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モンサンミッシェル巡礼の旅


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記事:スエミツヒロエ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
フランスの世界遺産、モンサンミッシェルをご存知だろうか?
島の上にお城のような修道院がそびえ立ち、城壁に囲まれた、おとぎ話に出てきそうなインパクトのある光景は、誰もが一度は訪れてみたい、と思うであろう人気の観光スポットだ。
 
しかし、パリからも遠く、アクセスもよくないため、訪れるのはなかなか難しい。一般には、パリからの日帰りバスツアーを利用したりするようだ。パリから400キロも離れているので、片道5時間、往復10時間はかかる。私も、パリや南仏を訪れたことはあったが、フランスの北部、ノルマンディー地方に位置する、モンサンミッシェルを訪れたことはなかった。
 
そして、3年前の今頃、6月のことだ。私は家族とその地を訪れることができた。命からがら、モンサンミッシェルにたどり着いた。というと大げさだろうか? しかし、私にとっては、それぐらい強烈な体験となった。
 
きっかけは、大学生の長女がフランスに1年、留学していたことだった。帰国する前に、家族でフランスに行こう! と、みんなの休みを合わせて、無理くり1週間の休暇を作った。
 
さて、そうと決まれば、旅行準備だ。ネットで格安の航空券を家族3人分(夫、次女、私)、予約した。そして、訪れたことのなかったモンサンミッシェルを日程に組み込んだ。どうせ行くなら、彼の地で1泊してみたい。という私の希望で、ネットの予約サイトで、島内のホテルを予約し、フランスにいる長女がパリからのT G V(高速鉄道)のチケットを予約してくれた。
 
そのT G Vの予約をした際に、私のクレジットカードを使ったのだったが、それが災難? の始まりだったことは、知る由もない。
 
無事、パリに着いた。6月のパリは気候もよく、素晴らしい季節だ。留学している長女とも合流し、フランス生活にも慣れた彼女のおかげで、移動、食事、何の心配もなく、滞在できた。
 
そして、滞在2日目の朝、モンサンミッシェルに向かうために、家族で、T G Vの発着駅であるモンパルナス駅に向かった。時間には余裕を持って、ホテルを出た、はずだった。駅に着いて、発券機にクレジットカードを挿入する。そうすると、予約されたチケットが発券されるはずだった。しかし、何度トライしてもだめ。どうやら、予約に使った私のクレジットカードにI Cチップが付いていなかったことが原因だった。係の人が、「あっちのカウンターに行って」と遠くを指差した。
 
言われたカウンターに行くと、なんと長蛇の列。しかも、フランス人への偏見ではないが、明らかに仕事をする気のない様子でのんびりマイペースで業務に当たっている。これは、もしかして時間ギリギリになってしまうのではないか? 列はなかなか進まない。フランス語のできる長女が、「発車まで、あまり時間がないんだけど」と聞いてみても、「列に並んで待ってください」と言われるばかり。
 
仕方がない。荷物を持って、先にホームに行っていて、と、夫と次女にお願いし、私と長女がその列に並んで、順番を待った。
 
時間が刻々と過ぎていく。T G Vのモンサンミッシェル行きは7時38分発。それを逃すと、次は午後になってしまい、全ての予定が狂ってしまう。だんだんと心配になってくる。もう無理なんじゃないだろうか? そして、カウンターで対応してもらえたのは、発車の10分前くらいだっただろうか。ものすごく不機嫌そうな、お姉さんだった。気怠そうに、やる気なさそうに対応している。わざとゆっくりしているんじゃないかと思った。チケットを発券しながら、何かぶつぶつ言っている。それに対して、長女も何か言っている。
 
私「なんて言ってるの?」長女「絶対間に合わないって! ホームが遠いから、無理だって言ってる、諦めなさいって」
 
そして、4人分のチケットが発券されたのは、発車のわずか5分前。そのチケットをつかんで、長女が叫んだ! 「ママ! 走るよ!」
 
それから駅の中を猛ダッシュだ。そのカウンターが駅の左の端だとしたら、右の端まで、ダッシュだ。東京駅のような大きな駅を、必死の形相で走る母娘。娘は体育会のテニス部に所属していたし、足も速い。かたや、鈍足で体力に自信のない母は必死だ。スニーカーを履いていたのは幸いだった。
 
人混みをかき分け、右の端の突き当たりまで走った。その壁には矢印が書いてあって、○○線まで徒歩8分と書いてあった。「○○線まで、8分!? もう無理! だって、発車まで、あと2分しかない!」諦めた、諦めかけた。だって、もう息が上がって走れない。
 
すると前方を走る長女が叫ぶ。「ママ! 早く! 走って!」その声に、私もがんばる。でも、無理なものは無理だ。歩く。また長女が叫ぶ。「ママ! 走って! ママ! 早く!」
 
何なんだ、この状況は。苦しい。苦しすぎる。喉もカラカラだ。心臓破りだよ、これは。何の因果で、こんなことに……。
 
走っても、走っても、ホームに着かない。すると、階段が見えた。
 
プルルルルー、と階段の上で、発車ベルが鳴っているではないか。
 
「ママー! 早くー! 」長女の声が遠くで聞こえる。最後の力を振り絞って、階段を駆け上がる。
 
電車のドアが閉まるのを、恰幅のいい車掌さんが、身体を張って、腕と足を必死に伸ばして、開けてくれている。家族が叫んでいる、「ママー! 早くー!」
 
ああ、ヤバイ。本当にヤバイ。ここで乗らないと、私だけパリに取り残される!
 
走って、走って、わずかに開いているドアの隙間から、その電車に飛び込んだ!
 
その瞬間、バタンとドアが閉まった。私はそのまま倒れ込んでしまい、しばらく起き上がれなかった。笑いが沸き起こっていた。周りの人たちは、みんな笑っていた。家族もみんな笑っていた。
 
「ママ! がんばったね! すごいよ!」「よく、がんばったな」娘たちも夫も、私の健闘を称えてくれている。すべてに力を出し切った私は、フラフラだった。よかった。間に合って。指定席に座ると、ようやく安堵感に包まれた。
 
T G Vとバスを利用して、お昼前に、モンサンミッシェルに着いた。その佇まい、景観に圧倒され、興奮した。そして、モンサンミッシェルの名物であるオムレツ料理の店に入った。日本でも丸の内に支店ができているという有名なお店だ。フワフワで塩気の効いたオムレツは、その昔、命からがら島に辿り着いた修道士たちに栄養をつけてもらうために考案されたという。ネットで検索すると、その味には賛否両論のようだった。名物に美味いものなし?
 
出てきたオムレツはフワフワで、疲れ切った私の身体に染み渡る美味しさだった。塩味の強さもちょうど良い。まさに修行僧のように、極限まで自分を追い詰めた私には、この上もない美味しさに感じられたのだった。
 
こうして、初めてのモンサンミッシェルの旅は、苦行とそのオムレツの味と共に、私にとって忘れられない巡礼の旅となったのだった。
 
 
 
 
***

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2020-06-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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