メディアグランプリ

盲目なレモンともの見えぬワタシ


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記事:イトウユリ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「目が見えていないようです」
そう言われたワタシたち夫婦は一言も発することができなかった。
 
ある日、先住ネコのみぃちゃんに仲間を迎え入れたいと思い、インターネットの里親募集を見て、かわいらしいトラ猫に一目惚れをした。会いに行くとそのコネコはよく遊ぶ、とても可愛いコだった。
保護主さんがいうには、そのネコは足がたくましいので、きっと大きくなるとのことだった。
無事にお見合いが済み、ワタシ達はその可愛いコネコを連れて帰ることができた。
 
コネコの目の色は美しく、蜂蜜の様な色をしていた。それで私は、ポルトガル語で「蜂蜜」という意味の「メル」と名付けた。
すぐに気づいたのだが、「メル」って呼びにくい。「ハチミツ」という名前もなんかおかしい。ハチミツ、ハチミツ…… そうだ!レモンにしよう!
ワタシは昔、「はちみつレモン」って飲み物にハマったことを思い出した。もうこの時にはレモンにメロメロになっていたんだろう。
数日で二回も命名されるネコも珍しいのかもしれない。
 
元気よくお騒がせなレモンは、ワタシ達にとって、まるで光り輝く太陽のような存在だった。
飼い始めた頃は餌が合わずよくお腹を下していたが、餌を変えたら解決した。よく食べ、よく動き、元気よく順調に大きくなっていた。先住猫のみぃちゃんとも仲良く、二匹はまるで恋人の様だった。
 
レモン=元気であり、元気=レモンと言っても過言ではない。
例えば、激しく走り回ったり、大きな絨毯を畳んだりして、毎日、天真爛漫に遊んでいた。
そして、うつ伏せで眠る夫のお尻の上で疲れ切ってぐっすり眠る事もあった。
(臭くて気を失っていた気がしないでもないが)
 
ところが、飼い始めて2年も経たない頃、レモンは体調を崩した。数日間入院して退院したその日の真夜中に癲癇の発作が原因で、断末魔の様な叫び声を上げながら泡を吹いて倒れてしまい、再び入院することになってしまった。
仕事の後は必ずお見舞いに行ったが、一向によくなる感じはなかった。それどころか、突然冒頭の言葉を言われた。
 
「目が見えていないようです」
 
癲癇の発作が原因で脳にできものができ、視覚を失ってしまったが、辛うじて光はわかると言われた。愛猫はいきなり、盲目で癲癇持ちのネコになってしまったのだ。おまけに体は動かせず、餌も水も自分で採れない、いわば寝たきりのネコになってしまった。
 
あんなに元気だったレモンがこんなことになるとは誰が想像できただろうか。レモンの表情は暗く、ワタシ達も同様に暗かったと思う。ドヨーンと曇った、灰色の空の様なワタシ達。こういう時、ネコは安楽死になるのだろうか。そんな事を想像しながら、覚悟を決めて獣医さんに尋ねたが、意外な言葉が戻ってきた。
「いいえ。ただ、病院ではもう何もできないので、家に連れて帰った方がいいです」
 
頭が真っ白になった。仕事があって、付きっきりにはなれない。介護?ネコの介護って?しかも、この状態のネコって短命だろうか?
「普通に16歳ぐらいまで生きると思います」と、獣医さんに言われた。
 
レモンは2歳だから、14年間ネコの介護をするのか……
 
……
……
 
ワタシは平静を装いながらも戸惑っていた。
 
今になってわかることだが、
あの時、ワタシは自分のことしか考えておらず、
目の前で頑張っているレモンを見ようとせず、まだ見ぬ未来を嘆いていた。
ワタシは何も見えていなかった。
 
それからレモンを連れて帰って、介護を始めた。先輩ネコのみぃちゃんもレモンを見守ったり、時々舐めてあげたり、まるでエールを送っているようだった。
ワタシ達人間は流動食・水・薬を与え、排泄を片付けたり、体を拭いたりした。
やれることは全てやり、お菓子好きなワタシは験担ぎにお菓子を断つことにした。
「レモンが立つまでお菓子を口にしない!」
狂気である。下手したら一生甘い物とおさらばだ……。
 
1ヶ月後、アルプスの少女ハイジに出てくる様なセリフを言ってしまった。
レモンが立った!
(ワタシの減量計画は幸か不幸か、ここで終了した)
それからは少しずつ歩き、自分で餌や水を採り、トイレにも行ける様になり、ゆっくりながらも確実に回復していった。目が見えなくても、野生の勘を総動員して、匂いや感覚で自由に動ける様になった。
 
動けるようになったものの、一時的に性格が変わってしまいキレやすくなってしまったレモンは、暴風雨の様に暴れまくり、ワタシ達ニンゲンは悩み、眠れない事も多く、疲労困憊だった時もあった。先輩ネコのみぃちゃんも危うく噛まれそうになったが、いつの間にかレモンは落ち着きを取り戻し、今では悟りを開いたネコの様である。
 
レモンが倒れてから7年経つ。相変わらず盲目のままだが、自由に歩き回り、好きな時に餌と水を摂取して、トイレにも自分でいく様になった。時々壁にぶつかる事もあるが、怪我をしたことはない。ネコ特有の高いところに飛び乗ることはできないが、甘い声で鳴いてワタシ達ニンゲンにお願いをし、ベッドに上げてもらうことができる。布団の中に入れてあげるとのどをゴロゴロ鳴らし、癒してくれる。
 
レモンはワタシに大事なことを教えてくれた。
それは、できないことではなく、できることに注目すること。
そして、それに感謝をすること。
 
ワタシ達夫婦は今日もレモンと共に大切なことを学びながら前進していくのである。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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