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夫のお尻がプリンになった


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記事:市原冴也香(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
夫のお尻は時々プリンになる。
 
さながらプッチンプリンがお皿の上で揺らされてプルンプルンと踊るように、夫のお尻もプルンプルンと右に左に踊ることがあるのだ。
 
プッチンプリンがお皿の上で踊っている様を見ると大抵の人が笑顔になるだろう。私も夫のプリンを見ると笑顔になるのだ。
 
私たち夫婦は今から2年前に入籍をした。出会って30日でプロポーズをされた、いわゆる電撃婚というやつだ。
 
今でも大変優しい夫だが、出会った頃からとにかく優しかった。
 
私たちの出会いはお見合いだった。出会った直後に1時間近く途方にくれたのである。何故ならお茶をしたくても空いているお店が見つからず、丸の内を散々歩き回っていたからだ。
 
お見合い初日で女性を1時間も歩かせるなんて言語道断だという方もいらっしゃるだろう。私も他の男性だったならそう思っていたかもしれない。しかし夫から溢れ出る純朴な人柄に対してそんなケチをつけようなんて気は1ミリも起きなかった。
 
ようやく有楽町で1軒入れる店を見つけ、疲れながらも、お互いを知る時間となったのである。
 
ところで、私はフリーランスで仕事をしている。その為、今までお見合いした7人の男性のほとんどは
 
「凄いですね、個人で仕事されるなんて僕にはとてもとても……」
 
と引いていた。
 
フリーランスだと言ったぐらいで引くような男性は私からお断りだと思いつつ、内心では30代も後半になって安定しない収入の身分で結婚ができるのか不安でいっぱいだった。しかし、やりたいことをやる充実した生活は捨てたくない。
 
そしてお見合い8人目で出会ったのが夫だった。
 
「お店ようやく見つかってよかったですね」
 
お互い笑顔で会話をし、仕事の話になった時に私は自分の仕事の話を切り出した。何を生業としているか、どんな思いでやっているか、お客様の変化が嬉しいことなどどんどん湧いて出てきた。
 
そう、湧いてくるほど、話したくなったのだ。
 
目の前でのちに夫となる初対面の男性が大変興味深そうに聞いてくれた。笑顔で質問してくれて、思い切り褒めてくれて、凄いと言ってくれる。心底嬉しかった。
 
ゆっくり飲んでいたコーヒーは、やがてカップの真っ白い底が見えた。このまま帰るか、もう少し話すか聞いてみたら
 
「まだ話しましょう」
 
夫は即答した。私も同じ気持ちだった。
 
お互い嗜んでいるとわかったハイボールが飲めるお店を探すことになり、すぐ近くのコリドー街にある焼きとり屋に入った。そこでハイボールを飲みながら
 
「私はこの人と結婚するかもしれない」
 
と、未来を見たような、確信のような思いがむくむくと湧きあがってきた。
 
そして確信が現実となり、その出会った日から30日後にプロポーズをされ、半年後にめでたく入籍をしたのだった。
 
夫とは順調に進んだが、婚活そのものに関しては決して順調ではなかった。女友達には何年も
 
「あーあ、私も結婚したい!」
 
と、言いながら、心のどこかでは結婚に対して後ろ向きだったのである。
 
それを自覚したのは夫と出会うわずか3ヶ月前のことだった。私の恩師が結婚相談所を立ち上げるというのだ。
 
「はい! はい! 入会します!」
 
勢いよく手を挙げた。しかし恩師が行なった結婚したい男女向け勉強会で「結婚は地獄」と思っていた自分を知ったのだ。
 
「結婚に対してのイメージを挙げてみて」
 
恩師が言ったので、配られた白紙の用紙につらつらとイメージを書いて行った。これを読んでいるあなたも、もしよかったらやってみてもらいたい。
 
「結婚は地獄」
「結婚は牢獄」
「結婚したら終わり」
「結婚したら自由がなくなる」
「結婚は怖い」
「結婚したら喧嘩ばっかり」
「結婚しても離婚しそう」
 
私の頭からは結婚に対してのネガティブなイメージがとめどなく出てきた。
 
良いイメージなんてひとつも出てこない! 私、結婚なんてしたいって思ってない! だって結婚したら地獄だと思ってるもん!!!
 
正直愕然としながら、恩師から発せられる救いの言葉を待った。
 
すると恩師から問いを投げられた。
 
「結婚に対して思い描いているイメージがありますよね? それって何から影響されていますか?」
 
と。
 
ぐるぐると思い巡らしてみると、両親が喧嘩をしているシーンを思い出した。
 
私の両親は今でも離婚はしていないが、私が幼い頃は喧嘩が絶えなかった。小学生の頃は夜中に母に叩き起こされてリビングに呼ばれ
 
「お母さんとお父さんは離婚します!」
 
という宣言を聞いた。しかも度々あったので、最初こそは「離婚なんて嫌だあ」と泣いていたが、回数を重ねると「はいはい。離婚したら? もう眠いんですけど」と本気にしなくなった。
 
だが、その時の記憶が染み付いて「結婚は地獄」となっていたのだと、勉強会の日にようやく気がつくことができた。そして「結婚は地獄」は単なるイメージであり、私は私の人生を歩んでいるのだと腹落ちした3ヶ月後に夫に出会ったのだった。
 
夫のお尻がプリンになる時。それはキッチンで洗い物をしてくれている時である。仕事で疲れていても、私がのんびりしているときは何も言わずにキッチンに立ち、洗い物をしてくれる。
 
フライパンをゴシゴシとしている時に体が揺れて、お尻がプリンのように右に左にプルンプルンと揺れるのである。私はそれを見ると大変幸せを感じ、プッチンプリンがお皿の上で揺れているのを見る時のような笑顔になる。
 
夫のお尻がプリンのとき私は何をしているかって? それは、隣でお皿を拭きながら、時に夫と背中合わせならぬお尻合わせをしてプリンを味わっているのだ。つまり「お幸せ(お尻合わせ)」をしているのである。
 
それが、私たち夫婦の愛の証なのだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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