Amazonの☆一つは高評価のあかし
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:吉岡さあや(ライティング・ゼミ通信限定コース)
人からの批判がこわい。
今にはじまったことではない。
小さい時、親や先生から叱られるのはもちろん嫌い。人が怒られているのを見るのもいやで、小学校の担任が親との面談で「自分が怒られていないのに、怒られた子よりもしょげている」と言ったこともあった。
批判されてよかった。そう思う日が来るなんて、あの時は思ってもいなかった。
「電子書籍を出してみない?」
親しい知人にそう言われた。
私は大学院生で、論文の執筆に取り組んでいた。その時書き上げた論文は、あまりマニアックでなく、専門分野が違う人にも楽しんでもらえそうな気がした。
どんな反応があるのかを知りたかったし、何より自分が考えて発見して論文にまとめた成果を読んでほしかった。そんな思いで、論文は100部製本して、いろんな人に配っていたのだ。
電子書籍を出さないかと言われたのは、ちょうど半分を配り終えたころだった。
「すごいから、いろんな人に読んでほしい。応援する」
そう言った実業家の彼女は電子書籍を執筆中。近々Amazonから出すとのことで、コーディネーターを紹介すると言われた。
それから出すと決めるまでには、何度も迷った。
コーディネーターには学生の私が簡単に払えないような額を出さないといけないし、出版社を通さずに本を出すことに意味があるのだろうかと疑問もあった。周りには、止めてくる大人もいれば、背中を押してくれる人もいた。
出してどうなるかはわからない。それなら、やらないで後悔するよりは、どんな結果になろうとやってみるほうががいい。それが私の本心だと素直に認めて、出すことにした。
たまたま、高時給の短期バイトをしていたので、払うお金もあったのだ。
でも、いざ決めても、やはり人にどう思われるかを気にするのが私の性分だ。
「こんな書き方できちんと伝わるだろうか」
論文は面白がってくれた人もたくさんいたけど、反対にまったくわからないと戸惑わせてしまった人もいる。だから電子書籍では、とにかくわかりやすく書くことをこころがけつつ、ドキドキ、びくびく書き進めていった。
電子書籍の出版は、まず論文に好意的な反応をくれた人たちにお知らせした。LINEグループに投稿して、大学一年生の時のクラスメイトたちにも宣伝した。
嬉しいことに、長らく会っていなかった彼らは本がAmazonのサイトに出たらすぐに、「ポチっ」て読み、「おもしろい」と感想をよせてくれた。
レビューでも彼らはいい評価をしてくれた。☆5つのコメントがいくつかあって、なんだかこそばゆかった。もっとも、「あのレビューは僕が書いたよ」、なんて直接聞いたわけではないので、あの子が書いてくれたのかな、と思いをはせるだけだったけど。
驚いたのは、あれだけ気にしていた批判がなかったことだ。直接いやなことを言ってくる知人なんてもちろんいなかったし、レビューだっていいことばかり書いてある。
私にとって、それはとても心地いいものだった。それなのに、そのはずなのに、私はだんだんそれが不自然に思えてきた。
いろんな意見を持つ人がいて当たり前。それなのに、いい評価ばっかりってどういうことなのだろう。本音を隠しているのかな。私の心はおかしなことに批判らしきものを求めるようになっていたのだ。
そして、ある時、ついに☆一つのレビューが出ているのに気が付いた。レビューの内容は的外れ。最後まで読んでいないのか、私の本の中身をまったくわかっていなのは明らかで見当違いな批判をしている。
ふつうなら、怒り狂うかもしれないし、これまでの私だったら大きなショックを受けただろう。
でも、それを見てなんだかほっとした。むしろ嬉しくもあった。
ああ、やっと、ほめてくれる優しい知人だけでなく、見ず知らずの他人が私の本をAmazonのサイトで見つけて買ってくれたのだ。それが正直な感想だった。買った上に、とんちんかんであれ、感想を残してくれた。そう思うと、画面の向こうに広がる見えない読者たちへの感謝が湧いてきた。
どんなふうに読んだのかは気にならない。レビューの中身が批判であっても、とんちんかんであっても痛くもかゆくもない。
それは、私の感覚が、麻痺したからではない。幅広い層の人が読んでくれたことへの喜びが批判への嫌悪をかき消したからでもない。そうではなく、批判なんて私自身にとっても、本にとっても意味のないことだと、もうわかったからだ。長い月日を経て、そう思えるようになったのだ。☆が一つであっても、自分が自分を正当に評価しているのなら、そんなものはなんでもないのだ。
批判ってそんなに恐れるもの? これまでの自分に聞いてみたい。
自分に自信があれば、信頼や確信があれば、他者になんと言われても怖くはないだろう。怖いとしても、それをずっと引きずることはない。
そんなことに、私は今まで気づかずにきたのだ。電子書籍を出すことは、それを知るためのきっかけだった。
「論文をたくさん配って、他の人の反応が知りたい」
そんな思いからはじまった、電子書籍の出版は、他の人の反応よりも大事なことがあることを私に教えてくれた。
それは、自分は自分であって、他者によってゆらぐものではないということ。自分への信頼を絶やすことがないのなら。
***
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