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若い時にインドに行ってきた話 ~ゲームのような一人旅~

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記事:佐野 英二(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「今度の夏の連休にインドに行ってくるよ」僕は会社の同僚に突然話した。「え? どうしてインドに行くの?」と同僚は僕の顔をじっと見て言った。
 
「インドは自分からアクションを起こさなくても、だれかがアクションを仕掛けてくる。そして駆け引きが始まる」僕にとってインドはそんなイメージの国だ。インドを好きな人はなんどもインドに訪れたくなる。このようなゲーム感覚はインドの魅力の1つだと。
 
まだ僕が20代のころだった。沢木耕太郎さんのノンフィクション小説「深夜特急」を読んで僕はインドに行きたくなった。沢木耕太郎さんの「深夜特急」は確か6冊ぐらいの文庫本だったと思う。香港から始まってロンドンまでバスで行くというとんでもない旅の話だった。その中で僕が一番印象に残ったのはインドの場面だった。
 
それまで僕のインドのイメージは「熱い国でカレーばかり食べる」といったぐらいだった。深夜特急を読んで、インドはエネルギッシュでエキゾチックな国と感じた。僕の心には日増しにインドに行ってみたいという気持ちが芽生えていった。
 
そして夏の会社の連休を利用して、いよいよインドに行くことになった。沢木耕太郎さんのように一人旅で。僕は格安航空券の往復券だけを買い、宿泊場所は予約しなかった。あえてなにも計画を立てないほうが深夜特急っぽいと思ったからだ。
 
成田空港を出発し、ニューデリー近くの空港に到着したのは夜10時ごろだった。飛行機の中で「地球の歩き方」に載っている中級ホテルを何件かセレクトしておいた。「この何件かのホテルにあたれば空き部屋があるだろう」と気軽に考えていた。
 
空港の出口を出ると外国の旅行人目当ての客引きたちが下手な日本語で話しかけてきた。その客引きたちを振りきって、現地の旅行会社らしき小さなカウンターに向かった。そのカウンターの社員に前もってセレクトしておいた何件かのホテルに泊まりたいので空き部屋があるところはないか尋ねた。だがその社員は「どこも空いていない。でもこのホテルなら空いている」と説明してきた。長い時間、飛行機に乗って疲れていたので「そのホテルでいいよ」と答えた。
 
そのホテルまではタクシーで向かうことになった。30分ぐらいでホテルに到着し、ロビーでチェックインを済ませて部屋に入った。しばらくすると僕が頼んでもいないのに夕食が部屋に運ばれてきた。少しびっくりしたが、わけもわからずその夕食を食べて寝ることにした。
 
朝になって起きたら、また頼んでもいないのに朝食が部屋に運ばれてきたので「ちょっとやばいところに泊まったらしい」と怖くなってきた。案の定、チャックアウトで請求書をみたら、なんと想定の5倍以上の金額が書かれていた。そして気づいたら僕はそのホテルの係員たちに取り囲まれていた。身の危険を感じたので言われるがままに請求金額を支払い、走るようにそのホテルを出て行った。
 
インドに来て最初の日がこんな感じだったが、インド滞在の最終日の夜まで驚きは続いた。
 
最終日の夜、少し慣れてきたニューデリーの街をぶらぶら歩いていたら一軒の日本食のお店の看板を見つけた。ひきつけられるように僕はその日本食のお店に入った。インド滞在中は辛いカレーばかり食べていた。というよりもインドの料理はカレーでなくてもカレーの味がするのだ。さすがに日本食が恋しかったのだ。そしてメニューを見てかつ丼を頼んだ。
 
オーダーしてから10分ぐらいだろうか。「はい、カチ丼です」とインド人の店員がどんぶりを持ってきた。「カチ丼ではないでしょ。かつ丼だよ」テーブルにあったソースを振りかけて食べ始めたところ、肉がとても固かったのだ。それだけならよい、日本のかつ丼の味ではなかったのだ。衣が表現しがたい食感でいままで食べたことがない味がした。そし少し予想はしていたのだが、ご飯は細長いお米だった。もはやどこの国の料理なのかわからない。日本食でないことは確かだ。エキゾチックな料理といったところか。
 
インドに旅行に来ると自分からアクションを起こさなくても、どこからかアクションを仕掛けてくる。外国からの旅行者の中でも特に日本人は現地人たちに狙われているのかもしれない。インドを好きな人はなんどもインドに行くという。このゲーム感覚がなんともいえず楽しいのだと思う。
 
あの旅から20年以上がたった。今のインドはその時のインドと比べるとだいぶ変わってしまったのだろうか。今日のインドの経済成長が著しい。特にIT分野では世界レベルで優秀な人材が多いと聞いている。
 
先日、新型コロナでインドの国全体がロックアウトされているニュースを見た。あの時の旅を思い出した。ひょっとしたら僕はもうインドに行く機会はないかもしれない。そんなことを考えると「あの時にインドに行って本当によかった」と思った。巣ごもり生活の中で気持ちが少しほっこりした。
 
 
 
 
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2020-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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