メディアグランプリ

雨の日のおばあちゃんからのメッセージ


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記事:武田恵以子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「夢にえいちゃんが出てきたの。白いミニのノースリーブワンピースを着て、裸足で大きな木の下で足元を見てるの」「キーワードは子供の心かな」友人から突然そんなメールが来た。
2週間前のことだ。なんのこっちゃわからないけれど、この友人の言うことだからとなんとなく手帳にメモをしておいた。「子供の心」
 
ここ数日、仕事で数字に追われていた。予算の合わない見積書と刻々と迫る締め切り。いつものことだけど。考えすぎで脳が疲れてるなと思った時に、ふと手帳の文字を見た。「子供の心」その文字を見てなぜか、10年前に行ったバリのウブドを思い出した。当時、意を決してお堅い仕事を辞め、その直後に行った旅行だった。その場所でわたしは数ヶ月前に他界した祖母に会うという不思議な体験をする。
 
バリは神様に近い場所、そう聞いていたがわたしにはスピリチュアルな才能はない。興味もなかった。しかし、初めて訪れた場所は、湿度が高く、朝露が光る緑がとても神々しかったのを覚えている。神様が近い。言われてみればそんな気もする。ツアーの一行と離れて、ひとりでカフェに入ったときのことだ。雨上がりの屋外のテラス席だった。わたしはノースリーブのワンピースにビーサン姿で、湿った木製のベンチに座って、1冊の本を読んでいた。目の前には森が青々と向こうの方まで茂っていて、上の葉っぱから先ほどの雨がポツッと時折こぼれてくる。
 
「さがしもの」 という角田光代さんの短編小説だった。そこには主人公のわたしとそのおばあちゃんの話が描かれていた。あふれんばかりの緑からこぼれる光と、南国の熱気と、雨上がりの湿気を感じながら、わたしは涙があふれてとまらなかった。この本に描かれてるおばあちゃんの言葉はまさに数ヶ月前に別れた祖母からのメッセージなのだと。それは確信だった。おばあちゃんが会いに来てくれた。忙しい日常から離れて、自然のエネルギーを感じ、純粋無垢にその時間を心から味わっていたその時に。まるで子供の頃のように。
 
10年たってそんなエピソードはすっかり忘れていたけれど、今日その時の光景をぼんやりと思い出したのだ。そして思わず本棚の中を探した。「さがしもの」はあった。その時のメッセージがなんだったのかもはや覚えてなくて、もう一度読んでみることにした。子供が寝静まったリビングのソファに三角座りで。
 
小説の中のある一文を見つけた時、これだ! と思った。「できごとより考えのほうがこわい」これだ。10年前もこの言葉がズシンとわたしの心に響いたのだ。間違いない。物語の中で、死んだおばあちゃんが孫に会いにくる。そして孫はおばあちゃんに聞く。「おばあちゃん、死ぬのこわかった?」と。するとおばあちゃんがこう答えるのだ。「死ぬのなんかこわくない。死ぬことを想像するのがこわいんだ。いつだってそうさ、できごとより、考えのほうが何倍もこわいんだ」と。
 
毎日いろいろある。うれしいことも悲しいことも楽しいことも苦しいことも。わたしは頭の中がいつも忙しい。ああでもない、こうでもない。これをやって、次にこうやって。うまくいくかな、やっぱりやめておこうかな。
 
わたしには6歳と2歳の子供がいる。無邪気な2歳の息子を見ていると思う。彼には昨日も明日もない。今アイスが食べたい。今ブーブーで遊ぶのが楽しい。今はママといたい。今しかないのだ。それが6歳の娘ぐらいになると、ちょっと先を考えるということをするようになる。明日は小学校でお友達ができるかな。初めてでこわいな。行きたくないかも。
大人になってしまったわたしに関しては、ずっと何かを考えている。そうこわいのだ。
見えない未来を考えることが。
 
「えいこ、できごとより考えのほうが何倍もこわいんだよ」10年たってまた当時と同じことを祖母が言いにきた気がした。おばあちゃん。おっとりとやさしい笑顔でいつも学校の帰りを待っていてくれた。毎日一緒にお風呂に入った。兄弟喧嘩をしても母に叱られてもいつも味方でいてくれた。おばあちゃん、また会いに来てくれたのね。偶然にも梅雨入りしたばかりのまた湿気がたっぷりのこの季節に。そうだ、来週は祖母の命日だ。祖母が亡くなった日もまた大雨の日だった。
 
そして、それを伝えてくれたのがわたしの大切な友人。彼女にお願いして、わたしの手帳にちゃんと筆文字で描いてもらった。「子供の心」不思議だけどすべてが繋がっている気がして、なんだか嬉しくて。このジトジトする季節すらも愛おしくなるくらい。ありがとう。また書きながら涙がじんわりにじんでいる。
 
 
 
 
***

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2020-06-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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