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失敗するなら大胆に


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:住山鈴香(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「え? マジで!? そんなことする?」
 
いつもの家までの帰り道。児童館の角を曲がったら50メートルぐらい先に赤い郵便ポストが見える。そのポストの先に反対側からこちらに歩いてくる人がいる。なんとなく歩いている人の動きに不自然さを感じた。シルエットで男性なのは分かった。少しずつ近づいて来た男性の全貌を把握した時、思わず心でつぶやいたのだ。
 
反対側から歩いて来たのは、Tシャツとスエットパンツにサンダルのラフな格好の大学生ぐらいの男子だ。彼は、お湯の入ったカップラーメンを蓋が開かないように両手で持ち、コンビニでもらった割り箸を口にくわえている。なんともコミカルな姿だったのだ。手に持ったカップラーメンをこぼさないように、視線はカップラーメンの蓋に集中し、慎重に歩いてくる。ゆるい服装に反し、彼にはただならぬ緊張感が漂っていた。そのギャップがなんとも笑える。
 
私は、その彼の姿に興味をかき立てられ、勝手な妄想が止まらなくなった。
 
彼はなぜ、今、お湯を注いだカップラーメンを手にもち、割り箸を口にくわえている状況なのだろうか?
コンビニで買ったカップラーメンを家に持ち帰ってからお湯を注いで3分待つのができないぐらいお腹が減っているのだろうか?
それとも、コンビニと家までがちょうどカップラーメンができる3分なので、効率のため、いつもこのスタイルでカップラーメンを買っているのだろうか?
一人暮らしの家にお湯を沸かす道具がないのかもしれない?
 
理由も気になるところだが、一番気になるのは割り箸を口にくわえているところだ。
両手でカップラーメンを持ち、親指で蓋を押さえている。それならカップラーメンの蓋の上に割り箸をのせて、親指で割り箸を押さえれば、割り箸とカップラーメンを安定して持つことができそうだ。
カップラーメンのお湯をこぼさないようにと、手元に注意しないといけない。それなのに、
割り箸を口にくわえていることで、割り箸を落とさないように口元にも意識が必要になる。口元の割り箸のせいで、手元に集中できていないのではないだろうか?なぜ、あえて口に割り箸をくわえたのだろう?
 
そんな勝手な妄想をしている時、ふと嫌な予感がした。「なんかラーメン落としそう。大丈夫か?この状況で落としたら…。頼むから落とさんといて〜」
 
私が赤い郵便ポストをちょうど過ぎたところで、彼との距離が5メートルぐらいになった。
割り箸をくわえた彼の姿が微笑ましく思え、「落とさないように、家まで頑張れ〜。」と、心の中で応援した。
 
もうあと2メートル。彼とすれ違う直前の距離で事件は起こった。
 
そう、私の嫌な予感が的中したのだ。
 
彼が手に持っていたお湯の入ったカップラーメンが、真っ逆さまに彼の足下に落ちていったのだ。
「あっ!!」お互い声は出さなかったが、空気感でお互いの心の声を感じた。
彼のラーメンは、蓋がちょうど真下になった状態で落下していた。蓋から麺が3分の1ぐらいはみ出してしまった。もちろんスープも麺のまわりにどんどんこぼれだしてきている。これは確実にもう食べられない。「これコントやん!!」私の心の声が叫んだ。
 
たぶん、彼の中では、ナイスアイデアだったはずであろうコンビニでお湯を入れてカップラーメンを持ち帰るという行動が、結果的にせっかく買ったラーメンを台無しにしてしまった。
そして彼は、明らかに落胆した様子と、私に見られて恥ずかしい感じで、足元のラーメンを片付けるべく、しゃがみ込んだ。
 
このシーンに直面した私の対応は、何が正解だったのだろう。
「大丈夫ですか?」と声をかけるべきなのか? いや。こんなところで声をかけられることほど彼にとって恥ずかしことはないはずだ…。
頭の中で瞬時に考えが錯綜したが、私は、ただの通行人としてそのコントのような光景を見て見ぬふりをしてそのまま彼とすれ違い、通り過ぎた。
 
その後、彼がどうやってラーメンを片付けたのかは分からない。同じ道を通った時に、ラーメンの残骸はなかった。きっと落とした麺を、口にくわえていた割り箸を使いカップに戻し、持ち帰ってゴミとして捨てたのだろう。
もう一度カップラーメンを買いに行ったのかどうかも気になる。そして、次買いに行ったときは、同じようにお湯を入れてリベンジしたのだろうか?それとも、こぼすと台無しということを教訓にし、カップラーメンにお湯を入れての持ち帰りはやめたのだろうか?
 
それ以来、彼には出会っていないので、私が真相を知ることはないが、このカップラーメンの彼の話は私のすべらない話の一つとなっている。
きっと、彼にとってもこのカップラーメン事件は、誰かを笑わせるネタとなっているに違いない。そして、たぶん、その様子を一部始終見ていた私も、この話の引き立て役として彼のネタの中で登場しているだろう。
 
日常の失敗がみんなを楽しませるネタになるのなら、失敗も悪いものではない。どうせ、失敗するなら大胆なほうが面白い。つまりチャレンジは成功しても、失敗してもどっちもアリだ。そう思ったら大胆なチャレンジができそうな気がしてきた。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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