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私は子どもでうっぷんを晴らしている

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:川俣智恵子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私が子どもに大声で怒鳴るのは、しつけのためなんかじゃない。
大声で怒鳴って、ストレスを解消している。
ちょうどいいタイミングで子どもが失敗したから、やつあたりしただけ。
私は子どもでうっぷんを晴らしている。
 
3歳の娘に怒鳴る。
「リン子がさっさと飲まないから、タミがコップを倒しちゃったでしょ! 昨日も言ったよね!?」
テーブルの上には倒れたコップ。ぶちまかれた麦茶。
1歳のタミはあどけなく罪のない表情だ。3歳のリン子はおびえている。
「ごめんなちゃい……」
 
あとになって冷静に振り返れば、私にもわかる。
麦茶を全部飲まないで、テーブルに置いておく時なんて誰にでもある。
たまたま目を離したすきに、幼い妹がコップを倒してしまった。
誰も悪くない。
 
冷静になれば、私にもわかる。でもいろんな場面で、つい怒鳴る。
こんなに小さな子どもでストレスを解消している。卑怯な私。
 
アニメのクレヨンしんちゃん。7歳の長男が好きで、よく見ている。
しんちゃんのママはみさえさんという。
アニメを見ながら、「みさえさんっていい女だな」といつも思う。
みさえさんは、しんちゃんがいけないことをすると怒る。「コラッ! しんのすけ!」
でも、その場だけだ。あとはケロッとしている。
怒る声も可愛い。
 
私だって昔は、優しくて可愛いママになれると思っていた。
こんなはずじゃなかった。
 
ある休日、私はやはりイラついていた。このままだと子どもに怒鳴ってしまいそうだ。夫に子供を頼み、食料品の買い出しに出かけた。
車に乗り込み、強めにアクセルを吹かす。このままどこかへ行ってしまいたい。
四六時中子どもにまとわりつかれて、私が私に戻れる時がない。ものすごいストレス。
その怒りを子どもにぶつけないように、車の中で大声を出して吐き出しまくる。
ふと運転しながら、「……待てよ」と思った。
 
この光景をどこかで体験した。違った角度から。
 
ああ、そうだ。
 
私たち姉妹が思春期の頃、母もよく怒り狂って車のキーを引きちぎるようにして柱のフックから持って行き、出ていった。
2時間くらい高速道路を一人で運転して、まだ怒りが覚めない様子で帰ってきた。
 
ヒステリー。バッカじゃないの。
私は母を軽蔑していた。
 
母も同じだったのかもしれない。
うまく子どもを愛せなかった。
愛情表現が下手だった。
子どもと接すると、自分の中の何かが刺激されて、猛烈に怒りがこみあげてくる。
でもそれを子どもにぶつけたくない。
だから、出て行ったんだ。
私たちが幼い頃は子どもだけで置いていくことができなくて、代わりにお尻を叩いて押し入れに閉じ込めたり、外に引きずり出したりして距離を置いたんだ。
 
私はずっと母に嫌われていると思っていた。
「私のことを嫌いだから怒るんだ。離れて行ってしまうんだ」と思っていた。
でも、そうじゃない。
母は、私に怒りを直接ぶつけたくなかった。これ以上傷つけたくなかった。
だから出て行ったんだ。大切だから、傷つけたくなくて、一時的に離れたんだ。
 
お母さんが私のことを大切に思ってくれていた!?
 
その可能性に気づいたら、涙が出た。
 
図書館にある「毒親」本は全部読んだ。専門の先生のところで心理セラピーも受けた。両親から受けた毒を子どもに垂れ流したくなかった。私は一人でがんばっていると思っていた。親からもらった毒を一人孤独に燃やす焼却炉だ。
 
でも本当は、母こそ孤独な焼却炉だったのかもしれない。
 
母たちの時代には、カウンセリングや心理セラピーは特別な人たちのものだった。
インターネットもなかった。子育てが辛いなんて大っぴらに言えなかった。
母は誰にも助けてもらえずに、一人で「優しいお母さん」を目指していた。
結果は散々だった。でも、と私は思う。結果が何だって言うんだ。結果なんかただの結果だ。彼女はやろうとしてくれていた。大切なのは動機であり、心だ。
母の中に「この子たちを大切に育てたい」という思いがあったとしたら?
 
それを、それだけを、私は大事に受け継がなくちゃ。
 
母へのわだかまりが全部溶けたわけじゃない。まだ恨んでいる。憎んでいる。
でも。
母からのバトンを受け継いで、私はできる限りやろうと思う。
 
子どもに思わず怒鳴った時、私は自分に問う。
「今、子どもでうっぷんを晴らしたよね? どうした? 本当は何に困ってるの?」
「一人でがんばらなくちゃと思ってるの? もう十分だよ。ほかの道も探そうよ」
 
もっと自分に優しくなりたい。
そうしたら、子どもにも優しくなれる気がする。
今はまだ憎き、母にも。
 
いつの日か、怒った声も可愛くなれますように。
くれよんしんちゃんのママみたいに。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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