メディアグランプリ

R.I.P. としまえん


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記事:Yuko Tsubai(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
6月12日、練馬区唯一の遊園地、「としまえん」がこの夏の終わりに閉園となることが発表された。
生まれも育ちも練馬であるわたしにとって、何とも言えない切なさを覚えるニュースだった。
 
としまえんははっきり言って、かなり地味な遊園地だ。
首都圏に住む人が行く遊園地と言えば、ディズニーランドや東京ドームシティ、ちょっと足を延ばしてよみうりランドやピューロランド、もしくは下町気分で花やしきに、といったところだろうか。
対してとしまえんは、夏のプールや花火大会、ビアガーデンが比較的盛り上がるくらいで、遊園地としての魅力度は……、そんなに高くないかもしれない。(なんちゃら遺産に登録されたメリーゴーランドは確かあった。)
むしろ隣接する温浴施設「庭の湯」の方が近年の銭湯・サウナブームで話題になることが多かったかもしれない。
 
そんな東京23区にありながらにして、さも『田舎の遊園地』という風情がある「としまえん」だが、練馬区で成人した私にとっては、幼いころからの思い出が詰まった場所だった。
 
小学校の遠足は、としまえんだった。
友達とグループになって、入園のエントランスを歩いた思い出がある。
それからもう少し大きくなって、友達だけではじめて行くのを許されたのも、としまえんだった。ミラーハウスやミステリーツアーといった人気アトラクションには必ず乗って、皆で喜々としながらディッピンドッツのつぶつぶアイスを食べた。
夏にはスクール水着とは違う、背伸びした水着を着て、波のプールで遊んだ。ウォータースライダーが楽しすぎて何回も発射口の階段を上った。遊園地内にもゲームセンターがあったので、プリクラも当然撮った。プリクラ機器が進化を遂げ始める黎明期で、「美白」モードが搭載された人気機種に並んでいたと思う。
 
そのとき「としまえん」に行くことは、ワクワクを覚える一大行事だった。
 
中学校に上がると、一気にとしまえんにいくことがなくなった。行動範囲が広くなり、よりワクワクするところに行けるようになった。まさにディズニーランドや、東京ドームシティがそれだった。
としまえんより洗練されたアトラクションやパレードが充実しているし、としまえんで食べるつぶつぶアイスより、ディズニーランドのチュロスの方が、おしゃれに見えた。
としまえんに行くのはなんだかちょっとコドモだったのだ。
 
そうして「としまえん」に行くことは、ちょっと冴えない行事になった。それはそこからしばらくの間続いた。
 
久しぶりに「としまえん」の名前を聞いたのは、成人式の会場がとしまえんだという話を聞いた時だった。
毎年、練馬区の成人式はとしまえん内で行われ、新成人にはアトラクションで遊べるチケットかなにかがもらえると聞いていた。久しぶりに連絡を取る小学校の友達とも、なにに乗るかなんて話していたりした。
 
ところがその年の成人の日は記録的な豪雪だった。電車が止まる中、やっととしまえんにたどり着いたが、アトラクションには当然ながら乗ることはできなかった。雪でかじかむ手を温めながら、プール場の屋根の下で何とか同じようにたどり着いた友達と、互いの成人を祝い合った。
 
そのとき久しぶりに見たとしまえんは、雪のせいもあってか、とても寂しく、とても小さく感じたことを覚えている。
 
そうして、28歳のわたしが閉園のニュースに触れて、かつての「としまえん」の思い出を反芻したときに、 わたしの成長の一角に、としまえんでの思い出があると気づく。そして同様の思い出が、さも「伝統」のように次の世代へ受け継がれていくことを無意識に願っていた自分がいることも。
 
正直、いまの自分自身が好き好んで「としまえん」に遊びにいくことはなかったと思う。
ただ、これからも当たり前にそこに在り続け、地域の子どもたちの楽しみであり続けるのだと、これからも毎年成人した若者の門出を祝うのだと、そう思っていた。
でも、もうその「当たり前」はこの場所にはやってこないのだ。
 
淋しい。どうしようもなく、淋しい。
 
練馬で生まれ育った人のうちいくらかは「としまえん」を失うことに対して、わたしと同じような気持ちを抱いているのではないかと思う。その意味では、「としまえん」はわたしたち“練馬の子”らの母校と呼ぶべき存在だったのかもしれない。「当たり前にそこに在り続ける」ことが、安心をもたらす。そして同じ経験を次の若い世代が繰り返していく。脈々と経験が受け継がれていき、自らの礎となる思い出が、「生き続けている」ことを思い出させてくれるような、そんな存在だったのだ。
 
「としまえん」は閉園後、避難拠点や防災拠点としての機能を高めるための整備が進められる。跡地の一部にはワーナーブラザーズを誘致し、「ハリーポッタースタジオ」が整備されるという。わたしたちが知る「としまえん」は無くなってしまうが、人々にワクワクを与える施設が生み出されることで、としまえんが担ってきた役割は、形を新たに今後も受け継がれるのだろう。
 
未来の子どもたちにとって、新たな施設が同じような思い出の地になることを祈りつつ、今年の夏は、余命残りわずかの「としまえん」にかつての友人と遊びに行こうと思う。わたしたちの最後の「思い出」のために。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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