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私の「自分探し」

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:すがわらかずえ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「自分探し」をしている人。
数年前までの自分にとっては全く興味が湧かなかったし、不快感すら抱く意味不明の存在だった。「自分探し」って銘打って、やりたくないことをやらないだけの人だろう、何もしたくないから理由をつけているだけだろう、そう思っていた。
 
しかし、ある日を境に私は「自分探し」をすることになってしまった。
 
私は医師という仕事をしている。仕事を始めて10年以上、懸命に突っ走ってきた。自分で言うのもおこがましいが、上司からの信頼も厚いと思うし、後輩にもそれなりに尊敬もされていると思う。不満のない人生だと思う。実際にそんなに不満はないと思っていた。でも立ち止まってしまった。あるときを境に目標が見えなくなってしまったのだ。
 
専門医と学位と呼ばれる2つの資格をとった後からだった。
 
今までは私には何かしらの目標があった。
中学の頃は部活動の好成績を収めるためと志望校に入学するために努力していた。
高校の頃は医学部に入れるように努力してきた。
大学の頃は国家試験に合格できるように勉強していた。
仕事を始めてからも常に目標をもっていた。
「あの手技を覚えて一人でできるようになろう」
「この分野をよく勉強して説明できるようにしよう」
「専門医試験に合格するためにしっかり勉強しよう」
「学位をとるために研究を頑張ろう」
一つずつクリアするたびに達成感を覚えて、次の目標が見えていた。
 
医師の世界では、一般的な各科の専門医という資格をとった後、さらにその上の専門性を極める「サブスペシャリティ」といわれる資格をとる人がほとんどだ。私は産婦人科医だが、産婦人科の中にも様々な分野がある。例えば、お産を扱う産科、癌を扱う婦人科腫瘍医、不妊治療などを扱う生殖医などがある。産婦人科専門医という資格をとったあと、多くの人は自分の興味のある分野の専門医をさらに目指すのが主流となっている。産婦人科専門医は一般的な産婦人科医なら持っていて当たり前の資格なのである。学位というものだってそうだ。学位は大学院に入学して、研究して、論文を書いて得ることができる。むしろそこからがスタートのはずだった。
けれど、私は完全にそこで目標を見失った。燃え尽きたという状態に近かった。
 
同期や先輩はサブスペシャリティを取るために日夜研鑽を積んでいる。後輩たちも自分の理想の医師像を目指して目を輝かせて仕事をしている。上司も自分の理想とする病院を目指して、経営や患者接遇のことを考えている。
 
私は焦りだしていた。自分も何か目標を決めなくては、何か資格を目指さなくては、と。
「かずえ先生は何のサブスペシャリティを目指すんですか」
同期や後輩からは質問を投げかけられる。
「腫瘍分野のサブスペシャリティの資格を目指したらどうかな」
先輩、上司からは私が目指した方がよいであろう資格を提示される。
 
でも、全く心が動かない。今まで、あんなに自然に表れていた目標が目の前に見えてこない。
 
自分はどういう医師になりたかったのだろう。医師という仕事とは何だろう。もはや哲学的とも思える自問自答の日々が続いた。仕事以外に何か見つければいいのかもと趣味の時間も増やしてみたりした。仕事のことを考えない時間も多く作った。完全に「自分探し」状態だった。私生活の充実にはつながり、心の充足は図れた。私生活における目標はたくさん見つかった。でも、相変わらず仕事の目標は見えてこない。医師自体が向いていないかも、仕事を辞めた方がいいのかもと本気で思い始めていた。
 
そんな時、ある患者さんからの一言で目が覚めた。
その患者さんは30代後半の癌の末期の方だった。お子さんも小さく、何とか治したいといろいろな治療方法を行ったり、調べたりしていたが治療の限界が近づいていた。
「先生は、治してあげられなくて申し訳ないって何度もいったけど、そんなことないよ。先生はいつも私の最善の治療を考えてくれていたし、私にとって先生は初めての主治医できっと一生、一番いい先生だよ」
 
医療には限界がある。救えないことも多い。専門医を取ったって、学位を取ったって、サブスペシャリティを取ったって救えない命は多い。でも、患者さん一人ひとりが自分の人生にできるだけ満足できるように私のできる限りのことは行う。看護師などの他のスタッフとともに患者さんの病気が治るのに寄り添う。それだけは自分はやり続けていた。
「私はこのままでいいんだ」
本当はあまり好ましくないことではあるが、私は患者さんの前で涙した。医師になって初めて患者さんの前で泣いた。そして、久しぶりに自分の中に目標が現れてくれた。
 
「患者さんに寄り添い続ける医療を目指したい」
今の私の仕事の上での最大の目標だ。今まで自分がやってきたことではある。でも、患者さんが変わるたび、患者さんの状況が変わるたびに寄り添う医療は変わっていく。それをどこまでも目指していく。今は更なる先の資格には全く興味がない。でも、目標を目指していれば、きっとまた何か形あるものを目指す日もくるだろう。
 
私の「自分探し」は結論がはっきりでたわけではない。今はこのままでもいいと思えただけだ。だから、まだまだ悩む日々は続いている。でも、目の前にいる一人ひとりの患者さんに寄り添いながら、いつか答えを見つけていきたい。
 
 
 
 
***
 
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2020-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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