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写真映え抜群! 「棚田」という魔法の舞台装置


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中耕地 さくら(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ちっ、使えねぇ写真ばっかりじゃねーか。広報失格だぞ」
また怒られてしまった。私はカメラが苦手だ。会社の広報担当なのに、SNS映えする写真がまったく撮れない。鬼のような上司に、いつも叱られてしまう。
 
「うわぁ、これをインスタにアップする勇気はないなー」
友達と旅行に行っても、後から見返すと、ありふれた集合写真ばかりがピクチャフォルダに保存されている。試行錯誤した変わり種の写真も、一緒に行った子にシェアすることすら申し訳ないレベルに仕上がってしまう。
 
「……でも、この時期の写真は、意外と”映える”かも」
仕事帰りの電車の中で、スマホの古い写真を眺めていて、ふとその場所のことを思い出した。上京するまで伊豆で働いていたのだが、そこに、私なんかでも信じられないくらいフォトジェニックな写真を撮り貯められた場所があったのだ。
 
絶景の中の絶景を、誰でも簡単にカメラに収めることができる「魔法の舞台装置」ともいえる場所、それは「棚田」だった。
 
桃色に染まった夕焼け雲。それを映す、鏡のような水田。畔(あぜ)に灯された無数の炎。それらが何段にも重なり、山のふもとへ連なっていく。彼方には海が広がり、浜辺の漁村には夜の明かりが輝き始めている。
 
駿河湾に面した「石部(いしぶ)棚田」で撮った写真。この写真をLINEのプロフィール画像にしていた時、多くの友人が、口を揃えて「この場所に行ってみたい」とメッセージをくれた。写真下手に定評のある私にしては珍しいことなので、宝物のように大事にして、長い間プロフィール写真を変えずにいたことを覚えている。
 
その写真は、田植えが終わった5月末、ろうそくの炎で棚田をライトアップする「石部の灯り」という幻想的な催しでの1枚だった。その時見た光景は、今思い返しても、夢のように美しい。
 
最初は目立たなかった小さな炎が、いつの間にかイルミネーションのような一面の光になり、フラミンゴみたいな夕焼け空は、満天の星空へ姿を変えていく。その様子に、驚き、感動した。
 
でも、家に帰ってカメラを見返して、もっと驚いた。過ごした時間が、そのまま写真に閉じ込められていたから。自分の体験を、鮮やかな状態に留めることができていたからだ。
 
「石部の灯り」以外の場面でも、棚田で撮った写真たちは、なぜか私のつたない撮影技術に負けていなかった。駿河湾越しの青富士をバックにした棚田の全景、農作業をしている仲間の真剣な顔、畔脇に生えている野の花々、茅葺きの水車小屋、小屋の傍らで飼われているヤギの家族……今になって思うと、それらは人に見せられる1枚になっていた。
 
「棚田」で撮った写真の魅力は、どこから来るんだろう。JR中央線から見える、新宿の摩天楼を眺めながら、スマホを片手に考えてみた。
 
NPO法人「棚田ネットワーク」のホームページによると、山がちな日本において、またアジア各地の山岳地帯において、かつて「棚田」は珍しいものではなかったという。平らな土地がない地域で生きるために、人々は傾斜地に分け入り、木を切り倒し、根っこを引き抜き、一つひとつ石を積み上げながら、あるいは土を塗り固めながら、何百年もかけて棚田を築き、お米を作っていた。
 
けれど、減反政策や米消費の減少、農家の高齢化などにより、戦後、多くの棚田は耕作放棄されてしまう。なにしろ、山の斜面に狭い田んぼが連なっているものだから、機械が入れられない。田植えも稲刈りも、すべて手作業なので、平地の区画整備された田んぼに比べ、何十倍もの労力が掛かってしまう。
 
手入れされなくなった棚田は、すぐに自然に帰ってしまう。地名だけが残るかつての棚田を、ほんの出来心で、南伊豆の山奥に探しに出かけたことがあるのだけれど、ぱっと見、どこが棚田か分からなかった。茅の茂みに見え隠れする石積みは、まるでインカの古代遺跡のようだった。
 
そう、棚田の美しい景観を維持するには、とにかく手間暇が掛かる。そして、その手間暇こそ、棚田が「フォトジェニック」たる理由ではないかと思う。たとえば摩天楼、有名テーマパーク、伝統文化財。手間暇掛けて管理されているものは、例外なく美しく、フォトジェニックではないか。
 
でも、摩天楼やテーマパークと棚田の違いは、棚田という「舞台装置」が大自然の中に存在していることだろう。大自然は、人の手が入っていなくてもフォトジェニックだ。棚田は、両方の良さが入り混じっているからこそ、「魔法の舞台装置」たりえているのだと思う。
 
平成以降、忘れられつつあった棚田の価値が全国的に見直され、各地の有志や自治体の手によって、多くの棚田が保全・復田されつつある。その保全活動に貢献しつつ、棚田という「魔法の舞台装置」を最大限に活用できる方法として、「棚田オーナー制度」を紹介したい。
 
「棚田オーナー制度」のことを知ったのは、伊豆に赴任した直後のことだった(私は転勤族なのだ)。職場の有志でお金を出し合って、「石部棚田」に、職場名義の田んぼを持っていると教えてもらった。1グループ35,000円の年会費を払うことで、約半年に渡り、棚田での農業を体験できるという制度らしい。さらに、精米されたお米20kgを送ってもらうことができるとのことだった。
 
最初に聞いた時は、正直「バカバカしい」と思った。20kgの米を買うのに、なぜ35,000円も払わなければならないのか。しかも、米作りには、春先の畔切りに始まり、畔づくり、田植え、草刈り、稲刈り、稲掛(はざかけ)、脱穀など、多くの工程がある。部分的に参加するだけで良いのでぜひ、と誘われたが、それでも相当な重労働が予想され、最初は腰が引けた。
 
だが、「棚田オーナー」への参加は、結果的に大大正解だった。新しい職場の人とも絆を深めることができたし、農作業の大変さ・農家の人たちのすごさも知ることができた。農作業を体験するだけなら、都市農園や平地の田畑で事足りるかもしれないが、棚田には高低差があるからこその、そして手間を掛けなければならないからこその魅力があり、それは都会では得がたい経験になった。事実、「石部棚田」オーナー会員の大半は、関東からはるばるやって来る、家族連れのリピーターだという。
 
もちろん、絶景写真も撮り放題だった。様々な季節に、1日の長い時間を棚田で過ごすことになるため、ベストな時間帯にシャッターを切ることができる。観光客として棚田を訪れることも可能だけれど、基本的には地元の方の私有地なので、オーナー活動でしか立ち入れない場所も多い。また、農作業を続けていると、初めて来た時には気づかなかった風景が次々に目に入ってくるようになるので、結果的に良い写真がたくさん撮れていたのだと思う。
 
フォト部に定評のある「天狼院」で、今、この記事を読んでいるからには、きっと写真が上手な、カメラに興味を持っている方が多いだろう。もし「棚田オーナー」になったなら、私など足元にも及ばない素敵な写真を撮りまくることができるに違いない。
 
先ほどのNPO法人「棚田ネットワーク」によれば、「棚田オーナー」を募集している棚田は、全国各地にあるという。あなたも「棚田オーナー」になって、「魔法の舞台装置」で最高の1枚を撮ってみませんか?
 
 
 
 
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2020-05-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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