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パリ行き夜行バスは最高のアトラクションだった


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記事:文旦(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「危ないところに来てしまった」
 
ヴィクトリア・コーチ・ステーション。夜10時。
謎の大荷物を抱えた強面の人達と一緒に座りながら、私はビクビクしていた。
 
その前日。休暇を使った1人旅でロンドンに来ていた私は、次の都市、パリに移動する計画を練っていた。
 
ロンドンからパリへの移動は高速鉄道、ユーロスターで2時間強。
早速予約をしようとネットで調べると、なんと27,500円。
まずい。予想以上に高くなっている。思わず血の気が引く。
 
日本の新幹線とは違い、ユーロスターは事前割引があり、早ければ早いほどお得に買える。
確か日本で調べた時は9,400円だったのに、3倍になっている。
念のため飛行機も調べたが、こちらも2万円超え。思わず頭を抱えてしまった。
 
ノープランの旅は、気分で予定を変えられるという自由がある。
1人旅なら尚更だ。
普段は仕事に縛られた生活をしているだけに、ノープラン、行き当たりばったり、ということだけでとてつもなく開放感がある。
しかし、ビッグベン、ロンドンアイ、ハイドパーク。映画で観た街並みが目の前に! なんて、すっかり浮かれている間にロンドンの滞在を1日、また1日と延ばしてしまい、その間に列車も飛行機もチケットが値上がりしてしまっていたのである。
 
これは勉強代だ、仕方がない、と諦めかけていたところ、滞在していたホテルのスタッフが、夜行バスがオススメよ、と教えてくれた。
 
選択肢になかった夜行バス。
しかし調べてみると、便数も多く、価格も安い。日本円で6,000円程度。それに何と言っても夜に出て朝に着くため1泊分の宿泊代が浮く。
海外での夜行バス、という初めての経験に若干不安を感じつつも予約を済ませ、翌日の夜、出発地であるビクトリア・コーチ・ステーションへと向かったのであった。
 
「私、今から亡命でもするのだろうか……」
 
待機場所に着いて見た光景に、一気に不安が押し寄せる。
ヨーロッパ各都市へ向かう長距離バスの出発地。
時間よりも安さを選んだ人達が集まるのであるから当然、ファミリーや年配層は少なく、見るからに治安が悪そうな場所である。中身は何? と聞きたくなるような怪しい段ボールを沢山抱えた人もいる。
人を見た目で判断してはいけない、と思いつつも身体がこわばる。
待ち時間も、バスに乗り込んだ後も、財布とパスポート、携帯を握る手に自然と力が入った。
 
「寝ている間にパリに着くよ」
ホテルスタッフの言葉を思い出し、起きたらパリ、と自分に言い聞かせ、不安な気持ちを忘れようと無理やり眠った。
 
しかし、数時間後。
「パスポートコントロール!」
というドライバーの大声で目が覚める。
時計を見ると0時15分。真夜中である。
パスポートを持ってバスから降りるよう言われ、駐車場横の建物に向かう。
30名入るのがやっとという部屋に、空港のチェックインカウンターのような台と審査員が2人。台の前に皆が整列させられ、呼ばれるまで静かに立って待つ。
そして1人ずつ、全員に見守られながら出入国審査を受けるのであった。
公開審査。しかも結構細かく追求しているので個人情報もダダ漏れである。
 
「仕事の面接を受けに行く」
「息子がパリで病気になったため様子を見に行く」
 
聞こえてくる、同じバスに乗り合わせた人達の事情。平日のせいか、私のような観光目的の人は少ない。中にはすんなりと通らず、色々な書類を見せながら、パリ行きの説明をしている人もいる。
聞いているうちに、それぞれの事情や目的が分かり、先程までの彼らへの怖さや警戒心が薄れて行くのを感じた。
それと同時に、異国の地で深夜に取り調べをされているような自分の状況がおかしく思え、映画のワンシーンのようだとワクワクする気持ちにもなった。
 
出入国審査を終え、バスで再出発。今度は安心して眠りにつく事ができた。
途中、ふと眼を覚まして、携帯で地図を確認すると、ちょうどユーロトンネルを移動しているところだった。バスの位置を示す点が動くのを見た後、運転席に目をやった私は心臓が止まりそうになった。ドライバーが爆睡していたのだ。しかも両足をハンドルの上に投げ出して豪快に。
 
位置情報は動いている。バスの揺れも感じる。頭がパニックになり、携帯で検索しまくってようやく分かった。ここは走る列車の中だった。つまりバスごと列車に乗り、その列車がドーバー海峡の海底トンネルを移動しているのだ。新しい発見と不思議な感覚にテンションが上がってしまい、しばらく寝る事ができなかった。
 
朝6時。パリに到着し、バスから降りる時、アジア系の女性に声をかけられた。
彼女はジャニーズが大好きで、いつもネットで動画を探して観ているという。出入国審査の時に私が日本人だと知ったそうで、彼らがいかに素敵かを英語で捲し立てた後、満足そうに去っていった。たまたま乗り合わせた人と会話をするなんて、日本ではないことで嬉しかった。
 
この夜行バスでの一晩は、とてつもなく冒険的で非日常的で、面白い体験だった。
 
強面の人達と同じバスに乗ることに怯えながら出発したこと。
真夜中に叩き起こされ、異国の人々の面前で出入国審査を受けたこと。
初体験のユーロトンネル、バスin列車。
海外ジャニーズファンとの出会い。
 
添乗員付きのツアーや王道の観光スポットを巡る旅も素晴らしいが、ローカルな公共交通機関を使ったチープな旅も素敵だ。移動一つが刺激的なアトラクションになる。
新しい世界、そして人との出会い。
次に旅に出る時、また面白い体験ができることを期待したい。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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