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メディアグランプリ

人口15人の離島で得た「余白の時間」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ヒライシカナコ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「もう仕事を辞めて、うちの島に来て働けば?」
 
10年前の夏、中途入社した会社が肌に合わずに泣き言を言っていた私に、友人Mはそう言った。当時のMは、人口15人の離島に移住して、間もなくゲストハウスを開業しようというところだった。自分1人だと回せないと思うので、夏の間だけでもいいので手伝ってほしい、とも言われていた。安定した収入を得ながらストレスを抱えて働くことと、いろいろ不安定になるがワクワクすること、どちらを選ぶか。私は後者を取った。姉弟と3人で暮らしていて生活費がそこまでかからなかったこと、少しだけ貯金があったことがその決断を後押しした。何より、離島で働くなんてこの先できない経験かもしれないと思い、次の日には社長に退職したい旨を伝えた。退職日の翌々日から離島で働くことが決まった。働くと言っても給料は500円×その日の宿泊者数というもので、フリーターとニートの間のようなものだ。ここではニート生活と書くが、このニート生活が私の人生を豊かに、彩りあるものにしてくれたという思いが、年を重ねるごとに強くなっていくのである。
 
その離島には買い物できる場所はおろか、自動販売機もなかった。住民の9割は60代以上で高齢者ばかり。定期便がないので船は必需品であり、生活用品を揃えるには隣の島まで自家用船で行く必要がある。話には聞いていたものの、いざ降り立つと想像以上に野性味ある環境だった。その分、自然を遮る光がなく、夜には満点の星空と時に流れ星を見ることができた。Mからは「島の人とすれ違ったら、絶対に挨拶をすること」と口酸っぱく言われていたので、それをしっかり守りながらゲストハウスの手伝いをした。お客さんを迎えるための掃除、洗濯、後片付け。それが終わったらMと一緒に自家用船で隣の島まで行き、買い出しをする──というのが私の主な仕事だった。近隣の島で数年に一度の大きいイベントが長期間開催されていたので、毎日誰かしら泊まりに来てくれていて、大忙しだった。会社を辞める1カ月前くらいから不眠気味になってしまっていたが、お客さんを迎えることに照準を合わせた規則正しい生活は、狂ったリズムを簡単に戻してくれた。
 
このように、いろんな意味で不便な環境だったので、来る人をかなり選ぶゲストハウスだった。そのため、宿泊客はユニークな人が多く、くせ者揃いだった。大手企業で働きながら音楽活動をしてCDを出しフェスにも出るサラリーマン、東大卒のキレキレの研究者、面白い作品をつくる美大生、旅行しながら暮らすダンサー、アシスタントカメラマン──。短大卒業後すぐに新卒で入社し、間を挟まずに転職してまっとうに働いてきた自分では出会えないような人たちの話はとても面白く、人の数だけ人生があるということを目の当たりにする毎日だった。隣の島で働いたり、住んだりしているMの友人たちもユニークな経歴を持っている人たちが多かった。それまで自分が当たり前だと思っていた、会社に行って働いて自立する生活だけが全てではないこと、自分が好きなことをして稼いでストレスなく暮らす生き方があり、自分もそういう生き方ができる可能性を秘めているということを、このニート生活を通じて知ることができたのは、月並みだがとても良い経験であり、お金では買うことができないかけがえのない財産になった。
 
あれから10年経つ今でも、ニート生活で知り合った人たちとは未だに交流があるし、人に「人口15人、自家用船がないと暮らせない離島で住み込みのバイトをしていた」と話すと、興味津々で話を聞いてもらえることが多い。ニート生活を終えた後も離島関係者が集まる会が催され、またそこで新しく出会って仲良くなった人たちがたくさんいる。
履歴書の上では余白の部分になってしまうが、仕事や会社が嫌になったら思い切って辞めてしまう選択肢は「あり」だと私は思う。退職後、何もせず過ごしてもいいだろう。しかし、 フットワークが軽いうちに、それまでとは違う環境に身を置いて過ごしてみることで、得られるものはたくさんあると自信を持って言える。個人的な経験も大いにあるが、できれば若いうちに経験しておくとよいのではないかと思う。その後の人生に何らかの影響があるからだ。個人差はあれども、年を重ねると新しいことに憶病になりがちであり、思考も少しずつ凝り固まってくる。自分だけでなく家族のライフイベントも増えてくるので、それまでより自分のための時間を意識的に作ることが難しくなってくるというのもある。
意図しなかったものではなるが、結果的に「余白の時間」を持てたことで、豊かな経験をすることができ、彩りある時間を過ごすことができた。行き詰まったら、時には寄り道をして、余白の時間を作ってみてもいいのではないかと思う。それはきっと、人生のスパイスになるはずだから。
 
 
 
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2020-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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