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メディアグランプリ

夫婦再構築


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:音羽 ひろ(ライティング・ゼミ 通信コース)
 
 
ここ数日夫がビデオカメラのケーブルを探している。これは、数年おきに突如始まる一連の行動で、結局は見つからない。見つからないと何が困るのかというと、内蔵している2人の子どもの映像が見られないのだ。生まれた時の記念すべき映像から、誕生日パーティ、毎年の運動会とお遊戯会、全部見られない。
何かにコピーして残しているだろう、と思うだろうが、残したコピーが古っるいPCの中にあり、そもそもその古っるいPCはもう立ち上がらないとか、コピーしたCDはとっくに不明とか。我が家のずさんな管理がこの惨状を生んでいる。
で、ケーブルがない。ないなら買えばいいじゃん、そのとおりである。毎回そのままの言葉を夫にぶつけるが、貧乏性の彼は探せばあるかも、と毎回押し入れやら、クローゼットの裏を探索し始める。で、ない。一切発展しないあほ丸出しの夫婦だ。
ただし、人は進化する。夫はようやくあきらめてケーブルを購入した。新品のケーブルをビデオカメラとTVにつないだら、約20年前の長女のうぶ声から始まる映像が流れてきた。
子どもがビデオに素直に収まってくれていた10歳くらいまでのその映像はそのまま育児バトルの記録である。このふにゃふにゃの赤ちゃんは今の娘たちと同じ人間のはずだが、まるでフォルムが違う。こんな柔らかくて、ちょこまか動く代物の命を守るって大変なことだったんだと気づく。子育ては、むき出しで、やることなすこと不完全でいびつだ。でも必死だった。
成長する二人の子どもを見続けているうち、ちょいちょい出てくる私たちの姿に別の感慨が浮かんできた。
「時々出てくるこのオトコは悪くない、てか好みなんじゃね?」
夫である。銀行や郵便局の窓口にいそうな眼鏡かけている草食っぽい顔がドストライクなのだが、出会った頃はまさにその容姿にときめいていたことを唐突に思い出した。
今の今まで忘れていた、ともいう。
画面の中の夫は今と比べて肌に張りがあり、髪の毛も1.5倍くらい量を誇っている。しかし、当時の私は今と真逆の思いを彼に感じていた。
長女が生まれたときは3か月で仕事に復帰し、二女のときは臨月になるまで働き続けた。出産してから数年の記憶はほぼない。朝起きると「レディーゴー!」と心の中で掛け声をかける。朝食を準備し子どもたちに食べさせ、保育園に送り届ける。その足で電車に乗り1時間かけて仕事先に向かう。終業後は朝の逆再生で寝かしつければいつも午前様だ。自分のキャパシティを超えた生活に疲弊が募っていた。そして、その疲れをもっとも身近な人間である夫に対してぶつけることで留飲を下げていた。
決して非協力的ではない夫だったのが、彼のせいでこんな目にあっている、としか考えられなかった。育児・家事一つとっても気が利かない、その分稼いでくるかと思えばそうでもない。マジ使えねえ。カニが泡を吹くように、ぶくぶく心の中で独り言ちながら、夜中に米を研いだ。
不機嫌だった当時の自分をぼんやり思い浮かべていると、目の前の画面には、家族でいった九州旅行のホテルの一室が映し出されていた。そこは子どもたちが好きなサンリオキャラクターで埋め尽くされた特別な部屋だった。その日は遊園地で遊んだ帰りで、子どもは疲れのせいで機嫌が悪かった。せっかく奮発してとったキティちゃんだらけの部屋にも大して関心を示さず、二女に至っては、私の足元にひっくり返りぐずぐずと泣きはじめた。ビデオの中の私はその二女を無表情で眺めながら手を差し伸べようともしない。こっちだってくたくただよ、夜中の米とぎの時もきっと同じ表情をしていたのだろう。
その時声が聞こえた「こっちへおいで」包み込むような声の主は夫だった。
思い出した。あの時、ぐずった二女を夫が抱きかかえ、あやしてくれたんだ。
自分が精いっぱいで、自分ばっかりがんばっていると錯覚していた。ビデオの中にはほとんど登場しない夫は、いつも一生懸命子どもや私の姿を見守ってくれていた。
支えていたつもりが、支えられていたのだ。
親になることと、親でいることで精いっぱいの時間を過ごしてきた。夫は子育ての協力者であり、子どもの父親。それだけで家族を運営してきた期間はもうそろそろ終わりを迎えている。長女は大学で一人暮らし、いつもビービー泣いていた二女も高校生だ。
これから私たち夫婦も新しい関係を築くことができるだろうか。出会った当初の気分で、深いいたわりを持ったままで。
映像の中の私も張りのある腰とくびれが健在で、この若いときに男女としても仲良くしとけばよかったなと悔やまれる。ちらと横を見ると夫と目が合う。
まじまじと私の昔は確かにあったはずのウエスト部分を眺める夫は、多分私とおんなじことを考えている。
 
 
***
 
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2020-06-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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