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大失敗と埋蔵金


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:石川サチ子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「今日限りで会社は辞めてもらいます、さようなら」
 
頭をいきなり強く殴られたような感覚だった。
私が何か言おうとすると、社長は遮るように続けた。
 
「これからアポが入っていますから、今日中に荷物をまとめて出て行ってください」
「今月分のお給料は月末振り込みます」
 
社長は、カツカツとヒールの音を立てて会社を出た。
私はすぐに追いかけた。背中に向かって「すみません」と言うのがやっとだった。
 
当時、私は、女性社長が経営する小さな会社に勤めていた。
 
転職を繰り返し、借金もある私を拾ってくれたのは、M社長だった。
 
M社長は、私の新卒時代の営業経験を高く買い、雇ってもらった。
 
しかし、私はM社長の期待を下回る仕事しかできなかった。
何度も仕事で失敗をして、何度も迷惑をかけていた。
 
発注ミス、お客を怒らせてしまう、ルール違反、マナー違反を犯してしまうなどなど。
その度に社長は許してくれた。
 
私は仕事を甘く見ていた
 
そしてとうとう、失態を犯してしまったのだった。
 
大事な商談をからめた接待の席で、こともあろうことか、私はいびきをかいて寝ていたのだ。
 
一緒にいた同僚に起こされて、私はタクシーに放り込まれていた。家の前につく頃、ようやく自分は何をしてしまったのか気づいて青ざめた。
 
お酒も入っていたから酔いも回っていた。普段の緩んだ気持ちが出てしまったのだ。
 
大事なお客の前で私は寝てしまった。社長が怒るのは当然だ。
 
私に見切りをつけるのも分かる。私が逆の立場だったら、こんな社員、雇わない。これではお給料泥棒ではないか。
 
当時の私は、仕事はお金をもらうために仕方なくやるものだと考えていた。働いてやっているくらいの感覚だったと思う。
 
その日も、何で夜まで仕事しなきゃいけないの!と、不平不満と顔に描いて席に着いていた。
 
後で振り返れば、すべてはこのマインドが引き起こした結果だったのだった。
 
外回りでみんな出払ったオフィスで、私は自分の荷物を片付けながら落ち込んでいた。
 
このまま辞めてしまったら、もう社長とは会えないだろう。社長を裏切ったような状態で会社を辞めるのは、将来ずっと引きずって後悔するはずだ。
 
それに、明日からどこで働けば良いのだろうか。借金ばかりで貯金なんて無い。200万円くらいの借金。もうこれ以上増やしたくない。
 
転職回数が多く、数ヶ月で会社をクビになった人間など、都合良く雇ってくれるような会社はあるのだろうか?
 
派遣会社に登録しても、私が勤まるような仕事は、あるのか?
 
それに、安い賃金でアルバイトするのはもうこりごりだった。
 
この会社に入る前に、仕事がなくてアルバイトをしていた。
家賃と借金の返済のため、実は3つのアルバイトを掛け持ちしていた。朝5時からホテルのモーニングを出す仕事をして、その仕事が終わると、某役所の事務スタッフとして働き、退社後は、データ入力の会社で働いた。
 
帰りはだいたい12時近く。
仮眠を取って、起きてすぐにホテルのモーニングの仕事に出た。
 
更に、役所の仕事とデータ入力の仕事の無い土日は、近所の歯医者で歯科助手として働いた
 
こんなに働いても、家賃と借金の返済を差し引くと数万円しか手元に残らなかった。
 
やっと見つけた仕事だったのに。情けなかった。
 
クビを宣告されたのは、金曜日だった。
会社から持ち帰った荷物を抱えて、コンビニで求人雑誌を買って家に戻った。
求人誌をパラパラとめくっても、頭の中は後悔ばかりが隅々まで充満して何も考えられなかった。
 
地獄に突き落とされたかのような週末。このままいっそ消えてしまおうかと思った。
 
その時、電話が鳴った。社長と私の共通の知り合いからだった。
慌てて出た私の声に相手は驚いて、「どうしたの?」と心配してくれた。
 
私は、その知人に、すべてを話した。
 
「お世話になったのに、情けない」
「今度社長に会ったら、よろしく伝えて」
 
その知人は、言った。
「本気で社長に悪いと思っているんだったら、ウジウジやっていないで、社長に直接会って謝れ」
 
私は、ようやく気づいた。
 
「そうか、こんなにウジウジやっているくらいなら、直接会って謝るしかない、できるだけ早い段階に」
 
知人は続けていった。
 
「今、電話してみろ、社長の居場所を突き止めて、直接会って謝れ」
 
私は、知人に言われるがまま、社長に電話をかけていた。
 
当時、ムダに高いプライドを持っていた私は、仕事以外で自分から誰かに電話をかけるなんて、ほとんどしなかった。その日は捨て身だった。
 
ぷるぷるコールする音が、ひとつひとつ心臓に突き刺さるようで痛かった。
 
「もしもし」
社長の声が耳元に飛んできて、私の心臓は一瞬止まった。
 
「もしもし」
社長の二度目の声で、やっと冷静になっていた。
 
「すみません、今どちらでしょうか?今すぐお会いしたいのですが」と言っていた。
 
電話を切ってすぐに私は社長の家の近くのホテルに向かった。そのラウンジで社長と会って、平謝りに謝った。
 
温情で、クビは免れた。その会社で私はまた働くことができた。
 
翌週から私は、それまでの甘えたマインドを手放した。
 
そして滅私奉公という言葉がぴったりなくらい、一生懸命働いた。
 
朝は、6時に出社してオフィスの掃除を隅々までした。掃除が終わると一日の行動計画を立て、余った時間は資料作りや書類整理に当てた。
 
夜も仕事が終わった後は、新規開拓できる会社などについて調べたり、ビジネスについての勉強をした。
 
帰りは毎日、夜の10時を過ぎていた。
 
それでも、アルバイトを3つ掛け持ちしていた頃に比べたら楽だった。
 
会社に自分の席があることが有り難かった、私に割り当てら得る仕事があることが心から嬉しかった。
 
数ヶ月後、私は新規事業プロジェクトを任されることになった。
初めて付き合うメーカーとのやりとりから、新規の売り先の開拓まで、刺激的だった。営業経験がここでフルに発揮された。
 
近場のスーパーマーケットから攻め、次々に商品を置いてもらった。半年位で、全国展開する日本一の大手スーパーの棚に並べてもらうことができた。
 
半年前は0円だった新規事業が、数億円規模の売り上げを立てていた。
 
お給料にも還元してもらい、私は借金を全額返済できた。
 
この経験から、私はマインドが結果に跳ね返ってくることを学んだ。
 
何事も、いい加減なマインドで取り組んだら、いい加減な結果にしかならない。しかし、真剣なマインドで取り組めば、それ相応の結果が返ってくる。
 
それまでは、マインド論なんて、暑苦しくて他人事だと思っていたけれど、それは私が、何事も舐めていたせいだった。
 
マインドは全ての土台であり、結果を左右する最重要なファクターだと確信した。
 
大失敗することで掘り当てた埋蔵金だった。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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