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ヴィーガンになって学んだこと

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記事:松本初穂子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
わたしは留学中の3ヶ月ほど、肉や魚をはじめ、牛乳、バターなど一切の動物性食品を食べなかった。いわゆる「ヴィーガン」だ。はじめたきっかけはふたつ。ひとつは「環境に配慮したライフスタイルを送るため」。肉食をはじめ、動物性食品が地球環境に及ぼす影響は少なくないから少しでも貢献したかった。もうひとつは「どれくらいヴィーガン生活ができるのか」という、自分の意志と身体を試すため。生まれてからほぼ毎日摂取していた動物性食品をどれくらいの期間やめられるのか、実験したかった。
 
実際にやってみると、案外ヴィーガン生活は難しくなかった。味付けや調理方法を工夫すれば野菜だけでも食べ応えがある。全然、肉や魚がなくても生きていけるじゃん、と思いつつ1ヶ月が経過。また、あらゆる人に「動物性の食品は食べないようにしている」と言いまくった。そうしたほうが肉を食べないことを不審がられず、食事の際にヴィーガンメニューを頼みやすいと思ったからだ。
 
「ヴィーガン友達」もできた。同じ志をともにする仲間だ。なかには「I am VEGAN」というTシャツを着ていたほど、筋金入りもいた。彼女たちとはお気に入りのレシピをシェアしたり、野菜だらけのパーティを開催したりした。ここでは食事に気を使わなくていいし、環境問題に関する話ができて面白かった。けれど「ミルクチョコが入っている」という理由からクッキーの一枚すら食べない彼女たちには違和感を覚えつつもあった。
 
ヴィーガン生活も3ヶ月目に突入したある日、ベトナム人の友人がスープをごちそうしたい、と家に誘ってくれた。鶏肉をベトナムのハーブで煮込んだスープ。ヴィーガンになる前にも作ってもらい、私の大好物となっていた。それを彼女は覚えてくれていたのだ。問題は、いまの私は肉を食べないということだ。彼女はこのことを知りつつも、スープに入っているくらいなら、と思ったらしい。「いま肉を食べると、もうヴィーガンに戻れない気がしてしまう。私も手伝うから豆とか野菜で代用して作ってみない?」と彼女に提案してみると、「このスープは鶏肉じゃなきゃおいしくないの」と不満げに言う。返す言葉がなかった。私は知らずに彼女の想いと食文化を否定してしまったのかもしれない。結局、ごはんの話はなくなった。
 
この一件はダメージが大きかった。思い返せばヴィーガンであるがゆえ、周囲に気を遣わせてしまっていた。ある友人はわざわざヴィーガンメニューのあるレストランを探してくれたし、またある友人はパーティのとき野菜だけの料理を用意してくれた。そもそもヴィーガン宣言をしてから食事に誘われること自体減っていたと思う。
 
食事がこれほど交流関係に影響を及ぼすとは思いもしなかった。そこまでしてヴィーガンを続けるべきか。迷っていると、友人から「フレクシタリアン」の存在を教えてもらった。Flexible(柔軟な)から生まれたこの言葉は「家ではヴィーガンやベジタリアンだが、外食では肉・魚も食べる」ことを意味する。これだ、これなら、誰かと一緒に食事を楽しみつつ、少しは環境に配慮した生活を送ることができる。そこでわたしは「外では肉食」となった。友人たちに肉食を再開することを伝えると、「また一緒にごはんを食べれるね」と喜んでくれた。ヴィーガン友達には、「最近たまに肉を食べるようになった」と伝えた。「ああ、そう」と、予想通りの冷ややかな反応。仕方ない、肉食は彼女たちにとって最大の敵なのだから。
 
肉や魚を食べるようになってから、友人との食事を思いきり楽しむことができた。ベトナム人の友人による薬膳スープもいただいた。もちろん、鶏肉入りで。その後、彼女の地元・ハノイに旅行した際は、名物の牛肉入りフォーだけではなく犬や鳩も食べた。どれも本当においしかった。「地元のベトナム料理をあなたにたくさん紹介できてすごく幸せ!」と彼女がうれしそうに笑っていたのを覚えている。
 
「外では肉食」をするようになって本当によかった。もちろん、ヴィーガンを否定するつもりはない。動物性食品が地球環境に与える影響は大きいし、生まれつき肉や魚が食べられないひともたくさんいる。しかし、私にとって食べることはただお腹を満たすのではない。食べることは誰かとの関係をつくる、大切な行為だ。このことをヴィーガン生活で身をもって体感した。親しい友人や家族と食べるご飯は何よりもおいしいし、会話も弾む。「同じ釜の飯を食う」というように、食事を共にすることは人と人の間にみえないつながりを生み出す。だからこれからも誰かと食べるときは共に過ごす時間を味わい、たくさんのつながりをつくっていきたい。
 
 
 
 
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2020-06-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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