メディアグランプリ

息子に離婚を伝えてくれた絵本は最高の子育て本だった


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記事:渡邊真澄(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
その絵本を買ったのは、元夫との離婚が確定した時だった。当時5歳の息子に、私たち親の離婚をどうやって伝えればいいのか。大型書店で離婚後の子育てに関する本を1冊買った。様々な家庭の実例を読み進むにつれて、離婚後の子育ては暗い未来しかないような気になった。私は途中で読むのをやめた。アマゾンで『離婚 子育て』と検索したと          き、1冊の絵本が出てきた。それまでに見た離婚後の子育て本とは全く違う、子どもが親しみを覚えそうなクマの絵と明るい色彩の表紙だった。私は迷わず購入ボタンを押した。数日後、息子と元夫が出かけている時間に届いた絵本を初めて読んだ。
 
ココ、きみのせいじゃない はなれてくらすことになるママとパパと子どものための絵本(株式会社太郎次郎社エディタス)
 
男の子にも女の子にも見える主人公ココちゃん。両親から「パパとママは離婚するの」と告げられたところから、ココちゃんと新しい家族の物語が始まる。子どもだけでも読めるように、ひらがなとカタカナで書かれた大きな文字の下に、親への「アドバイス」が小さな文字でページごとに書かれていた。ココちゃん親子の物語を読みながら、そのアドバイスも全て読んだ。背筋が伸びるような厳しい言葉もあれば、「それでいいんだ」とホッとするものもあった。読み終えたとき、これから先、息子に困難なことがあっても、不幸にはならないと思えた。「大丈夫だ。大変だけど、私と元夫は息子を愛情持って育てられる」自分のなかに根拠のない確信が生まれた。何度もひとりで読んだ数日後の夜。私は息子にこの絵本を読むことを決めた。息子に絵本を読み聞かせるとき、あんなに緊張したことはなかった。「なんでこんな絵本読むの?」息子の顔はそう言いたげに私を見ていた。その日は、「パパとママは離婚するの」と、ココちゃんの両親のようには言えなかった。
 
日をあけて、この絵本を息子に何度か読んで聞かせた。もう言わなあかんよな、と思った私は、『ココちゃん』と書いてあるところを息子の名前に変えて読んだ。「なんで? ぼくはココちゃんじゃないよ」絵本の途中で息子が言った。「ココちゃんのママとパパはりこんするやろ。パパさんとあーちゃん(私)も、りこんするねん」「ココちゃんになんか、ならへん! パパさんとあーちゃんは、りこんせーへん! ココちゃんの絵本きらい!」怒ってパパのところへいく息子を見て、「絵本のようには、うまいこといかんよなあ」と思った。

それから息子と私が新しい家へ引っ越すまで。そして息子と私のふたり暮らしが始まってから。私は何度もこの絵本を息子に読み聞かせた。「ココちゃんのとこ、●●くん(息子の名前)で読んで」と言いながら息子が絵本を持ってくることもあった。絵本の中で何度も、何度も繰り返し出てくることば。
 
ママもパパも、ココちゃんのことがだいだいだいだいだーいすき。ココちゃんも、ママとパパのことをこれまでどおりすきでいてね。(24ページ)
 
ココちゃんでなく、自分の名前でくりかえしこの部分を聞くことで、息子は私たち両親からの『だいすき』という思いを、自分のなかにしみ込ませているようだった。
 
絵本のココちゃんと同じく、息子も「パパさんの家」「あーちゃんと僕の家」という2つの自分の家がある生活に慣れるまでは、時間がかかった。毎週末、元夫の家で過ごした後、今の住まいに戻ってくると必ず泣いた。不安、悲しみ、寂しさ。5歳の息子にそんな感情を味わわせることになったのだと自分を責めることもあった。息子と同じように、絵本のなかのココちゃんも悲しみや怒りなどいろんな感情を感じる。そして少しずつ、新しい環境に慣れ気持ちも落ち着いていく。
 
願っても、実際には起こらないのだと、忍耐強く、やさしくいい聞かせましょう。(P26)
最後にココちゃんは、「どんなに自分が望んでも、両親は一緒に暮らすことはない」と理解した。息子は、ココちゃんのように気持ちが落ち着き、理解できるまで3年かかった。「さみしいよ」と泣くたびに、うん、さみしいねと背中をさすった。「パパさんとあーちゃんと一緒がいいよ」と泣くたびに、「うん。そうやね。でも、もう出来へんねん」と抱きしめながら言い続けた。絵本の中にあったアドバイスの通り、忍耐強くやさしく、でも頑なに息子に言い続けた。そうして息子は、理解した、というより、それを望むことを諦めた。自分がどんなに望んでも、それが叶えられないこともある。8歳の息子にそれを体験させたことは、よかったのかそうでなかったのか。答えは息子が大人になってからわかるような気がする。
 
「離婚はきみのせいじゃない」絵本を通して、このことを私は息子に伝え続けた。「親が  離婚したせいで」という言い訳を一度も言わず、息子は大学生になった。絵本を通して伝え続けたことは、息子のなかにしっかりしみ込んだかなと思う。学校でも家でも、怒られるとまず「俺は悪くない」という子に育ってしまったが。
 
子どもにどう離婚を伝えたらいいか。悩んでいるひとに、私はこの絵本をお勧めする。ココちゃん親子の物語は、子どもと親が一緒に離婚を乗りこえていけるよう支え励ましてくれる。読み終わった後、あの時の私のように「離婚後の子育ては困難はあっても、きっと親子とも幸せになれる」と根拠のない確信が生まれるはずだから。
 
 
 
 
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2020-06-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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