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メディアグランプリ

心友 逆夢に導かれた26年間。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:飯島幸恵(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「なんで輪の中に入らへんの?」
 
大阪のデザイン専門学校に入学して10日ほど経ったある朝のこと。
教室に向かうためにエレベーターに偶然乗り合わせた同じクラスのリエコに突然話しかけられた。
リエコは年が2つ上で、入学当初から数人の友人に囲まれていて、いつも笑いの中心にいた人気者だった。
地方から出てきた私は、関西言葉にも独特なノリにまだついていけず、いつも遠くから少しのうらやましさと寂しさで見ていた。が、まだ始まったばかりの新しい生活に慣れることに必死だったため輪に入っていこうなんて心の余裕はなかった。
 
突然に話しかけられたことで、リエコは私のことを気にかけてくれているんだと思ったらとても嬉しかった。
気さくで優しくて大胆で面白い人。
出会って何十年もたった今でも同じ印象だ。
 
エレベーターの中で話したことは今でも鮮明に覚えている。
「Tさん(リエコ)とはこの先すごく仲良くなると思っているから、急いで友達にならなくてもいいと思っているんだよね」
 
リエコは「えっ、そうなん?」と不思議そうな顔をしていた。
 
実はこの会話の数日前に夢を見た。
私とリエコが大喧嘩をしている夢だった。恐ろしいほど壮絶な言い合い。暴言の数々。今までこんな喧嘩は誰ともしたことがなかったので、これはきっと現実ではとても仲良くなれるのではないかと確信した。根拠も何もなくただそう思った。
 
それから友達として仲良くなるのには時間はかからなかった。
都会育ちで人気者と田舎育ちの人見知り。お互いギャップがありすぎて共通点など見つからない二人。
リエコのアパートに泊まりで遊びに行ったときお互いの話しで盛り上がり、朝まで話し込んだ。そんな日が幾度となくあった。
夏休みは私の実家へ遊びに来てくれたし、私は彼女を両親に紹介できたことが何よりも嬉しかった。
大阪に出てきたのはきっとリエコに出逢うためだったのかも、と思えた。
 
刺激的だった2年間の専門学校生活を終え、私は親の言いつけどおり実家へ帰り就職した。
 
社会人になっても、友情は途絶えず年に1〜2回は会っていたが、リエコは当時付き合っていた彼と結婚し子供が生まれ、私も仕事が忙しくなって会うことが2年に1度になり、3年に1度になった。その間には阪神淡路大震災も起こって、一年後に見舞いに行ったときにはリエコが住む街の風景は跡形もなく変わっていた。
それから暫くは会うことはできなかったが、リエコは画家になり、自分のアトリエで生徒に絵の指導をしていた。
 
たまにメールを送るのは夢を見たときだけ。
 
「生きてるか?」
「生きてるよ」
 
いつもこんな短いやり取り。
元気だよ、とは返ってこない。なぜなら、夢を見るときは決まって体の調子が悪いときだからだ。リエコは持病を持っていたので時々入院していた。
しんどいときに無意識に私に助けを求めるサインを送ってきたのだろうか。
面と向かって弱音を吐けない強がりの性格だったから、心のどこかで助けを求めていたのかもしれない。
 
何年か後に私も結婚して娘が生まれ、娘を連れて何度か会いに行った。
娘が4年生のときに会いに行ったときには、持病が随分進行していて、さらに胃がんを患って胃を半分摘出していた。薬の副作用で体中が痛み、立つことさえ辛い中でも美大を受験する生徒の指導にあたっていた。
胃が小さくなった分1日に何度も食事を摂らなければならない状態だったが、2年もすれば普通の胃の大きさに回復するということだったので、私はひとつ提案をした。
 
2年経ったら久保田利伸のコンサートに一緒に行こう、と。
学生時代には大阪城ホールに3日間連続で行くなど、二人とも大ファンだった。
それまでに元気になって! と願いを込めて再会を約束した。
 
2年後、約束通りリエコは元気になっていた。前に会ったときよりは幾分かマシになっていたと言ったほうが良かったかもしれないけれど、それでもコンサートを十分に楽しんで観る余裕があった。楽しそうにしている横顔を眺めながらまたこんな日が来るなんてとシミジミ嬉しかった。
リエコはとても喜んでくれて、何度も何度も「ありがとう!」と言ってくれた。
私の方こそ一緒に行けてものすごく嬉しいよ! 人生最高の思い出だよ。
このことは一生忘れない。本当にありがとう。
いつか年をとって時間ができたら旅行にでも行きたいな、と心のなかで願った。
 
またそれから2年間は会うことはなかったが、5月の半ば過ぎの水曜日の朝方に夢を見た。
 
二人で久しぶりにどこかへ旅行に出掛けていた。楽しく観光をしている途中にリエコが具合を悪くしてしまい、動けなくなった。そこへ偶然お医者様が通りかかり、私がこの方の病気を直しますから、安心してください。と言って、数日後に手術をして無事病気が完治したのだ。
あんなに辛かった病気から開放されたリエコは快気祝いの宴を開き、沢山の人たちにお祝いをされて、クライマックスの私のスピーチの番になったときにぱっと目が覚めた。
 
翌日にメールを打った。こんな夢を見たよ、元気にしてる? って。
返事は返ってこなかった。
 
4日後の日曜、リエコの携帯から電話がかかってきた。
良かった〜! とホッとした。もしもし、リエコ?
 
しかし、電話の向こうの声の主は娘さんだった……。
 
リエコは神様の元に旅立ってしまった。
 
本当はお正月の年賀状の字を見たときにわかっていたんだ。もう長くないだろうって。
 
出会ってから26年。もうちょっと長く付き合っていたかったな。
遠く離れていてもいつも心の片隅にいつもいてくれて大切だと思える人に出会えたことは私にとって一生の宝物だ。
リエコのことを思うと今でも涙があふれる。
彼女に合わなければいまの私は存在しない。私の中にずっとリエコは生きている。
来世にまた会おうぜ! 約束だ。
あ、いやその前に私がそっちに行くまで生まれ変わらんで待っとってくれ〜!
 
 
 
 
***
 
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2020-06-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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