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私は選手兼監督


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記事:波多 友美(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私の仕事は公務員。生まれ育った町の役場に勤めておよそ30年になる。
一般的に役所の仕事は、残業の少ないってイメージかもしれないけど、実はそうでもない。私も就職するまでは、定時で帰れるイメージしかなかったけど、業務量の多い部署では、月の残業時間が過労死ラインギリギリなんてこともある。
 
私は、人事異動のたびに「残業の多いところばっか行くね~」と言われることもしばしば。
「忙しい部署ばかり行く人」ってイメージがいつの間にかついてしまった。でも、私は仕事をするのが楽しかった。業務量が多くて辛い日々もあったけど、仕事を完成させ、上司に報告する。課題を分析して、解決策を上司に提案する。そうすると上司は「ありがとう。助かるよ」と喜んでくれた。その「ありがとう」が、仕事の原動力のひとつだった。
 
そんな私が初めて部下を持ったのは、7年前。40代前半。役所の中では特別早い昇進ではないけれど、女性としては比較的早いほうだった。当時、同じ役職者は、50人くらい。そのうち女性は、私を含めて4人しかいなかった。自分でも上層部からの期待を意識した。これまでの頑張りを評価してもらった結果だとも思った。その期待感は重く感じたけれど、うれしかったのも事実。
 
初めての部下は、2人の男性。30代で、いわゆる「できる」人だった。
それまで、その2人には「係長」という役職の上司がいなかった。「課長補佐」という「係長」より1ランク上の役職者の指示により仕事をしていた。「課長補佐」は、その課すべての業務について指示をする立場にあり、業務量も多く、多忙である。そのせいか2人は、自ら決定し、進めていく能力が高かった。
 
「係長、この事案B案でいきますから」
「昨年、他の部署に依頼が遅れて、最後バタバタしたので今年は早めに始めます」
 
文句なしにいい部下である。しかし、私は自分の存在意義に疑問を感じた。「私がいなくても仕事進むんじゃない?」と。
 
実は、人事異動のとき、私はそれまで自分の持っていた仕事を持ってきた。つまり、部署の仕事が増えたわけだ。私という新たな人員が増員されたのは、仕事が増えたからだった。
 
私は持ってきた仕事は、自分の仕事だと思っていた。
 
「仕事の流れを知っているのは私だけだしなぁ」
「説明するのも時間取られるなぁ」
「2人とも忙しそうだなぁ。私がやっちゃったほうが早いかも」
 
いろいろ理由をつけて、自分がやった結果、許容量オバー。仕事のクオリティは下がってしまった。当たり前だが私の仕事は、それだけではないからだ。
係長としてやるべきマネジメントの仕事と自分がする仕事のバランスをどうとって良いかがわからなくなってしまった。部下を持って「係長」という立場になってから、仕事が面白いなんて思えなくなってしまった。
 
身近な人からの感謝をモチベーションに仕事をしてきた私は、立場が変わったことで今度は「感謝する側」になった。でも、私は「人に評価してもらいたい欲求」を捨てられない。だから、つい部下に振れる仕事まで自分でやってしまう。そして、自分の捌ける仕事量を超えた仕事を抱え、全体的に仕事のクオリティを下げてしまうのである。
 
「仕事を抱え込んでしまう」このクセはなかなか抜けなかった。「このままだと終わらないかも」とうすうす気づいてきても、なかなか部下に「手伝って」とは言えなかった。こんな中途半端で手伝ってもらうなんて悪いと思ったし、自分がこの仕事を終わらせなきゃと強く思っていた。自分で仕事を終わらせて、人に評価されるという快感を味わいたい気持ちをどこかで持っていた。
だがある時、自分の仕事への取り組み方を変えなければ、と悟った。夜遅く、ひとりで仕事をしていて「何のために仕事してるんだっけ?」なんて考えるようになってきたからだ。
 
私はそれまで、ひとりでマラソンをしていた。でも違った。これは駅伝なのだ。私は駅伝チームの選手であり監督。監督は、メンバーの調子やどこでスパートをかけるかなどチーム全体に気を配る必要がある。全員が力を出し切らないといいタイム、いい順位でゴールはできないからだ。チームを勝たせるのが監督の役割だ。
この考えに行き当たり、私は少しずつ部下に仕事を振ることができるようになった。私一人が長く走っても駅伝では勝てない。それぞれがそれぞれの区間を一生懸命走りきることで、勝てるのだ。
 
私は、7年間に4つの部署を経験した。今担当している仕事もなかなかの業務量で、部下も、私も、息つく間もなく忙しい。忙しそうにしている部下を見ていると「私がやっちゃおうかな」と以前のクセが顔を出すけど「いやいや、これは私がやるより業務を熟知している○○さんがやったほうが早いし、効率的」と思い直し、仕事をまかせている。もちろん、きちんと仕事を仕上げてくれていることへの感謝は忘れない。自分が感じた喜びを、部下にも感じてほしいから。
 
 
 
 
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2020-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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