メディアグランプリ

感情というラジオ


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記事:ちゃちゃき(ライティング・ゼミ平日コース)
 
感情はラジオのようだ。
ラジオを電波の入りやすい窓際にそっと置いて、慎重に周波数を合わせ、流れている音楽や声を探し当てながら、ボリュームを調整して、心地よい大きさの音にする。
寂しさ・悲しさというネガティブな感情にも、喜びや嬉しさといったポジティブな感情にも、その相手の周波数に、注意深くこちらの周波数を合わせる。探し当てられたと思ったら、耳に届く音の大きさを、ツマミで調整して心で受け止める。発する側は言葉を選び、受ける側は心を傾ける。
 
今日はどんな番組をやっているのだろう。お気に入りの番組やっているだろうか。好きなアーティストの曲は流れるだろうか。今の自分の感情に合うラジオを見つけると、心地よい。そういったポジティブな感情に目を向けることが多い。
 
ポジティブな感情は、その場にいる人間にまっすぐに受け入れられやすい。だから広まっていく力がある。一方で、ネガティブな感情はスッと回り込んでくる。だからと言って、相手に受け入れられるだろうかなどと躊躇していると、場は流れてしまい、自分の心に押し留めてしまうのではないだろうか。そうやって押し留めた悲しみは、どこにいくのだろう。消えてしまうのだろうか。
 
音は、たいがい近くの人にしか伝えられない。340メートル毎秒の速さしか無いし、1つの音を一定数の人に伝えるのが精一杯で、多くの音を同時に流すと混じって聞き取りにくくなってしまう。その中で、ラジオはちょっと特殊だ。電波を使うことで、遠く離れた人に届けられる。
 
感情も、ラジオと似て、技術を使えば遠くに届けることができる。例えば、インターネットに言葉を乗せて、あるいは、動画に乗せて、自分の感情を遠くにいる相手に届ける。そこには、ポジティブな感情も、ネガティブな感情もある。それが伝わるかどうかは、遠くの相手が周波数を合わせてくれるかどうかだ。
 
私は、仕事で想定顧客にいわゆるユーザーインタビューをよく実施している。60分から90分ほどの時間で、いくつかの質問をし、回答やしぐさなどから、作ろうとしているサービスやプロダクトをよりよくするためのフィードバックを得る。
回数にして100回以上のインタビューを実施している中で、いつも心をよぎる疑念がある。私は、この人に周波数を合わせられたのだろうか。あるいは、周波数を合わせてもらったのだろうか。
 
このインタビューという仕事は、とても面白いが、一方で恐ろしい側面を持つ。こちらの問いかけの言葉一つで、相手をこちらの思惑に引きずり込めてしまう。
インタビューでは相手の心のうちを知りたいのに、いつの間にか、こちらの思惑に引きずり込み、あるいは汲み取ってもらい、回答されてしまっていないか。インタビューを受ける側の感情は揺れ動き、いつのまにか周波数が変わっていたりしないか。
 
例えば、自動販売機に関するインタビューをする場合、「自動販売機でよく買うお茶は何ですか」と質問するのでは、自動販売機以外で買う可能性を排除してしまっている。インタビューする相手は、主にコンビニでお茶を買い、たまにしか自動販売機で買わない場合でも、自動販売機で買った場合の回答を無意識にしてしまう。
そのような時は、多少回りくどくても、周辺からインタビューを進める。「お茶をよく買うのはどこですか」や、「夏にどんなものを飲みますか」などの質問をすることで、どんな時に自動販売機のことを考えるかを探り当てていく。まるで、ラジオの周波数をチューニングして合わせていくように、じっくりと慎重に。
 
これまでは、あまりネガティブな感情に目を留め、耳を澄ますことはなかった。けれども、インタビューを仕事にしたことで、色んな他人の言葉や感情を受け止めた結果、単なるポジティブな感情ではない感情に接することが増えた。その結果、ネガティブな感情にも配慮することが多くなった。
 
周波数の高い低いに優劣はない。ラジオ局がどれでも優劣はない。ただ、そこに自分の赴くままに、周波数を合わせて、感情を重ねるだけだ。大手のラジオ局にも、地方のローカル局にも、それぞれの魅力がある。だから、どんな人の、どんな周波数を持つ感情にも魅力がある。
 
私はこれからも、色々な周波数に合わせてみる。他の人の感情を受け止めることで、様々なパターンの感情が、グラデーションで広がっていることに気付ける。気付いたことで、更に掘り下げて感情を理解しようとすることができる。
 
私の好きな短編集に『さみしさの周波数』というものがある。今日は、さみしさにチャンネルを
合わせてみよう。
 
 
 
 
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2020-06-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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