熱が出たときのご褒美
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記事:こんどうなつき(4ライティング・ゼミ日曜コース)
発熱は、タイムカプセルだ。
毎回、いつもは忘れていることを思い出して、少し感傷的な気持ちになるが、その思い出によって心が救われることが多い。
免疫機能に問題がある私は、子どもの風邪をもらっては、どんなに軽い風邪でも、もれなく毎回重症化して、高熱を出し、ウンウン唸って寝込むことになる。
今回も夜中に高熱による節々の痛みと寝苦しさで起きた。布団の中で何もしないでいるのはあまりに辛いので、家族を起こさないように、リビングのソファーに布団を持ってゴロンと横になり、ガタガタ震えながら本を読んでいたら、ふと頭の中に「小さな箱に入った八つ橋」が浮かんできた。
普段食べないのに、あまりにも鮮明に八つ橋が浮かんできたので、何事かと思ったが、すぐにそれが亡き母との思い出だったことを理解した。
それと同時に涙が出てきて止まらなくなり、とても苦しかったが、泣いたあとの気持ちはすごくスッキリしていた。まだ熱の下がらない頭で、窓からキラキラした景色を見て「完全に忘れていたことだったけれど、思い出してよかった」と思った。
4年前の秋、友達の結婚式のために京都へ行った。
風邪気味だったけれど、その友達は大学生の頃、とてもお世話になった人でお祝いに行きたかったし、「ドタキャンするのも悪いな」という気持ちもあったので、少し無理をして出かけた。しかし、新幹線に乗ったあたりで、熱は急激に上がり始めた。
何とか結婚式に出たのはいいけれど、秋口で少しひんやりした空気の中、フォーマルなドレスにヒールの靴という組み合わせは、高熱の体には本当に辛かった。
結婚式の間、何とか耐えたが、帰りの電車の中は、朦朧として何も覚えていないくらいだった。
そして、体が弱いのに無理をしたので当然だが、その後肺炎になり、10日くらい、点滴のために病院へ通っては、家に帰って寝続けた。
当時、母の看病をしていたが、免疫を抑える薬を飲んでいる母の病室へ行くわけにもいかず、「私が病室へ行けない間、きっと寂しい思いをさせてしまっているだろうな。どうか、その間にお母さんが死んじゃうことだけはありませんように」と毎日祈った。
その祈りが通じたのか、母が「このタイミングでは、あまりに可愛そうだ」と思って粘ってくれたのか、いつ死んでもおかしくない状態だったにもかかわらず、母は生きていてくれた。
毎日電話をかける私に「いつも来てくれて、相当疲れが溜まっていたんだろうから、何もしないでゴロゴロしなさい。絶対に無理しちゃダメ。家事も通院も何にもしなくていいように、今すぐ隣に呼んで、病院のベッドで寝かせてあげたいよ」と母は言った。
病室へ行ったら移してしまうに決まっているし、母は医学の分野で働いていた人だから、それがどんなに自分の生命にとって危険か分かっているはずなのに、心からそう言っているのが分かって泣けてきた。
私が病室に行くことは、現実には不可能なことで、あくまで空想なはずなのに、心の中の「本気の分量」が多いことが分かった。「自分のことなんてどうでもいいから、今すぐ近くで面倒を見てあげたい」そういう親の子どもに対する無条件の気持ちが電話の声から伝わってきた。
その後、まだ咳が残っているからマスクを厳重にして、持ち物を全て消毒して、着替えとか必要な物だけ持って、本当にちょっとだけのつもりで病室に行ったら、「ありがとう」と母にハグされたので、本当に泣きそうになった。
それが「寂しかったよ」という子どもや恋人のハグではなく「心配したよ。でも、良くなったんだね、よかった」という「親のハグ」だということが分かったからだ。
半泣きの私は、それを誤魔化すように、バッグから、小さな箱にパステルカラーで栗の絵が描いてある栗味の八つ橋と、母が病室で工作をするための「京都の名産品と謎の生き物がプリントされた変な柄のマスキングテープ」をお土産として渡した。新幹線の乗り換えで時間がなかったのと、熱で朦朧としていたので、本当に微妙なお土産だったが、母はとても喜んで受け取ってくれた。そして、「早速ここに貼ろう」と言って、自分で撮った動物や旅行の写真をスクラップしたアルバムに貼り付けた。
いつか、私にもそういう人生の終わりを感じる日がやってくる。その終わりが徐々に訪れるのか、突然やってくるのかは分からないが、いつその日が来ても、「色々あるけれど、家族が何よりも大事。でも押し付けにならないように、重くならないように、ただみんなの幸せを祈ろう」という気持ちでいたいし、そのために、日々そこからズレないように、自分せっせと磨いておこうと思う。
そういう「人生の見直し」みたいな時間は、子育てと仕事で忙しい日々には中々ゆっくり取りづらいから、熱が出たときの、この不思議な感覚は、「体は丈夫じゃないけれど、ズルはしないで真面目に生きている自分」へのご褒美なのだと思う。
***
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