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即寝だった歌舞伎に囚われるまで

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:文旦(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
1幕目、開始15分。
2幕目、開始7分。
 
これは、初めて歌舞伎を観に行った日、舞台が始まってから寝落ちするまでの神々しい記録である。7年前、せっかく京都にいるのだから、と行ったのはいいが、話が全く理解できない。劇場全体が江戸時代にタイムスリップしていく中、私ひとり迷子。そして心地よい和楽器の音と義太夫の声を子守唄に夢の世界へ旅立っていくのである。
 
原因は分かっていた。とにかく台詞が難しく、何を言っているのか分からない。古い言葉と歌舞伎独特の節、慣れない名前と時代設定。一言一句聞き逃さず、そして意味を理解しなければ、と集中すればするほど、あっという間にストーリーからも置いて行かれる。そして脳の思考が停止し、睡魔に襲われるのである。
 
「もういっそ、台詞は捨てよう」
この日最後となる3幕目を前に、もう全てを理解しようとするのは辞めた。考えてみれば、伝統芸能に馴染みのない初心者が、いきなり歌舞伎の舞台を完璧に理解して楽しむことなんて無理だ。勉強じゃないのだから気楽に観よう。眠くなったらなったで寝よう。そう思うと、元来のミーハー心が蘇ってきた。必死に台詞を追っていた時とは異なって、役者の表情や衣装、舞台の小物に目を向けるとこれが意外と楽しいのだ。
 
まず目を奪われたのが、顔だった。ちょうど3幕目は若い男女の色恋沙汰の話で、いわゆる美男美女という設定なのだが、正直期待はしていなかった。なぜならば、美男の与三郎を演じるのは、当時68才のベテラン役者だったからだ。
 
現代劇ではあり得ないが、歌舞伎ではあたり前のように、実年齢と離れた役を演じる。特に主役となるような大役は大御所が演じるため、60才を過ぎても若者を演じることがある。だから期待はせずに舞台を眺めていたのだが、現れたその姿に我が目を疑った。与三郎(中の人68才)が、国宝級イケメンだったのである。
 
それは言うまでもなく化粧の成果なのだが、真っ白に塗られた顔に凛々しい眉、スッとした目、赤い唇、これがべらぼうにカッコ良いのだ。現代の横浜流星、吉沢亮、まさに彼らに匹敵する。いや、和装ならば彼らにも勝てる。本当である。もちろん、全ての役者がここまで男前になるってわけではない。皆それなりにはカッコ良くなるが、横浜流星に勝てる与三郎はこの方。十五代目片岡仁左衛門、通称仁左(にざ)様。本物の人間国宝である。
 
突如現れたイケメンリアル国宝の姿に、「与三郎に声かけられたらついて行ってしまう!」なんて心をときめかせながら眺めていると、台詞は理解できなくても、ストーリーの大筋は掴めてくる。眠くなんてならないし、与三郎以外にも女役の人の雅な衣装、髪型や、舞台上の小道具など、あちこち気になってくる。そりゃあ役者、衣装、舞台設備、音楽、どれを取っても日本の伝統芸能の最高峰なのだから当たり前である。こうして3幕目にしてようやく、最後まで舞台を見届けることができ、私の歌舞伎の世界が開けたのである。
 
その後は、少しずつ観る機会を増やしていった。おそらく他のジャンルの舞台もそうだが、一度見ると気になる役者が見つかる。そして調べる。次の舞台はいつ? 演目、役柄は何? そしてここが歌舞伎の素晴らしさであり、恐ろしさなのだが、歌舞伎役者は、ほぼ毎月、日本のどこかで舞台に立っている。東京・名古屋・京都・大阪・博多など、各地の劇場で様々な演目が上演されている。この上演回数の多さと頻度、ファンには堪らないが、とても追いきれない。嬉しい悲鳴である。
 
若手役者の場合、経験を積むと共に大きな役を演じる機会が回ってくる。するとファンとしては、「あの人がついにこの役を〜!」なんて感慨深い気持ちになる。デビューしていきなり主役に大抜擢! なんてことはあり得ない世界だが、だからこそ、彼が憧れの役を演じるまで応援し続けたい、という気持ちになるのだ。
 
そして歌舞伎には、ファンの魂を掴む『子どもの歌舞伎役者デビュー』という必殺技がある。将来のスター役者になることを期待されている、市川海老蔵や中村勘九郎の息子たちが愛らしく舞台に立つ様子がテレビで放送されると、つい応援したくなる。大きくなったら一緒に踊るのかな? 親子で義経と弁慶とかやるのかな? なんて想像してしまったが最後。三十年〜四十年後、彼らが一人前の役者になるまでは見たい。その頃には子供も生まれて、男の子ならまた歌舞伎の世界へ。その子の成長も見たいわ、なんて終わりがない。最後には「私、長生きしたい……」という謎の思考に陥る。恐ろしい世界!
 
なんだか、はまってはいけない世界のような言い方をしてしまったけれど、数十年という単位で変わって行く役者たちを追いかける面白さは歌舞伎ならでは。一つ一つ歩みを進めながら芸を極める彼らを観るのは楽しい。それと同様にこちら側も、最初は理解できなかった世界が、少しずつクリアになっていく。聞き取れなかった台詞、時代背景、衣装の違い、化粧の仕方、隈取りの意味など、ひとつ知る度に「へぇ〜、そうだったのか!」と、理解が深まっていく。難しいからこそ分かると嬉しい。一筋縄ではいかないが、生涯をかける醍醐味のある趣味が見つかったな、と思う。
 
じわじわとはまり、抜けられない魅惑の世界。
怖くないよ。お仲間、募集しています。
 
 
 
 
***

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2020-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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