である。
私達はここ2ヶ月以上、今までかつてないほどの感染症の流行という困難に直面してきた。
それでも、幾つかの国や地域では感染の拡大が収まり、漸く日常通りの生活に戻りつつある。
……が、こういう困難は二度とこないとも限らないし、もしかすると再びこともあり得るのだ、今回の例に限らずとも。
そんな時に、過去の記録があればこそ、ちょっとは未来の私達の助けになるかもしれない。
(これから先もテロに遭遇するのは、もうこりごりだが)
だから、どんな形でも構わない、今この時自分の目で見たこと、感じたことを記録としてしたためておくのだ。それこそ、記憶の風化に抗える唯一の方法だから。
人は、いつどうなるか分からない。「いつ死んでもいいように」なんて達観したことは言えないけれど、分からないからこそ、今日一日何事もなく生きられることに感謝し、もうひと踏ん張りだ。
***
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