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メディアグランプリ

祈りを込めた花火を打ち上げる

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:柴沼由美子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「花火が上がるんだって」
そのニュースは、突然飛び込んできた。
6月初旬、全国で一斉に花火が上がる。場所も時間もシークレット。
聞いただけでなんか、わくわくする。
 
コロナウイルスの世界的な大流行のため、イベントが軒並み中止になっていた。楽しみにしていたライブも、祭りも、みんな手のひらからサラサラとこぼれ落ちてしまった。あまりのショックに途中から
「中止」
「延期」
の文字を見るのも嫌になるほどだった。
地元の花火大会も早い段階で中止になってしまった。自宅からよく見える場所で打ちあがる花火を見に、毎年友人達が我が家に集まる。楽しみにしていた夏の大イベントだ。
このために午後から半休を取って掃除に買い出しと時間をかけて準備を整える。寿司を買い、ピザを取り、ビールを用意してソワソワしながらその時を待つのも楽しいのだ。
 
「でも、しょうがないか。来年を待とう」
と、諦めがつきはじめた頃、そのニュースが舞い込んできたのだ。
「コロナウイルスの終息を願い、全国で花火の一斉打ち上げが行われる」
「場所と時間は密を避けるため非公開」
落ち込むようなニュースが多い最近、久々に心躍る。
 
「いつなんだろ、見たい」
見逃さないために6月になったら毎晩空を見上げよう、と決めた。文字通り上を向くんだ。
自宅から見られる場所で打ち上げられるとは限らないけど、見られなくてもきっと誰かがSNSにあげてくれるはずだ。
 
花火大会の起源は、遥か江戸時代に遡る。疫病(コレラ)が大流行し、さらに享保の大飢饉のため物価も上がり江戸市民は逆境に立たされていた。今の日本とそっくりな状況だったようだ。そこで疫病退散を祈願するために花火が打ち上げられたという。花火好きのくせにそのことを知らなかった私に夫が教えてくれた。
花火大会が中止になったのは、言わずと知れた3密を避けるためである。疫病退散を祈願する花火大会を開催すると、コロナウイルス感染が拡大してしまう可能性があるというのは何とも皮肉な話である。
 
それはともかく、ほんの短い時間打ち上げられる花火に私は希望を見出した。誰が思いついてくれたんだろう。粋で格好いいアイディアに感謝。
何時頃になるんだろう。通常の花火大会の時間だったら19時頃からかな。あまり遅い時間ではないだろう。
何日かな。初旬だったらちょうど真ん中、6月5日かな。
いろいろ推理して楽しんでみる。ネット上でも予想が上がっている。でも打ち上げ準備を目撃しても教えないで欲しい。
 
ドキドキしながら6月を迎えた今朝、日時だけが公開された。突然の花火の音に不安を感じる人がいるかもしれない、という配慮のためだ。
6月1日 20時、全国一斉打ち上げ開始。
「今日だ! 今日だって」
心臓が跳ね上がる。楽しみも比例してぐんと上がる。その一方で見られなくてもがっかりしないように
「私が見られなくても誰かが絶対に見てる。そして疫病退散を祈ってくれる」
と自分に言い聞かせた。まるで私、子供のようだ。打ち上げ時間の5分前にアラームをセットし、教えないでと言いながら情報を求めてネットを彷徨ってしまう。そして場所を探し当ててしまったのだ。自宅から見えるところだった。
 
5分前、玄関を出る。また中に戻る。落ち着かずうろうろしたあげく、多分ここから見えるであろう場所でドキドキしながら待機した。こんなに打ち上げが待ち遠しかった花火は今までなかった。
20時ちょうど、待ちに待った花火が打ち上げられた。3分間の短い間、10発ほどの花火。同じマンションのそちらこちらで歓声が上がった。
「綺麗だね」
そんな声も聞こえてきた。嬉しい。
花火大会の華やかさはない、けれども祈りの込められたそれは、静謐で美しかった。たった一人で見た花火に、日本中の人と一緒に祈りを込めた。いや、ネットで中継されるらしいから世界中の人々と一緒だ。さぞかしパワーのある祈りになったに違いない。
 
今年の花火は特別だった。こんなに大勢の人とつながって見た花火は初めてだった。そして遠く江戸時代の人ともつながった気がして、なんとも不思議な、敬虔な気持ちになった。じわじわと涙が溢れて止まらない。
来年の夏はまた、友人達と賑やかに楽しく花火を見よう。それでも、今日の花火を私は忘れないだろう。
美しい体験をありがとう。私ももう少し頑張ってみよう。コロナウイルスとの闘いは孤独な闘いではない。大勢で闘っているのだ。世界中の人々と共に。
 
さあ、明日に向かって花火を打ち上げよう。それぞれの心の中で。
 
最後に、この文章を花火の打ち上げに間に合わず今朝、空へ旅立った友人に捧げます。
 
 
 
 
***

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2020-06-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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